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参院選挙制度改革の納得しにくい理由

気鋭の選挙プランナーが読み解く自民党の「党利党略」による参院議席6増のおかしさ

松田馨 選挙プランナー

いっそう複雑になった参院の選挙制度

参院の議員定数を6増やす公職選挙法改正案が可決された参院本会議=2018年7月11日拡大参院の議員定数を6増やす公職選挙法改正案が可決された参院本会議=2018年7月11日

 7月11日の参院本会議で参議院の議員定数を6増やし、比例区に特定枠を設ける自民党の公職選挙法改正案が、自民、公明両党などの賛成多数で可決されました。今後、衆議院で審議されますが、今国会中の成立は確実です。

 この参院選挙制度改革については、自民党の小泉進次郎代議士が批判的なコメントを出したこともニュースになっていましたが、衆議院でも都道府県や基礎自治体の議会でも定数削減が進むこのご時世に、なぜ参議院では「定数増」なのか、と疑問を抱かれる方も多いと思います。日本の選挙制度は結構ややこしい。そこには実はさまざまな理由があるのですが、面倒くさくて、結局、政治家任せにする人も少なくないのではないでしょうか。

 私は選挙プランナーという仕事をしています。政治家の選挙のお手伝いをするのが主な仕事ですが、同時に、できるだけ多くの人に選挙に関心をもってもらい、投票にいってもらいたいとも考えています。そこで、今回導入される「特定枠」などで複雑さを増す参院選挙制度について「基本のき」から解説し、この改正のどこに問題があるのか、あらためて考えてみたいと思います。

参議院と参院選の概要

 議員定数については憲法43条第2項に基づいて、公職選挙法により定められます。参議院についても以下のような変遷があり、実は2000年台に10議席削減されていました。今回は1970年の沖縄県の本土復帰に向けた改正以来、初めての議席増になります。

1947年:250議席 第1回選挙
1970年:252議席 沖縄選挙区追加(+2)
2001年:247議席 定数削減(-5)
2004年:242議席 定数削減(-5)
2019年:248議席 定数増(+6)

 参議院は衆議院とは異なり解散がありません。任期も6年と長く、3年ごとに定数の半数が改選となります。衆議院は全員が改選となりますので「衆議院議員総選挙」となりますが、参議院は「総選挙」とは言いません。半数改選なので「参議院議員通常選挙」が正式な名称となります。

 参議院選挙は各都道府県の区域を選挙区の単位とした「選挙区選挙」と、全国を単位とした「比例代表選挙」があります。有権者は衆議院選挙と同じく「選挙区」と「比例代表」それぞれに投票するため、1人が「2票」を投票することができます。

 ただし、衆議院選挙と異なるのが比例代表選挙です。政党名ではなく、その政党から立候補している候補者の名前を書いても党への一票となります。衆議院の比例区の場合は政党名しか書けませんが、参議院の全国比例区では候補者名または政党名を書いて投票することができます。

参院選の投票の仕組み(総務省HPから)拡大参院選の投票の仕組み(総務省HPから)

 また、衆議院選挙は「拘束名簿式」といって政党が名簿順位を決めることができるのに対して、参議院選挙では「非拘束名簿式」といって政党が名簿順位を決めることはできません。個人名での投票を多く集めた人から名簿順位が上がる仕組みを採用しています。ですから参議院比例区の候補者は「投票方法の説明」という体裁で「2枚目には個人名を」と呼びかけるのが基本となっています。

参院選の投票の方法(自民党 片山さつき議員のHPより)拡大参院選の投票の方法(自民党 片山さつき議員のHPより)

 ちなみに、日本の選挙制度において、最も広い選挙区と多数の有権者を対象にしているのが参議院選挙の全国比例区です。

なぜ埼玉選挙区の定数を2増やすのか

 前置きが長くなりましたが、今回の定数増は「一票の格差」の問題が背景にあります。そもそも「一票の価値」に差があることが問題なのですが、この「一票の価値」は、基本的には「議員1人あたりの有権者数」を基準に求められます。

(※議員1人あたりの有権者数=選挙区の有権者数÷議員の定数)

 総務省が11日に住民基本台帳の人口調査結果を発表していますが、朝日新聞がこれをもとに参院選の現行制度での「一票の格差」を試算したところ、最大3.087倍だったという報道がありました。(「参院一票の格差、最大3.087倍 住基台帳から試算」2018年7月11日付朝刊)

 議員1人あたりの人口が最も少ないのは福井県(約39万人)、最も多いのは埼玉県(約120万人)です。福井県の有権者の一票は、埼玉県の有権者に対して3.087倍の価値があると考えられます。

 こうした差は憲法が保障する「法の下の平等」に反するとして、衆参の国政選挙において、選挙の無効を求める訴訟が繰り返し提起されています。そのなかで最高裁は格差として許容できる基準を「参議院は最大3倍」としています。3倍以内に収まるようにするために、いま定数6(改選3)となっている埼玉県の議席数を2増やして8(改選4)にするという改正案が出されたのです。

