2018年07月23日
インターネットでの配信記事を見ていると、タイトルに驚いてクリックしてしまうことがある。しかも韓国関連はネガティブな方がウケる傾向があるのか、そんな記事ほどアクセス数の上位に上がっていることも少なくない。で、今回はこれだ。
「イエメンからの亡命者が済州島に到着 韓国世論で高まる反移民」
タイトルだけ見ると、まるで欧州のどこかの国の記事のようだ。韓国で反移民? ライブドアニュースだけれど、元記事はAFPの配信である。そこで、AFPのサイトで当該記事を探してみると、元記事のタイトルは「イエメン難民流入に反発する韓国世論」とある。これなら、まだ理解できる。
どうも、日本のメディアの一角には「韓国への歪んだ期待」があるのか、ネガティブな情報を拡大して伝える傾向がある。特に人権関連は「韓国はひどい格差社会だ」「韓国軍にも慰安婦はいた」等々、「韓国だって他人のことは言えないじゃないか」的な内容が好まれるようだ。それについても言いたいことはあるのだが、いずれ稿を改めるとして、では、実際のところはどうなっているのか。韓国でも欧州のような「反移民」の動きが顕在化してきているのだろうか。
答えとしては、「今まさに反難民・反イスラムの世論が作られようとしている」、というのが限りなく真実に近いと思う。明らかに、それを先導するグループが存在している。その中心となっているインターネットコミュニティ「難民反対国民行動」の主張には悪意がある。「済州島に来たイエメン人は就労目的の偽装難民」、「彼らは女性や子どもたちに危険を及ぼす」等。彼らは政府への「難民法廃止」の請願を行い、さらに街頭でのデモを呼びかけた。そこには、文在寅政権と対立する野党議員や、これまでも右派運動を主導してきた保守系キリスト教団体などが同調している。
ことの起こりは、今年に入り韓国南部にある済州島に、イエメンからの難民が到着したことだった。1月~5月の間に500名余り。ところで、3年ほど前にこのWEBRONZAで、韓国におけるシリア難民問題を取り上げたことがあった。
その時に、まず疑問に思ったのは、どうして、中東からはるかに遠い東アジアの国に、しかもシリアとは正式国交のない韓国に難民が来るのかだった。
不思議に思って、いろいろ調べたところ、そこにはブローカーが作った「ルート」の存在に行き着いた。シリア難民の最終目的地はドイツだったが、アジア経由の方が欧州に入国しやすいだろうという見立てだった。そこでアジア最大のハブ空港である仁川国際空港が選ばれた。ところが、航空会社が欧州行きの便への彼らの搭乗を拒否した。故郷に戻ることもできないシリアの人々は、やむを得ず韓国での難民申請をしたのだった。
当時の韓国政府は、前年度にアジア初の「難民法」を施行したばかりだったこともあり、2014年5月に「シリア内戦による難民に対しては人道的な理由での在留を許可する方針」を出した。さらに朴槿恵大統領(当時)が国連演説で「シリア難民問題に積極的に対応していく」と表明し、結果、1000名余りのシリア難民が韓国にとどまることになった。
この時は、今回のような「難民反対」の目立った動きはなかった。当時のシリア難民と今回のイエメン難民と何が違うのか。おそらく違いは「難民の側」ではなく、「韓国の側」にある。2015年と2018年では、決定的に違うことがあるのだ。
今回、「イエメン難民が韓国の済州島に押し寄せる」という報道に接した当初は、「あ、またか」程度の思いしか持たなかった。ブローカーが作ったルートに、たまたま韓国が登場したのだろう。現地報道も初期は冷静だった。「中東出身のイエメン人78名、どうして済州に来たのか?」(5月2日付「済州新報」)によれば、済州島には観光客誘致の目的で施行された「ノービザ制度」があり、当該のイエメン人もその制度を利用した。彼らは当初マレーシアを避難先に選んだが、そこで在留期限が切れてしまったため、折しも直行便が飛ぶようになった済州島にやってきたのだった。
済州島の人々は戸惑いながらも、戦火を逃れてやってきたイエメンの人々を親切に迎えようとしていた。「済州在留イエメン難民にさしのべられる、温かい支援の手」(6月11日付「済州新報」)という記事によれば、無料医療支援や職業斡旋、さらにイスラム教徒用のハラル食が食べられるように、ホテルでのサービスなども充実させていた。
私自身の経験からしても、韓国人は困っている人にはとても親切だ。外国人に対してもフレンドリーであり、シリア難民の時も市民や学生が進んでボランティアに参加していた。今回の済州島でも支援の輪は広がっているかに見えたのだが、6月に入った頃からネット上で悪意のある書き込みが始まっていた。それが拡大したのは、大統領府のホームページへ寄せられた一件の請願だった。
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