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韓国は外国人に門戸を開いた①「労働政策」

日本を手本にしていた隣国は、今やはるか先を走っている

岩城あすか 箕面市立多文化交流センター 館長

拡大ソウルにある「外国人労働者支援センター」のHPより。就労目的で渡韓した外国人労働者の人権尊重及び福祉増進を目的とし、2014年12月に労働部が設立した。相談・教育(韓国語やPCスキルなど)・医療・イベントなどの情報が10カ国語で提供されている

外国人労働者受け入れ、立ち遅れる日本

 安倍内閣が6月15日に閣議決定した「骨太の方針2018」によると、日本政府は深刻な人手不足から「労働力としての外国人受け入れ」を大幅に進めるつもりのようだ。介護・農業・建設・造船・宿泊の5分野で新たな在留資格を新設して単純労働者を受け入れる一方、最長5年の在留期間中は家族の帯同は認めず、「移民受け入れ政策」ではないとしている。

 今回初めて「滞在中に高度な専門性を身に付ければ在留期間を設けず、滞在家族の帯同も可能とする」制度への移行を検討することが明記されたのは注目に値する(2018年6月6日 西日本新聞「外国人就労資格を創設 介護や農業など5分野想定 25年に50万人確保へ)。

 とはいえ、日本の技能実習制度は「現代の奴隷制度」と呼ばれ、国内の人権団体のみならず、米国務省(人身取引報告書)やILOの強制労働に関する専門家委員会、国連(自由権規約委員会)など国際社会から常に批判されてきた。法体系も含めた構造的欠陥を克服しないまま、安易に対象職種を拡大したり、実習期間を延長したりすることは、さらなる混乱を生じさせる恐れがある。

 では、どうしたらよいのか。隣国である韓国は、日本と同様、社会や文化の基盤として強固な民族意識を抱えているにもかかわらず、2000年代初頭よりダイナミックな移民政策の転換をおこなってきた。参考になる点が非常に多く、3回にわけて紹介したい。

韓国は当初、日本を手本にしていた

 韓国は1980年代まで労働力の送り出し国だったが、1990年代以降、外国籍住民の増加が急激に進んだ。その多くは外国人労働者と、農村地方へ嫁いできた国際結婚による移民である。

 労働力不足の深刻化を踏まえ、日本の外国人施策に倣って出入国管理を強化するとともに、日本の技能実習制度を参考につくった「産業研修制度」(3年間を越えない範囲での「研修」であり「労働者」とは認めない受入制度)を1993年よりすすめてきた。

 この制度は施行後からさまざまな矛盾を引き起こした。「研修」という建前的な目的が「単純労働」の実態と乖離していた。労働者としての身分が認められておらず、職場移動の自由もなかった。嫌だったら逃げるしかないという、人権侵害を引き起こしてきたのである。

 さらに、未登録外国人(オーバーステイ等の非正規滞在者)の労働者の方が職業選択の自由があり、賃金も高いという状況も生じた(日本も「技術移転のための研修」という目的と労働実態との乖離や職場移動の選択肢のなさ、監理団体や本国の送り出し機関による中間搾取や人権侵害により、同様の矛盾をずっと抱えている)。

拡大来日した韓国の盧武鉉大統領=2003年6月6日、東京・元赤坂の迎賓館

急激に進んだ多文化政策

 これら急増する外国人労働者、結婚移民者、未登録外国人をめぐる課題を解決し、彼らの人権を保護するための法整備は、盧武鉉政権下(2003~2007年)の「多文化政策」で急展開を見せた。

 まずは2003年7月に「外国人労働者雇用などに関する法律」が制定され、当時外国人の7割以上を占めていた非正規滞在者を合法化する大規模な措置がとられ、2004年8月には「雇用許可制」が開始された。これは国家間をまたぐ「ハローワーク」のようなシステムで、労働者を国内で確保できない韓国企業が政府(雇用労働部)から雇用許可を取得し、合法的に外国人労働者を雇用するものだ(韓国人との均等待遇が保障され、労働関連法も適応される)。

 その後、移行期間を経て2007年に「産業研修制度」は完全に廃止された。

 韓国の「雇用許可制」は、“非専門就業ビザ(単純労働のビザ)”による「一般雇用許可制」と、中国や旧ソ連地域の韓国ルーツのある外国人を対象にした“訪問就業ビザ”による「特例雇用許可制」の2つがある。

 一般雇用許可制は、ベトナム、フィリピン、タイ、モンゴル、インドネシアなど16か国との間で二国間協定(MOU)を締結し、製造・農畜産業・漁業・建設業・サービス業の5業種を対象に受け入れている(2017年3月末現在で26万5198人)。特例雇用許可制は、中国やCIS諸国など11カ国の韓国系外国人(在外同胞)のためにつくられた制度で、サービス業など38業種を対象とし、事業場移動の制限がないなど、ゆるやかな条件で受け入れられている。

 一般雇用許可制は、以下の4つの基本原則から成り立っている。

(1)韓国人労働者との均等待遇(差別禁止)の原則

 この制度の根拠となる「外国人勤労者雇用等に関する法律」は「使用者は外国人労働者であることを理由に不当に差別的処遇をしてはならない」(第22条)と定めている。これにより、韓国人と同様、労働基準法、労働組合法、最低賃金法、産業安全保護法等や社会保障制度(国民年金、健康保険、雇用保険等)が全面的に適用される。

