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「習近平降ろし」は本当か?

国家主席の任期撤廃で権力を掌握したはずが、クーデター未遂の噂まで…

古谷浩一 朝日新聞論説委員(前中国総局長)

拡大中国の習近平国家主席=2017年10月25日、北京の人民大会堂

一寸先は闇

 いったいどうしてしまったのか。最近、いやにきな臭い話ばかりが北京から伝わってくる。

 習近平国家主席の権威が揺らいでいるとする「習降ろし」や「習隠し」の動き、さらには真偽不明のクーデター未遂のうわさなど……。習氏は今春、国家主席の任期を撤廃したことで自らへの権力集中の流れを確固なものにしたのではなかったのか、と首をかしげたくなる奇妙な話が相次いでいるのだ。

 さて、どう理解すべきか。「一寸先は闇」と言われる中国政治だけに何が起きてもおかしくないということか。それとも、何か別の背景があるのか。はっきりしたことは分からないが、とりあえず、7月に入ってから伝わってきた中国の友人のうわさ話や、香港メディアの気になる報道を以下、順不同で提示してみる。

▽中国共産党序列5位の政治局常務委員、王滬寧氏の失脚説が流れる。
→習近平体制でもっともブイブイ言わせていた高官だけに、こうしたうわさが出ること自体が驚きだ。
▽共産党機関紙「人民日報」の一面の見出しに「習近平」という三文字がどこにも載っていない日が出現した。
→香港メディアは、習氏が総書記になった2012年以来、ほぼなかったことだとして、異変が起きているのではと報道している。
▽上海の若い女性が習氏の看板に黒いインクをぶちまける映像が中国のネット上で一時的だが拡散した。
→この女性やその家族はその後、当局に連行されたとされるが、そもそもこんな映像が中国のネット上ですぐに当局によって消されなかったことが奇妙。
▽習氏が青年時代を過ごした陝西省の農村、梁家河をめぐる研究プロジェクトが急きょ取りやめに。
→当局が習氏の個人崇拝を進める動きにストップをかけたとの見方も。
▽7月11日に新華社のネットニュースサイト「新華網」に、過去に華国鋒・元共産党主席が進めた個人崇拝の動きを批判した昔の報道が登場した。
→この報道のなかには「党は主席を管理できる。主席が間違いを犯せば、批判できる」との表現もあった。

拡大女性が動画投稿サイトで墨をかける様子を投稿した習近平国家主席の看板。顔の周辺には黒いしみが残っていた=2018年7月5日、上海市

個人崇拝

 まだまだあるのだが、きりがないのでこのくらいにしておく。つまるところ、「習氏が進める個人崇拝の動きが、党内で厳しい批判を受けている」(香港メディア)といった見方が急速に広まっているようだ。

 中国共産党は今年も8月に毎年恒例の非公式要人会議「北戴河会議」を開くと言われている。江沢民元国家主席や胡錦濤前国家主席らの党長老たちが習氏に不満を持っており、今年の北戴河会議ではこの行きすぎた個人崇拝の問題が焦点になるとの観測も出ている。

 そもそも中国共産党は毛沢東主席の神格化といった最高指導者の個人崇拝はよくないとして、これからは集団指導体制をやると言ってきた。中国社会を大混乱に陥れ、多くの市民が被害を受けた文化大革命の歴史に対する反省である。習氏はこの集団指導体制に逆行するような動きをしてきたのだから、党内に反発の声があるのは当然なのだろう。

米国の外圧

 習氏の立場を悪くしていると言われるもう一つの要因は、悪化する米中関係での対応だ。

 両国のあつれきは、貿易摩擦から始まったものの、中国の台頭を米国はどこまで認めるのかという2大大国の本質的な対立の構図に変わりつつあるようにも見える。一方で、知的所有権に関わるルールをしっかり守れとの米国の要求は、中国にとっても長い目で見れば、決して悪いものではない。

 知財保護の遵守とともに経済構造の転換を進めることができれば、ハイテク産業を発展させ、その技術を守るメリットとして返ってくる。ただ、既存のローテク産業の一部は淘汰されるだろうから、既得権益層は自らの生き残りをかけて、米国の要求に強く反発している。

 この既得権益層は習氏に対する抵抗勢力と重なる。腐敗高官らにつながる彼らが党の権力を思うがままに利用して、市場を不健全に独占する状態をつくってきた。これがこれからも続けば、中国経済の持続的成長は難しい。共産党政権に対する市民の不満もいつかは爆発するだろう。だからこそ、強力なリーダーシップで、こうした既得権益層を打破するのだというのが、習氏の権力集中を正当化するロジックだった。

 習氏は今回、米国という外圧を利用して、こうした既得権益層に変革を迫っているのではないか。習氏の権威を揺さぶろうとするかのような動きが出てきている背景にはひょっとして、こうした既得権益層の強い反発があるのではないか。そんな観測も出ているとの話を聞いた。

忠誠心を試す?

 一方で、もっとうがった見方もある。実は習氏の権力基盤はいささかも揺らいではいないのではというものだ。 ・・・ログインして読む
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筆者

古谷浩一

古谷浩一(ふるや・こういち) 朝日新聞論説委員(前中国総局長)

1966年生まれ、神奈川県出身。1990年、朝日新聞社に入社。前橋支局、大阪本社社会部、東京本社経済部などを経て、上海、北京、瀋陽で特派員に。2012年1月から2013年8月まで東京本社国際報道部次長。2013年9月から2018年1月まで中国総局長。2018年4月から国際社説担当の論説委員。 1993年から1994年まで中国・南京大学、1997年から1998年まで韓国・延世大学でそれぞれ留学研修。

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