メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

新外交チームがスタート。どうなるトランプ外交?

「忠臣」ポンペオと「危険人物」ボルトンはトランプ似。三つ巴状態は継続

芦澤久仁子 アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

 トランプ大統領が、8日の午後(日本時間の9日未明)にホワイトハウスで演説し、米欧など6カ国とイランによる「核合意」から離脱すると表明した。

 この「イラン核合意」は、イランの核開発を大幅に制限する目的で2015年に結ばれたもので、トランプ大統領は、大統領選挙時から一貫して米国の離脱を主張し、その離脱決定期限を5月12日としていた。そのため、国内外の関係者らはこの数週間、まさに固唾(かたず)をのんでトランプ政権の動向を見てきたのだが、最終期日の4日前にして、米国の離脱が正式決定したのである。

 この決定によって、外交面におけるトランプ政権の強硬姿勢が、改めて明らかになったと言える。同時に、今回の決定の背景には、トランプ政権の外交政策の主要ポスト二つの顔が最近立て続けにかわり、事実上、トランプ政権の新外交チームが発足していたことがある。

 言うなれば、外交チームの顔ぶれ変更の影響が如実に現れた最初のケースが、今回の「イラン核合意」離脱決定なのである。

 では、そのトランプ政権の新外交チームとは、一体どんなチームなのだろうか?本稿では、まだ発足して間もないトランプ新外交チームの新顔を紹介しながら、これからのトランプ外交の方向性を考察してみたい。

「トランプ・ロイヤリスト」のポンペオ国務長官

 まず、4月初頭に北朝鮮極秘訪問、さらに昨日(9日)には北朝鮮に拘束されていた米国人3人の帰国を実現させ、一躍注目されているマイク・ポンペオ新国務長官であるが、3月13日のティラーソン前国務長官の解任と同時に、トランプ大統領から指名を受け、4月26日に連邦議会上院の承認を受けて、正式就任した。

 前職はトランプ政権下のCIA長官。その前は、カンザス州代表の連邦下院議員を6年間勤め、共和党内のティーパーティー派の一員として、さらに、安全保障政策面での強硬派として名を売った。例えば、米政府による人権侵害の象徴となっていた、グアンタナモ米軍基地内のテロ容疑者用収容所を閉鎖することに反対。2012年にリビア東部のベンガジにある米領事館が襲撃された際には、下院のベンガジ特別委員会のメンバーとなり、当時のクリントン国務長官攻撃の急先鋒(きゅうせんぽう)に立っていた。

 ちなみに、政界に入る前は、エネルギー関連企業の経営といったビジネス業界での経験を15年ほど積み、大学院はハーバード大ロースクール、大学はウエストポイント米陸軍士官学校を卒業。政治家としては申し分ないバックグラウンドで、高いコミュニケーション力を持つとの評判だ。

ポンペオ米国務長官拡大ポンペオ米国務長官

 2016年の大統領選の共和党予備選では、マーコ・ルビオ上院議員を当初支持したが、トランプ政権発足後は、トランプ大統領擁護の立場を徹底的に貫き(少なくとも表面的には)、特に主要外交・安全保障政策に関しての発言は、トランプ大統領とほぼ一致するものだった。

 例えば、冒頭で触れたオバマ政権が実現した「イラン・核合意」には大反対。気候温暖化対策の国際合意である「パリ協定」については、「非常に高くつく負担」と非難。イランや北朝鮮に対しては、軍事行動、政権転覆の必要性を示唆する発言をし、軍事タカ派の印象を強く残している。

 このような発言を通じて「トランプ・ロイヤリスト(忠臣)」との評判を確立しただけでなく、トランプ大統領との親密な関係も構築してきている。

 有名な話では、CIA長官時に、大統領に対しての機密情報ブリーフィングを自ら行うことで(CIA長官が自ら行うことは、それまで珍しかった)、ほぼ毎日のようにトランプ大統領と面会。このブリーフィングに触れながら「トランプ大統領の機密情報の理解度は、この分野で25年勤務したベテランと同じレベルだ」と、いかにもおべっかと取れる発言までしている。

「2番目に危険なアメリカ人」ボルトン安全保障補佐官

 次に、安全保障政策の司令塔の役割である大統領の安全保障担当補佐官に、4月9日に就任したジョン・ボルトン氏。ポンペオ新国務長官のケースと同様、前職のH.R.マクマスター補佐官の解任を受けての就任であった。

 ボルトン新補佐官は、共和党のベテラン外交・安全保障専門家で、超タカ派。2003年のイラク侵攻に代表される、ブッシュ政権の「ネオコン」外交政策の旗振り役として有名である。リベラル・民主党系の専門家達にとっては、まるで「親の仇」のような存在であるだけではなく、保守派の論客であるジョージ・ウイル氏でさえも、ボルトン氏就任に際して「2番目に危険なアメリカ人」と警告するような、議論多き人物である(ウイル氏によると、最も危険なのはトランプ大統領)。

