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女性議員を増やすための“秘策”あり

候補者男女均等法が施行。女性議員が圧倒的に少ない日本の現状は変わるか?

森 健 ジャーナリスト

通ってよかった。だけど……

候補者男女均等法が成立し、国会議事堂を背に記念撮影する女性たち=2018年5月16日、東京都千代田区候補者男女均等法が成立し、国会議事堂を背に記念撮影する女性たち=2018年5月16日、東京都千代田区

 通ってよかった──。

 5月17日の朝刊1面トップに並ぶ文字を見て、そう喜ばしい感慨を抱いた人は少なくないだろう。だが、同時に、小さな疑念をもった人もいたのではないか。すなわち、本当にこの法がしっかり審議されたのだろうかと。

 候補者男女均等法こと「政治分野の男女共同参画推進法」のことだ。

 5月16日の参院本会議、候補者男女均等法は全会一致で可決、成立した(同月23日に公布・施行)。

 同法は女性の議員を増やすことを目的として、選挙(衆院選、参院選、地方議会選挙)に際し、政党と政治団体に対して、男女の候補者数を「できる限り均等」にすることを規定したものだ。

 ただし、不十分な点もあった。罰則がなく、数値目標についても「自主的に取り組むよう努める」と努力義務規定にとどまったことだ。

 そこで、こう思った人もいるだろう。本当に女性議員を増やすことなどできるのだろうか――。

 それを実現することは可能だ。だが、まずは現状を概観してみたい。

国際的にも際立つ女性議員の少なさ

 日本の女性の議員が少なさは、国際的にも際立っている。

 列国議員同盟(IPU)の調べでは2018年現在、193カ国中日本の女性議員(衆議院)の比率は10.1%で153位である。16位のフランス(39%)、41位の英国(32%)、70位の中国(24.9%)、102位の米国(19.5%)などの後塵を拝すのはわかるとしても、2016年に民主化運動で政権が代わったミャンマー(152位)より低く、OECD(経済協力開発機構)の加盟国では最下位である。

 1990年代はもっとひどく、90年代は衆議院議員だった総数814人のうち女性はわずか33人、4.1%という少なさだった。

 こうしたひどい状況を改善すべく、超党派で2015年に立ち上げた議員連盟が議員立法で提出したのが、今回の候補者男女均等法だった。

自民党の女性議員を代表した野田聖子さん

参院本会議で男女共同参画推進法が可決、成立し、頭を下げる野田聖子総務相兼男女共同参画担当相(手前)=2018年5月16日参院本会議で男女共同参画推進法が可決、成立し、頭を下げる野田聖子総務相兼男女共同参画担当相(手前)=2018年5月16日

 成立に際して、超党派議連にも関わっていた、女性活躍担当大臣でもある野田聖子総務相は充実した面持ちで記者団に答えていた。

 「この法律によって日本の政治が大きく変わると期待し、信じている。有権者に、政治は男性だけの仕事ではないということをあらためて伝えることで、立候補をためらっていた女性が勇気をもって立ち上がることを期待したい」(NHK)

  そう期待を抱くのも無理はないだろう。

  野田氏は、細川護煕連立政権ができることになった1993年7月の衆議院選挙で出馬し、初当選した。その当選には大きな意義があった。

 <当時の野田の公約は「自民党から女性議員を」だったが、彼女の当選まで衆議院で自民党は1980年以降13年間女性議員がゼロであった>(『日本の女性議員』)

 いわば、野田氏は自民党で女性を代表し、女性議員を背負ってきた議員だった。

関心の優先度が異なる男女の議員

 実際、2016年秋、筆者が取材に立ち会った際、野田氏は候補者男女均等法が成立すれば社会は大きく変わると強い期待を抱いていた。

 「日本では、法律を作る担い手である国会議員のおよそ9割が男性です。女性の深刻な社会問題について、語られてはいても抜本的に手立てできないのは、圧倒的に女性側の立場に立ってくれる議員が少ないから。非正規雇用が多いのも、低賃金なのも 女性だし、シングルマザーが貧困になるのも日本の特徴で、少子化が問題だと言いながら、一人で育ててくれているお母さんもそのお子さんも貧困にさせる国ってどうかと思いますよね」(ヤフーニュース特集)

