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問題だらけの日本のエネルギー転換

エネルギー基本計画にはすべてのステイクホルダーによる科学的考察が必要だ

平沼光 東京財団政策研究所 研究員

 こうした変化により、再生可能エネルギーは経済的にも技術的にも普及の障壁がなくなってきている。そればかりか、普及によって創出される新たな市場とビジネスを獲得するため、各国はいち早く自国の中にマザーマーケットを構築し、技術力を高め、グローバル市場での競争力を高めようとしている。

 すでに欧州の大手電力会社のEon社やRWE社なども、原子力と化石燃料による大規模集中型発電という従来型のビジネスへの依存から脱却し、再生可能エネルギー発電とエネルギーマネジメントなどのエネルギーサービスを中心としたビジネスへとビジネスモデルの転換を着々と進めている。

周回遅れの日本の目標

 このように世界がエネルギー転換の動きに対応し、再生可能エネルギーの普及を進めようとしているなか、日本でも、今回決定されたエネルギー基本計画で再生可能エネルギーを主力電源化していくことが新たに記されてはいる。しかし、その導入目標は、2015年7月に経済産業省が決定した「長期エネルギー需給見通し」で示された2030年に22~24%にするというエネルギーミックスの導入目標を据え置いたもので、実態として2015年からなにも変わっていない。

 そもそも再生可能エネルギーの導入割合22~24%というレベルは、すでに欧州各国で達成されており、各国が再生可能エネルギーのさらに高い導入目標を掲げていることを考えると、日本の目標は周回遅れの感は否めない。言い換えれば、日本はこれから十数年かけて、ようやく現在の欧州に追いつくということを公言しているわけだ。これだと、革新的なエネルギー技術の開発と市場化も、日本では進まない可能性が懸念される。

エビデンスに基づかない日本のエネルギー政策

長崎県五島の浮体式洋上風力発電拡大長崎県五島の浮体式洋上風力発電

 各国と比べ、明らかに見劣りがする日本の再生可能エネルギー導入目標ではあるが、環境省が2015年4月に公表した「平成26年度2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討委託業務」報告書では、2030年に国内の発電電力量のうち最大で35%を再生可能エネルギーで供給できる可能性が報告されている。

 これは、22~24%として決定した「長期エネルギー需給見通し」のエネルギーミックスとは異なる見解となるが、問題視しなければならないのは、どちらの数字が正しいかということではなく、各々の数値の妥当性について、エビデンス(データなどの科学的根拠)を基にした比較検証が行われなかった点にある。

 「長期エネルギー需給見通し」決定に向けて、2015年4月の段階で作成されていた「長期エネルギー需給見通し骨子(案)」を審議していた経産省の委員会(注3)でも、環境省と経産省で見解の違う見通しが示されていることについて、出席した委員から二つの見通しを比較検証する必要があるのではないかという趣旨の疑問が呈されている。

注3)経済産業省総合資源エネルギー調査会「長期エネルギー需給見通し小委員会(第8回会合)」2015年4月27日開催

 結局、数値の違う二つの見通しの比較検証は十分にされることなく終わり、「長期エネルギー需給見通し」のエネルギーミックスは、そのまま今回のエネルギー基本計画に引き継がれているが、エネルギー政策決定プロセスにおけるエビデンスを基にした検証の不十分さが露呈したかたちと言えよう。

検証が不十分だった送電線の空き容量

 送電線の空き容量についても、エビデンスを基にした検証の不十分さが懸念される。
2018年1月27日、京都大学大学院経済学研究科の再生可能エネルギー経済学講座のコラムで、全国10電力会社の主要送電線の空容量と利用率の分析結果が公表された。それによると、電力会社が「空き容量ゼロ」としている多くの路線にはまだ余裕がある可能性が報告され、様々な議論を呼んだ。

 送電線の空き容量不足を理由に、電力会社から再生可能エネルギー発電の接続を保留にされる再生可能エネルギー発電事業の事例も発生していることから、送電線の空き容量は今後、再生可能エネルギーがどのくらい導入できるかに関わる極めて重要なポイントである。

 資源エネルギー庁もこの点を課題視しており、2018年3月26日に「2018年4月からは、送電線の容量の計算方法を抜本的に見直し、需要に応じて合理的な電源の稼働を評価することで、より実態に近い空き容量の算定をおこない、接続容量の拡大を図ることとしています」 ということを公表している(注4)。裏から言えば、これまで送電線の空き容量がどのくらいあるかは明確には把握できていなかったということを示しており、エネルギー基本計画は、送電網の空き容量というエネルギー政策を考えるうえで重要なエビデンスが不十分のまま、決定されたことになる。

注4)資源エネルギー庁HP 「なぜ、「再エネが送電線につなげない」事態が起きるのか?再エネの主力電源化に向けて」http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/qa_setuzoku.html

ステイクホルダーを交えた議論が必要

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筆者

平沼光

平沼光(ひらぬま・ひかる) 東京財団政策研究所 研究員

1966年生まれ。日産自動車株式会社勤務を経て、2000年より現職。研究員として資源エネルギー政策の研究を担当する。 内閣府 日本学術会議 東日本大震災復興支援委員会 エネルギー供給問題検討分科会委員、福島県再生可能エネルギー導入推進連絡会系統連系専門部会委員を歴任するほか、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 低炭素社会戦略センター特任研究員も務める。著書に『日本は世界1位の金属資源大国』(講談社+α新書)、『日本は世界一の環境エネルギー大国』(講談社+α新書)など。