 ボルトン氏は、イエール大学法学部を卒業後、レーガン政権の米国国際開発援助庁および司法省で経験を積み、1989年からの第一次ブッシュ政権で国務省の国務次官補(国際機関担当)の要職に就いた。第二次ブッシュ政権(2001年から)では、国務次官(軍縮管理担当)に続き、国連大使を勤めている。

ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)=AP拡大ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)=AP

 民主党政権時は、ワシントンの保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所をベースに発信を続け、近年ではフォックスニュースの専属コメンテーターとしても活躍していた。ちなみに、トランプ大統領がボルトン氏を任命したのは、フォックスニュースでのボルトン氏の発言が気に入ったからだと、報道されている。

 その発言であるが、挑発的な表現と内容のものが多く、特にイランと北朝鮮に対しては、「交渉よりも軍事力で対応」、「解決には政府転覆しかない」というメッセージを繰り返してきた。実は、筆者も、大学での「国際機関」をテーマにした授業で、ボルトン氏の次のコメントを使用している。

 「ニューヨークの国連本部は38階建である。もし、そのうちの10階分が今日消えたとしても、それによって別に何も変わらないだろう」。

 これは、国連事務総長をはじめとする国連の主要オフィスが、国連本部の最上階以下の10階分に集中することをほのめかしながら、「国連は意味が無い」と言っているのだ。国連関係者や国際協力を重視する人々に喧嘩(けんか)を売っているようなものなのだが、同時に、国連の問題をうまくいい得ており、またボルトン氏の「国際機関・国際協力は重視しない」という立場も良く示している。

 特記すべきは、このような発言を問題視し批判する人々も、ボルトン氏の実務能力に関しては高く評価していることである。「頭脳明晰」、「経験豊富」、「徹底している」「規律正しい」などが、典型的に使用される言葉である。特に、官僚たちの行動様式に習熟しているので、それを上手に利用しながら脅しと甘言を駆使して政策を実現する、と言われている。

チーム再編は「トランプ的外交」実現のため

 この二人の新顔に政権発足時からのマティス国防長官が加わり、トランプ外交の中枢をなす。さらにその周りで外交政策プレーヤーとして、ヘイリー国連大使、ペンス副大統領、クドロー国家経済会議委員長、そして、トランプ大統領の娘婿であるクシュナー大統領上級顧問らが関わることになる。

 では、今後のトランプ外交にとって、この新チーム結成は何を意味するのだろうか?

マティス米国防長官拡大マティス米国防長官

 まず、トランプ大統領に近い考え方を取る人間が相対的に増えた、と言える。ティラーソン前国務長官もマクマスター前安全保障補佐官も、対ロシア政策やイラン合意などの問題で大統領と意見が対立していたことが、頻繁に報道されていた。彼らと比較すると、ポンペオ・ボルトン両氏とトランプ大統領との考え方や発言での共通点は多い。

 また、ティラーソン氏やマクマスター氏は、影でトランプ大統領の批判(ティラーソン氏にいたっては「大馬鹿者」とまで言っている)をするなど、大統領との個人的な信頼関係を構築できなかった。そのため、トランプ大統領としては、性格的にも気が合いそうで、忠誠心も高そうな新顔2人を後任に選んだと言われている。

 ここに、自らが求める政策をもっと効率的に実現したいという、トランプ大統領の意志を見ることが出来る。その背景には、トランプ大統領が外交政策のハンドリングに自信をつけてきて、いわゆる主流派専門家の言うことを聞かなくても大丈夫だ、と考えるようになったこと。そして、11月の連邦議会の中間選挙、さらには2020年の大統領再選を視野に、自分の支持ベースが好む外交政策を実現しなければならない、という事情がある。今回の人事がメディアに「候補者トランプの再来!」と書かれるゆえんである。

「ネオコン派」復活で新たな三つ巴状態に

 とは言っても、これでトランプ外交政策チームが完全な一枚岩になるわけでもない。 ・・・ログインして読む
(残り:約3584文字/本文:約7145文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

芦澤久仁子

芦澤久仁子(あしざわ・くにこ) アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

ワシントンDC在住。東京生まれ。慶応大学経済学部卒業。テレビ東京勤務後(ニュース番組制作等担当)渡米。2005年にタフツ大学フレッチャー法律外交大学院博士課程(国際関係論)を終了し、英国オックスフォードブルックス大学(准教授)を経て2012年から現職。また、米国ウッドローウイルソン国際学術センター、東西センター、ライシャワー東アジア研究所に招聘研究員として滞在。主な研究分野は日本外交、日米関係、アジア地域機構、グローバルガバナンス。研究論文は、International Studies Review, Pacific Review, Journal of Peacebuilding and Development等の英文学術誌および編著本に多数発表。著書、Japan, the U.S. and Regional Institution-Building in the New Asia: When Identity Matter (Palgrave McMillan)が、2015年度大平正芳記念賞を受賞。

芦澤久仁子の新着記事

もっと見る