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西日本豪雨 これからの課題

災害支援NPOの担当者に聞く、長期化する復旧・復興への向き合い方

森 健 ジャーナリスト

中長期にわたる復旧・復興

災害支援について語るJPF緊急対応部の柴田裕子部長拡大災害支援について語るJPF緊急対応部の柴田裕子部長

  「まだ時間が経ってない段階での予測ではありますが、今回の災害の対応は長引くことが予想されます」

 7月12日午後、国際NGOジャパン・プラットフォーム(JPF)の緊急対応部の柴田裕子部長は復旧・復興が中長期にわたる可能性を指摘した。

 「6日(金)の夕方は複数の地域では退避指示が出ていました。でも、JVOAD(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)のメンバーと連絡をとりあう中で、これは大きな被害が出そうですねという話をしていた。実際、その懸念が的中しました」

 今回の西日本豪雨では、これまで地震や津波などの災害に縁遠かった地域が豪雨水害に見舞われた。7月16日(月)時点で、死者は211人、安否不明者も20人という人的被害、広島・岡山・愛媛の3県では合わせて10万3400戸あまりの断水が続いており、建物などの被害も含めれば、復旧・復興は長期化する可能性が指摘されている。

 目下、被災地各地では、断水の復旧や流入した泥や土砂などのかき出し、災害ゴミの処分など、各地で災害処理に追われているが、浸水による家屋の損壊なども判明しきっておらず、復旧の目処がいつ立つのか、まだ見えていない。

 こうした事態に、被災地の自治体や避難所はどう向き合うべきか。これまでさまざまな災害支援に関わってきた柴田氏に話をうかがった。 

過去の経験がいきた初動段階

 JPFは、自然災害などの発生時や紛争による難民発生時など、人道支援が必要な際に、各NGO、企業、政府と連携して、迅速に緊急援助などの支援を届けるため、2000年に設立された団体である。過去に、国内では東日本大震災や熊本地震、広島土砂災害など、海外ではハイチ地震(2010年)、ネパール地震(2016年)などで活動してきた。

 西日本豪雨でJPFは6日(金)から被災状況の情報収集をし、8日(日)に2人の調査スタッフを愛媛県に派遣した。と同時に、各地のNPOと情報交換をしながら、人や物など必要な支援の把握に努めたという。

 「まず発生から数日という初動段階で言えば、過去の教訓は比較的いかされている、というのが実感です」と柴田氏は言う。比較しているのは2年前の熊本地震だ。

 このときは二度の大きな地震のあと、各地から熊本市に物資が送られたが、その配布が滞って批判を浴びた。今回、柴田氏が各地の情報に触れるかぎり、避難所への初動の物資は一定程度届いているという。

 「おそらく自治体が備蓄していた食料や毛布、水などの物資が早く回ることで当初の不足を補うことができた。また、内閣府も10日の段階で、水、食料、仮設トイレなどのパッケージをプッシュ型支援で提供しはじめた。こうした初動の対応は今回はうまく機能したと聞いています」(柴田氏)

避難所運営のスタッフには女性も

 今回の災害は豪雨による浸水、土砂崩れ、堤防決壊などの水害が中心だったが、倉敷市真備町でのハザードマップが周知されていなかったように、自治体での災害対策は十分でなかったことが、災後に判明しつつある。また、地域によって自治体側の運営の不慣れさもあったのではないかと柴田氏は指摘する。

 「災害が起きると、避難所の運営、物資の配布、道路の補修、ボランティアの人たちのマネジメントなど、さまざま作業が必要になります。自治体職員がすべきこと、外部の支援団体との連携の仕方など、発生当初は見えていないところもあったようです」

 たとえば避難所の運営では、多くの地域で自治会長のような地元の中心者がリーダーとなるケースが多数で、それが男性であることが多い。そうした場では、女性や子どもの声は届きにくくなる。生理用品や身体(からだ)にあった下着、乳幼児向けの用品、あるいは、おむつや入れ歯洗浄剤などの高齢者の生活用品。男性の視野に入りにくく、必要なのに、必ずしもそれが伝わらない。