なぜ比例代表の定数を4増やすのか

 それでは、比例代表の定数の4増はどういう理由からでしょう。これもまた、背景にあるのは「一票の格差」の問題です。

 前回2016年の参院選から、一票の格差を是正するために人口の少ない「徳島県と高知県」「島根県と鳥取県」が二つで一つの選挙区になってしまいました。これを「合区」といいます。この合区によって、これまでは一つの県から最低一人の参院議員が選挙ごとに選ばれていたのが、二つの県で一つとなり、議員が一人、“失職”することになったのです。その救済措置として、政党が事前に定めた順位に従い当選者を決める「拘束名簿式」を一部に導入する。それが「特定枠」の設置です。

 参議院の全国比例区は「非拘束名簿式」です。つまり、立候補者個人の得票数によって単純に順位が決まり、多くの票を得た人から当選していきます。これに対し、衆議院の比例代表でも採用されている「拘束名簿式」は、政党が候補者の順位をあらかじめ決める制度です。これを「特定枠」として、各党が名簿順位上位2名までを指定できるようにするというのが今回の改正案です。

 「特定枠」によって、自民党や立憲民主党などの政党で「名簿1位・2位」となれば、ほぼ100%当選できるようになります。なぜわざわざこんなややこしい制度を導入しようとしているのかというと、先述した合区で議員がいなくなる地域への救済措置なのです。

 たとえば「島根・鳥取選挙区」で島根県が地盤の候補が立候補するとすれば、鳥取県が地盤の現職は選挙区で立候補できないため、比例区にまわって「名簿1位」に記載してもらいます。当選が保証され、党の地域支部の不満も収まるというわけです。定数を4増やすのは、参議院は半数改選なので、改選数で2×2=4増だからです。その結果、合区の二つの県から1人ずつ当選させることができるようになります。

なぜ、今国会で改正するのか

参院本会議で公職選挙法改正案が採決される直前に退席する立憲民主党などの議員ら=2018年7月11日拡大参院本会議で公職選挙法改正案が採決される直前に退席する立憲民主党などの議員ら=2018年7月11日

 次に今国会での改正を急いだ理由について考えます。来夏の参院選を前に時間がないというのがその理由ですが、背景には安倍晋三首相が進めようとしている憲法改正との関係がありました。

 公明党の石田祝稔政調会長は「国会議員を全国民の代表という位置付けから都道府県の代表(に変える)という、憲法改正というところにちょっとこだわりすぎたのではないか。もうちょっと早く、憲法改正とは別の自民党の考えを早くまとめておいていただけたらという気がする。」と指摘しています。

 自民党が憲法改正にこだわって参議院の選挙制度改革の議論を進めず、いよいよ間に合わないとなったら自分たちに都合のいい定数増の案を作成し、強引に可決したというわけです。これは野党が反発するのも当然だと思います。

 衆議院とは異なり参議院は3年ごとに選挙が行われるのがわかっているわけですから、早くから議論をすすめ、改革をすすめていくのが最大与党である自民党の責任だったのではないでしょうか。

 日本維新の会の松井代表は、「安倍総理は(国会答弁で)『議員の身分にかかわることについては各党、各会派の幅広い合意が必要』とずっと言っていましたよ。単独会派の要望で強引に数の力で押し通すというなら、今まで自民党総裁として総理が言ってきた話が全く食い違うことになると思います。この辺のおかしさを徹底的に追及していきたい」と厳しく批判しています。(「参院6増の自民案『豪雨のどさくさ紛れの横暴』松井氏」2018年7月10日)

 今回の参院選挙制度改革をめぐっては、公明党をはじめ野党からもブロック制の導入などの対案は出ていましたが、ほとんど議論されることはありませんでした。自民党がエラーにエラーを重ねたようなもので、最大与党としてはお粗末と言わざるを得ません。

強豪チームに都合のいいルール改正

 今回の参議院の選挙制度改革の顚末(てんまつ)を見る限り、今の国会は、選挙制度改革の議論を進めるに値する状況にないと言わざるを得ません。 ・・・ログインして読む
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筆者

松田馨

松田馨(まつだ・かおる) 選挙プランナー

1980生まれ。2006年7月の滋賀県知事選挙以降、地方選挙から衆議院総選挙、参議院通常選挙まで100を超える選挙に携わる。勝率は7割を超える。新聞や週刊誌上において国政選挙(衆議院・参議院)や都議会議員選挙の全議席当落予想を担当するなど、過去の選挙データと最新の情勢調査を組み合わせた当落予想の精度に定評がある。選挙管理委員会主催の勉強会や投票啓発イベントへの出演など、講演実績も多数。若年層の投票率向上を目指し活動する団体への協力や、ネット選挙運動解禁に向けたキャンペーン「One Voice Campaign」発起人など、投票率向上に向けた活動にも長年取り組んでいる。著書『残念な政治家を選ばない技術 「選挙リテラシー」入門』(光文社新書)はAmazon「選挙」カテゴリー1位獲得。

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