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悪質タックル問題でメディアが果たした役割とは

当事者にとってまさかの事態にまで発展させたメディア環境の変化と現状

西田 亮介 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授

鳴りを潜めていれば収束する見通しが……

悪質タックル問題をめぐる日大関係者への処分について、記者の質問に答える関東学生連盟の(左から)森本啓司専務理事、柿沢優二理事長、寺田昌弘監事=2018年5月29日拡大悪質タックル問題をめぐる日大関係者への処分について、記者の質問に答える関東学生連盟の(左から)森本啓司専務理事、柿沢優二理事長、寺田昌弘監事=2018年5月29日

 日本大学のアメリカンフットボール部選手による関西學院大学の選手に対する「悪質タックル」の問題が、連日、世界を騒がせている。当事者たちも、まさかこれほどの事態を招来するとは思っていなかったのではないだろうか。

 アメリカンフットボールは、お世辞にも日本でそれほどポピュラーな競技とはいえない。ましてやプロスポーツの世界の不祥事ではなく大学スポーツでの出来事である。残念ながら大学体育会の世界といえば、理不尽なしごきやトレーニングまがいと、就職活動などでの奇妙な特別扱いが横行していると目されてきた。通例通り、ごくごく内々で形式的に処理し、しばらくのあいだ鳴りを潜めてさえいれば、いずれ事態は収束すると見込んでいたことだろう。

 だが、実際はどうか。関東学生連盟は日大の内田正人・前監督と井上奨・前コーチを除名処分としたが、すでに事態は、大学アメフトの世界にとどまらない展開を見せている。

メディアの閾値を超えた

 被害届が受理され、警視庁が捜査を開始したことが報じられているから、民事の問題でとどまらない可能性も出てきた。日本大学の学長が謝罪記者会見を行い、これまで野球場などに掲示されてきた同大学の広告の自粛が始まっているという。「スポーツの日大」を標榜(ひょうぼう)し、2016年からは読売巨人軍のスポンサーを務めてきただけに影響は大きい。鈴木大地・スポーツ庁長官も、自ら問題解決と真相究明に乗り出す意図を幾度も言及している。

 様々な関係主体がここぞとばかりに、それぞれの思惑から本件への介入を開始している。すでに、インナーサークルとそこでの文脈やルールのみに依存した「解決」では幕引きが難しい。引き返せない段階に入りつつある。

 背景にあるのは、やはりメディアの影響だ。つまるところ、メディアの「閾値(いきち)」を超えた、とでも形容できそうである。そうだとすると、本件はなぜ、メディアの閾値を超えたのだろうか。問題の悪質の度合いはひとまず置いて、本稿では、おそらくは当事者たちの誰も思いをいたさなかったであろう現代のメディア環境と、それに適合的な三つの特徴を指摘してみたい。

視聴者の印象決めた短編動画

日大選手(右端)の悪質なタックル(動画から)拡大日大選手(右端)の悪質なタックル(動画から)

 ひとつめは、視聴者の印象を決定しうるクリティカルな短編動画の存在と流通である。

 事件が発生した5月6日直後から、YouTubeなどの動画共有サイトやTwitterなどのソーシャルメディア上では、日大の選手が関学の選手の背後からタックルをする10秒にも満たない動画が大量に流通した。この動画はアメリカンフットボ―ルのルールに疎い筆者も含め、多くの視聴者に対して、その悪質さと「なぜ、プレーと関係がなさそうなタイミングでこのような行為に及ぶのか」という違和感をもたらすものであった。

 その後、マスメディアで報じられたコピーのコピー(ネット上の動画をテレビで放映したもの〈撮り切り等〉を再度ネットに投稿したもの)や、反則と認定されて退場に至るまでをおさえたものまで、実に多様なバリエーションの動画が流通している。再生回数はまちまちで、数万回〜100万回程度再生された動画をYouTube上で数多く確認することができる。

 近年、オンラインでの情報流通と短編動画の相性の良さが、つとに指摘されている。ソーシャルメディア上で視聴者のクリックを誘発したり、「いいね」やリツイートといった受け手の反応を引き出すうえで、3分未満の短編動画や印象的な写真の添付が重要だというのである。

 情報流通における短編動画や写真といったイメージに訴えかける「非テキスト情報」の重要性は、首相官邸がinstagramのアカウント(https://www.instagram.com/kantei/)を開設したことからもうかがいしれる。多くの短編動画と写真がアップされ、安倍総理の動向と、編集された「総理の身近な日常」が演出されている。

 今回の悪質タックルに動画は、必ずしも撮影者が意図したものではないかもしれないが、まさにソーシャルメディアを起点とする現代のメディア環境ととても相性がよかった。

相互参照関係のマスメディアとネット

 ふたつめは、マスメディアとネットメディアの相互参照関係である。

 本件は、オンライン上の強い関心が、マスメディアの関心を引き寄せた。現代においても、依然として日本のマスメディアの存在感は看過できないものである。たとえば報道や教養のジャンルに分類される番組の視聴率上位には、いわゆるNHKの朝夕のニュースや著名な報道番組、週末の情報番組が顔をそろえる。いずれも、10%台の視聴率を有する番組である。

 現代は、マスメディアとネットへの関心が、相互に参照しながらいっそう強固なものになる「ポジティブ・フィードバック」を形成しがちである。社会学者の遠藤薫は現代のメディア環境の特徴を、「間メディア性」という概念を用いて説明する。それぞれのメディアは独立して存在するのではなく、相互に参照しながら、重心が移り変わっていくという。

 筆者もテレビコメンテーターの仕事を引き受けることがあるが、情報番組の制作現場では最近、ストレートニュースや自社取材の情報に加えて、「いまネットで話題の~」という枕詞(まくらことば)が定番化している。つまり、ネット上の話題と動向に、マスメディアが強い関心が向けているのだ。

 本件もしかり。前述の動画も、ネットで広く共有された話題がマスメディアのコンテンツとなり、マスメディアのコンテンツとなったことでますます話題になり、必ずしも合法とはいえないが、再び動画共有サイトやソーシャルメディアに転載され、話題になっている。たとえばYouTubeやソーシャルメディアのなかで、「テレビで放送された、危険タックルのシーン」とその複写をいくつも見つけることができる。

 日大のタックルをした学生本人の記者会見と、アメフト部の監督、日大の学長ら関係者の記者会見の様子もそうだ。ネットメディアは時間の制限が緩いので、記者会見の模様を生中継でそのまま配信する。時間の制約が厳しいマスメディアは、もっとも重要か、もっとも物議を醸しそうなシーンを編集してダイジェストで放送するが、このダイジェストで関心を抱いた視聴者は、オンラインのアーカイブでさらに詳しい情報を探しただろう(筆者もそうだ)。

 メディアの特徴に応じた情報が流通するのみならず、両者が補完関係を形成しながら視聴者の関心に応えているかたちだ。 ・・・ログインして読む
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筆者

西田 亮介

西田 亮介(にしだ・りょうすけ) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授

1983年生まれ。慶応義塾大学卒。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門は情報社会論と公共政策。著書に『ネット選挙』(東洋経済新報社)、『メディアと自民党』(角川新書)、『マーケティング化する民主主義』(イースト新書)など。

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