 女性議員が増えれば政治が変わるという予想は、けっして根拠のない話ではない。

 2012年に東京大学谷口将紀研究室と朝日新聞が行った調査でも、男性議員と女性議員では政策に対する関心の優先度合いが異なっていることが明らかにされている。

 男性議員が重視する政策は高い順から「外交・安全保障」(39%)、「雇用・就職」(31%)、「年金・医療」(29%)と続くが、女性では「震災復興・防災」(37%)、「教育・子育て」(32%)、「雇用・就職」(32%)となっている。また原発への姿勢でも、女性のほうが男性よりも反対姿勢が強い。

 東日本大震災の翌年ということもあり、震災関連が高くなっているが、女性のほうが総じてくらし関係に関心が高いのは、他の年のデータからも共通の傾向である。

 つまり、女性議員が増えれば、国政での議論や目指すべき政策の方向性において女性の視点が強くなり、結果として、女性の関心に近い政策が採用されていく可能性が高まるかもしれない、ということだ。

少数政党ほど高い女性議員の比率

 そこで問題となるのは、候補者男女均等法(5月23日公布・施行)がどれくらいの実効性があるかだ。

 同法が定めたのは、国政選挙と地方議会選挙で「男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指す」ということ。政党や政治団体に努力義務を定めている。

 そもそも、現状では各政党にどれだけの女性議員(衆参)がいるのだろうか。

 女性が多い割合順にあげると、自由党が2人で33.3%、共産党が8人で30.7%、社民党が1人で25%、そして立憲民主党の18人で24.6%と続く。議席の少ない少数政党では、女性の割合が高くなっている。

 問題は、政権与党の自民党だ。総議席数で405人(衆院:283人、参院:122人/計405人)もいながら、女性議員は41人、わずか10.1%にとどまっているのだ。実際、東京新聞によれば、昨年秋の衆院選でも、自民党が擁立した女性候補者の割合は約7.5%と10%にも達していなかった。

 女性をほとんど候補者にしてこなかった。それが自民党なのだ。

自民党で女性議員が増える可能性は低い

 同法の超党派議連の会長だった中川正春元文部科学相は、同法成立時、「(男女が)フィフティ・フィフティという目標に向かう出発点だ」(朝日)と語った。

 だが、そんな発言のあとで、見逃せない指摘が議連の中からあった。同議連の幹事長、土屋品子・自民党女性活躍推進本部長がこう述べていたのだ。

 「(小選挙区の空きが少ないとして)現職議員を外してまで女性議員を増やすという状況ではない」(同)

 別言すれば、国会議員の現職405人は今後の選挙でも外さないで、候補者を調整するということだ。とすれば、選挙になったとしても、9割の男性議員はそのまま候補者になるということであり、女性の存在感が増すことはない。

 自民党は、60%を占めている衆院、50%を超えている参院ともにいま、過去最大に近い議席数を持っている。新規で女性候補者を検討しようとすれば、いまは野党が有している議席を奪って、という話になる。それすら、候補者を最大に見積もった場合である。

 その状況を考えれば、自民党で女性候補者が新規に大勢増える可能性は非常に低いと言わざるを得ない。

審議の間も繰り返されたセクハラ発言

 もう一歩踏み込んで言えば、こんな想像もできる。

 自民党の議員の多くは、既存の男性議員が排除される可能性が少ないのを理解したうえで、また、同法が理念法であって罰則規定がないことを確認したうえで、法案が審議されることを認めたのではないか――。

 とすれば、法案の審議にあたり、与野党の議員の間で、どれだけ真剣に議論を尽くしたのか、どうしても疑問が残る。

 そうした疑念が晴れないのは、この法案が審議される間にも、国会議員から女性に対するセクハラ発言が繰り返されたためだ。

 4月20日には、自民党の長尾敬衆院議員がセクハラ問題で抗議する女性議員に対して、「セクハラとは縁遠い方々です」と侮辱まがいのセクハラ発言をした。その2日後には下村博文・元文部科学相が講演の場において、3月に発覚した福田淳一・前財務事務次官のテレビ朝日の女性記者へのセクハラ発言について、「(福田氏は)はめられた。隠しテープでとっておいて、テレビ局の人が週刊誌に売るってことは、ある意味犯罪だと思う」とセクハラ自体を認めず、あたかも記者が悪かったかのような暴言を吐いていた。

