新幹線の弱点をつかれた今回の事件。東京五輪を見据え、テロへの抑止力をどう高めるか
2018年06月26日
6月9日、東海道新幹線の車中で刃物を持った男に切りつけられて1人が死亡、2人が重傷を負う事件が発生しました。この事件はまさに起こるべくして起きた事件だと思います。
今から10年前、2008年の「洞爺湖サミット」を控えて、当時東京地検公安部長として首都の治安を守る仕事をしていた私は、JR東海の新幹線関連施設を視察させてもらったことがあります。
当時、テロの対象として、原発と新幹線が危険だと考えていました。原発のテロ対策もお寒い限りですが、新幹線は、なお一層、テロに対する抑止力が極めて弱いとの考えを抱いていました。
高速で走行中の新幹線で爆発が起きれば人的な被害は計り知れません。また、日本が安全技術を誇る新幹線は、テロリストの格好のターゲットになると思っていたからです。
案内してくれた同社の幹部は、「仮に一つの新幹線の列車が爆破され、破壊されても、後続の次の列車がそこに突っ込むことはありません。前の列車が爆破された段階でブロックごとに管理されている電源が遮断され、次の列車がすぐにとまるからです。ただ、爆破に伴って多数の死傷者が出ることは避けられません」ということと、「空港並みの手荷物検査と金属探知機を新幹線の駅に設置することは不可能です」ということを強調しました。
新幹線による高速移動による利便性に重点を置きすぎるその姿勢には、危機意識の乏しさを感じ、私は思わずムッとして「そんなことでいいんですか」と声を荒げてしまった記憶があります。
今回の新幹線車内の殺傷事件を機に、「乗客全員は無理でも何人かに1人でもアットランダムに抜き打ち検査をしてはどうか」という議論が出始めていますが、10年前から抜き打ち検査でも始めていれば、今回のような不幸な事件は防げた可能性が相当あります。
抜き打ちといっても「いつ自分が検査されるかわからない」と思わせるような頻度でやらなければだめです。何百人に1人ぐらいの頻度なら、検査を実施していることが周りには分からないし、そもそもテロリストはそれならば「一か八かやってやろう」と思うでしょう。
ですから、検査は、目に見える形で行わなければいけません。少なくとも、10人に1人ぐらいの頻度なら、自分の前後で検査されるのを目の当たりにしますから、「発覚の危険性が高い」と感じ、抑止力が働くはずです。
衆議院議員在任中の昨年4月、当時所属していた自民党の「治安・テロ対策調査会」の会合に出席したことがあります。JR東日本やJR東海などの鉄道会社の幹部を呼んで、東京オリンピック・パラリンピックに向けてテロ対策としてどのようなことができるかを聞いたのですが、各社の回答は、ごみ箱を透明化する、防犯カメラを増設する、などの従来やってきたことの延長線のことばかりでした。
その場で、私は、既に報道されていた情報である「爆発物を持って通ろうとすると微量の爆薬を検知して警報が鳴る自動改札機の開発を進めているメーカーがある」という話の実現性について質問をしました。しかし、これに対しては、「女性の化粧品にも反応してしまうなど精度の面でまだ課題がある」という否定的な意見が出て、話はそれで立ち消えになりました。
結局、民間事業者である鉄道会社やメーカーに、多大な費用と労力を掛けざるを得ないテロ対策用の新機器の開発などを押し付けているだけでは、その開発は困難です。民間任せにしている限り、だれも旗振り役がいないのです。
それならば、政府が多額の予算を付け、官民を挙げて技術者を結集し、爆発物や凶器になり得る金属だけを検知する機能を内蔵した自動改札機の開発などを、至急目指さなければいけません。まさに日本が誇る科学技術を結集するのです。
テロ対策にとって
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