 ただし、実態としては外国人のための労働組合の結成はごく限られている。ハンギョレ新聞の記事によると、2005年に結成された「移住労組」は当初は「政治的である」ことを理由に設立が許可されず、最高裁で認められるまで8年を要したという(2015年8月21日、ハンギョレ新聞『10年に及ぶ外国人「移住労組」設立の闘い…韓国でついに合法化』

 これらの仕組みは、外国人労働者の雇用を最小限にとどめるための規制的役割を果たしており、韓国人労働者と競合関係にならない制度設計になっているという。

拡大韓国の「移住労組」のみなさん=2015年8月21日ハンギョレ新聞

 話が少しそれるが、外国人の差別を禁止する法律が制定されていない国は、OECD諸国では長い間日本と韓国だけである。しかしながら、韓国は多文化共生施策に関連する法整備が日本と比べて格段に整っており、さまざまな法体系の中で外国人への差別的待遇が禁止されている。また、政府から独立した機関として2001年に設置された「国家人権委員会」では、移住労働や結婚移住により韓国社会で暮らす外国人の人権の保護・促進を重点課題の一つにしているという。

 一方の日本は、「ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)」が、在住外国人を守る国内唯一の法律として2016年6月に初めて施行されただけ、という状況である(しかもこの法律は禁止事項や罰則規定もない、理念法に過ぎない)。世界一高齢化が進む中で海外から労働力を確保したいのなら、彼らを受け入れる体制をあらゆる方面から整えることが急務だ。

(2)韓国人優先雇用の原則

 外国人労働者の受け入れを希望する企業は、まず韓国のハローワークにあたる「雇用安定センター」に求人を申し込まなくてはならない。その後7日たっても必要な人材が見つからなかったときにのみ、外国人雇用許可の申請が可能になる。

 また、外国人が就業できる業種と事業所の規模にも制限がある。例えば製造業では従業員が300人以下の中小企業のみ雇用が許されている。さらには、毎年労働市場の動向を判断し、上記5業種別に、受入外国人労働者の総人数(クォータ)を調整している。日本では認められていない事業所の移動は、原則3回までと制限されてはいるが、可能である(本人の責でない場合はカウントされない)。

(3)短期ローテーション(定住化防止)の原則

 雇用許可制を通して入国する外国人労働者は最長3年滞在が可能になるが(再雇用時は1年10か月まで延長できる)、雇用契約期間は1年ごとに更新しなければならない。

 しかしながら、「再入国できない不安」から非正規滞在化する外国人が増えたため、韓国語の能力試験合格など、一定の条件を満たせば一時帰国後に再入国が可能になり、さらに滞在を4年10カ月延長できる「誠実外国人勤労者再入国制度」が設けられた。定住化防止をうたいながら、再入国と最大9年8カ月までの長期就労が可能になるという矛盾が韓国でも生じている。

(4)外国人労働者の受け入れプロセスの明確化

 以前の「産業研修生制度」では、民間事業者・ブローカーによる不正が蔓延し、外国人労働者は送り出し機関への高額の負担金や事業場での人権侵害(暴力、安い賃金での長時間労働などの不当な待遇・差別、パスポート取り上げ等)が問題となっていた。

 このため、労働者送り出し国16カ国における送り出し機関と韓国側の受け入れ機関はともに政府系機関とし、非営利セクター同士によるマッチングをおこなっている。もし協定違反があった場合は、更新の停止やクォーターの縮小などのペナルティ措置が取られる。

「社会の一員」として受け入れる姿勢を

 このように、韓国の雇用許可制は従前の産業研修制度の問題点に向き合い、度重なる改善がなされてきた。韓国人と賃金格差があり、農畜産業で働く外国人労働者には労働基準法が適用されないなど課題がない訳ではないが、日本の技能実習制度よりはるかに優れている(実際に国連やILOからも評価されている)。

 一方の日本では、労働者としての権利が認められていない中、本国の送り出し機関に支払う費用は韓国の5~10倍にも及び、ブローカーに借金せざるを得ない。事業所の変更もできない点も「魅力的な出稼ぎ先」とは言い難い状況である。

 今回の「骨太の方針2018」をみると、日本は韓国の現行制度に近づけようとするものの、彼らを同じ社会を構成する一員として受け入れる根本的な姿勢がまったく感じられない。

 外国人材に求める技能水準については「ある程度の日常会話ができ、生活に支障がない程度」とされているが、その日本語をどこでどう学んでもらうかの記述は一切ない。「日本に来たのだからそのうち自然に話せ、読み書きもできるようになるだろう」との憶測ならば、的外れも良いところだろう。 ・・・ログインして読む
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筆者

岩城あすか

岩城あすか(いわき・あすか) 箕面市立多文化交流センター 館長

大阪外国語大学でトルコ語を学んだ後、トルコ共和国イスタンブール大学(院)で学ぶため、1997年~2001年イスタンブールで過ごす。通訳やマスコミのコーディネーターをしながら、1999年におきた「トルコ北西部地震」の復興支援事業にもボランティアとして関わる。現在は(公財)箕面市国際交流協会で地域の国際化を促す様々な事業に取り組むほか、重度の障碍者のみで構成される劇団「態変」の発行する情報誌「イマージュ」の編集にも携わっている。

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