 「ですから、避難所運営では男性だけでなく、女性が運営スタッフに入るべきと私たちは推奨しています」

 女性が運営スタッフに入ると、避難所の女性や高齢者、子どもといった立場の弱い人たちが声を届けやすくなる。ストレスによるいさかいやセクシュアル・ハラスメントといった問題も、女性スタッフがいれば訴えやすくなる。

 「トイレの設置も進んでいますが、災害などの人道支援における最低基準を定めた『スフィア・スタンダード』によれば、トイレの男女比は1対3で設置すべきとされています。世界の基準をすぐ全部の避難所で適用するのは無理があるかもしれませんが、できるところから導入することで避難者の人権をケアした生活環境を整えることができると思います」

重要な自治体、支援団体、メディアの情報共有

避難所となっている愛媛県の野村中学で子どもたちと話すJPFのスタッフ。話の中からニーズを聞き取る=2018年7月14日拡大避難所となっている愛媛県の野村中学で子どもたちと話すJPFのスタッフ。話の中からニーズを聞き取る=2018年7月14日

 避難所の運営は通常、自治体の職員が行うが、自治体の本来の業務やその他の災害対応に忙殺されているため、外部の支援を仰いだほうがよいこともある。

 「そうしたときこそ、各専門分野をもったNPOや外部支援団体の出番。できるかぎり外部とも情報共有をしてもらえると助かります。過去の災害からも、支援者や自治体、さらにはメディアなどが情報共有の場をもち、補いあえることを調整することの重要性が認識されてきています」

 被災から5日目の時点では、自治体はまだ状況把握と即時対応に手一杯で、人や物を受け入れる受援体制ができていないところが多かったという。

 「今回の水害では、床上、床下と浸水した住宅が多数あり、泥かきの作業では延べで数十万人が必要とされることが見込まれています。また、同時に災害ゴミも増えることから、その処理も求められる。こうしたときに人やお金をどう受け入れて、どう手配するのかは専門家の助けを借りながらの作業のほうが効率的かもしれません」

見過ごされがちなコミュニティーの崩壊

 今後、家屋が全壊または半壊などで避難生活が中長期化する世帯も多いと見られ、仮設住宅や賃貸住宅などを借り上げる「みなし仮設」などの整備に移ることが見込まれている。プライバシー空間はもちろん、エアコンなどの生活環境も不十分な避難所で暮らすより、適切な住宅での生活再建が促進されるのは、被災者にとっても望ましいことだろう。

 そうした中で見過ごされがちなのが従来のコミュニティの崩壊だ。

 長年、同じ地域で暮らしてきた人たちが避難所や仮設住宅などで暮らす際、元あるコミュニティは維持しにくい。日々会ってきた近所づきあいが失われると、生きがいが失われ、精神的に失調を引き起こしたり、孤独死につながったりと、心身の不調に陥ることがある。

 「こうした問題は中長期で見えてくることで、当初は見えにくい。でも、たとえば最初から同じ自治会の人たちを近くに住んでもらうようにすれば、孤立や孤独といった問題をすこしでも防ぐことができます」(柴田氏)

ボランティアは情報を確認してから

 豪雨発生から一週間後の17日(土)からは、被災地各地でボランティアの受け入れも始まった。だが、30度を超す猛暑から、被災者のみならずボランティアの人まで熱中症で倒れるという事態が発生している。協力するボランティア側も健康管理に十分な警戒が必要になっているのは、夏に起きた災害ゆえの悩ましいところだろう。 ・・・ログインして読む
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筆者

森 健

森 健(もり・けん) ジャーナリスト

1968年生まれ。早稲田大学在学中からライター活動をはじめ、科学雑誌、経済誌、総合誌で専属記者を経て、フリーランスに。2012年、『「つなみ」の子どもたち』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2015年、『小倉昌男 祈りと経営』で小学館ノンフィクション大賞の大賞、2017年には同書で第1回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞の大賞を受賞した。著書に『人体改造の世紀』、『天才とは何か』、『グーグル・アマゾン化する社会』、『ビッグデータ社会の希望と憂鬱』、『勤めないという生き方』など。

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