  だが、なによりもひどかったのは、内閣の要である麻生太郎副総理・財務相の発言だろう。麻生氏は5月4日、外遊先のフィリピンで福田前次官の件に触れ、「セクハラ罪という罪はない」「殺人とか強(制)わい(せつ)とは違う」などとセクハラを肯定するような発言を行い、その後も同じ主張を繰り返した。

 いずれも、女性というジェンダーについての理解があれば、決して出てこない発言ばかりだろう。こうした発言から類推されるのは、多くの自民党議員には、女性に対する包括的な理解(性差による男女の違い、性に関する身体や精神への理解、人生における性や生殖との関係、仕事と生活における姿勢での男性との違い……)がないということに他ならない。

 自民党内で候補者男女均等法について議論があり、それなりに理解が進んでいれば、女性を議会で増やすことには意味があり、女性議員が増えることで社会が変わることにまで想像が及んだだろう。

 しかし、上記のような低俗な発言からうかがえるのは、女性が関わる社会というものをまったく想像できていない、議員たちの実態である。

女性に社会開く政策打ち出したノルウェー

 1978年、世界でいち早く男女平等法を制定したノルウェーは、その後、多くの女性に社会を開いていく政策を、次々と打ち出している。

 1986年には、内閣は組閣にあたって40%を女性にすることが規定された。2004年には会社での役員クオータ制(男女の一定数の割り当て)が実施された。1993年には父親が4週間育児休暇をとれる「パパ・クオータ」が導入されたほか、女性が働くための保育制度の整備で「待機児童ゼロ」、女性が指導者層になるためのプログラムの設定など、女性が社会に出やすく、男性にも理解を得やすい、多くの先進的な取り組みを実施してきた。

 それも元はと言えば、女性が政治の場に多く参入したことで、様々な公正な政策が採用できたからだろう。まずは、立法当事者の一定数が変わらないことには、変化は生まれないのだ。

 そんなノルウェーを鑑(かがみ)として、今回の日本の候補者男女均等法を見てみよう。

 この法が成立できたのは、女性にとっての公正な社会の実現のため、まぎれもなく前進の一歩だろう。とはいえ、それは前回とほとんど変わらないような候補者選びができるよう、「努力義務」にとどめたからこそ、成立したとも言える。自民党という政党が何も変えようとしなければ、同党が政権与党であり続けるかぎり、男性優位の候補者選定と男性優位の議席占有率は変わらないだろう。

どうすれば女性議員を増やせるか?

 こうした世界、日本の現況を見たうえで、冒頭の問いに戻る。

 それは、どうしたらこの法が見越したような変化、すなわち女性議員の増加とそれによる社会の変化を実現できるのか、ということだ。

 先に示したように、自民党の方針を見るかぎり、選挙で現職を重用する方式では、この先の選挙で女性議員が増えるようなことはきわめて難しい。自民党衆院選の比例は73歳が上限とされているが、候補者の“定年”を待っているようでは、いつまで時間がかかるかわからない。

 では、女性議員が飛躍的に増えることは難しいのだろうか?

 もっとも早く実現する方法はある。

 それは、現職の議席が多くない党、すなわち野党が女性候補者を数多く立てること、そしてその女性候補者が多数、当選することだ。

 それによって政権交代ができるほど女性議員が増えれば、それだけで日本の政治はガラリと変わるはずだ。

変化を起こせるかは、野党の取り組み次第

 これはけっして非現実的な話というわけではない。

 たとえば、女性候補者は、公約も女性の視点を生かした、女性の関心に近い政策を並べるであろう。教育、子育て、雇用、就職といった女性が共感しやすい政策、あるいはセクハラや性にまつわる問題など、男性では想像が及ばない政策を打ち出すかもしれない。もしそうなれば、男性視点の自民党の政策とは、おのずと対立軸が生じる。それによって、女性の有権者を引きつけ、政権交代への足場を固めていくのである。

 同法の実現にアドバイザーとして関わってきた三浦まり・上智大学教授によると、女性議員が30%を超えると「クリティカル・マス(決定的多数)」となり、政治文化の変化を促すという。こうした状況を実現するには、野党が女性候補者を多数擁立し、彼女たちが議会の30%を超えるほど当選することが、最短の道であろう。逆から言えば、女性議員を誕生させるような変化を起こせるかは、野党の取り組みにかかっているということでもある。

 2019年は統一地方選挙と参院選が控えている。そのときまでに野党や有権者がどこまで意識を変えられるか。われわれが新しい時代を迎えられるかどうか、まさに民意が試されることになる。