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地方創生が日本を壊す?

なぜ出生力回復が目指せなくなったのか? 地方創生の失敗どころではない深刻な事態

山下祐介 首都大学東京教授

 誤った政策を採用してしまったとき、私たちはそれをどう認識し、修正していけばよいのだろうか。

 地方創生では、政府はそうした政策の自己修正のプロセスを、PDCAサイクルとして地方自治体に採用することを要請している。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)を繰り返すことで誤りが修正され、よりよい政策に収斂していくというものだ。そしてこうしたサイクルを実現するために、KPI(key performance indicator、重要業績評価指標)を明示し、その進捗(しんちょく)を測ることも要求している。

 ところが、そうしたPDCAサイクルが、政府自身の中でしっかりと回っていないようなのである。

 政府自身の地方創生のPDCAサイクルを確立するために、内閣府では地方創生のKPI検証(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/kpi_kenshouteam/h29-12-13-kpi_houkokusho.pdf)を昨年末に実施している。

 しかし驚くべきことに、ここでは人口や出生数、出生率に関わる指標が取り上げられていない。人口減少をとめるという政府の目標は、いつの間にかどこかに消えてしまったようだ。

 いやそれどころか、政府が鳴り物入りで進めている「未来投資戦略」を見ると、そこでは「人口減少してもイノベーションで成長はできる」といった論調になっている(平成29年6月5日、国際交流会議での安倍首相の発言)。政府の関心はもはや経済成長にのみあって、人口減少にはないのかもしれない。

 肝心の目標設定がふらつけばPDCAどころではない。これでは地方の各現場で、何のために地方創生を進めているのか、見えなくなるのも当然である。そしていまや地方のための創生なのか、政府のための創生なのか、わからない事態にさえなっている。

本当の問題は人口減少だ

 だが、政府自身が国民に警告したように、人口減少は待ったなしのきわめて重い課題である。どこかで止めなくてはならない。このまま進めば社会は崩壊してしまうからだ。

 私たちに必要なことは、起きている事態を冷静に見つめ、何がその問題を解くために必要なのかを落ち着いて判断し、適切な決定をしていくことだ。

 これに対し、いまの政府には、こうした問題を解決していくプロセスへの意識が欠けている。それどころか、「稼ぐ力」や「イノベーション」「ローカル・アベノミクス」などと政策の決め打ちをかけ、それが本当に国民にとって必要なことなのかの検証がなされないまま、次々と新しい事業が閣議決定されて実行されていくという異様なプロセスが実現されている。

 「地方創生は地方や農山村のこと。自分は関係ない」と、そう思い込んでいる国民も多いようだが事態は深刻だ。本当の問題は

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筆者

山下祐介

山下祐介(やました・ゆうすけ) 首都大学東京教授

1969年生まれ。九州大学助手、弘前大学准教授を経て首都大学東京教授(都市社会学・地域社会学・農村社会学・環境社会学)。過疎高齢化、災害、環境問題などに取り組む。著書に、『「都市の正義」が地方を壊す』(PHP新書)、『限界集落の真実 過疎の村は消えるか』(ちくま新書・生協総研研究賞)、『東北発の震災論 周辺から広域システムを考える』(ちくま新書)、『地方消滅の罠 「増田レポート」と人口減少社会の正体』(ちくま新書)、『「復興」が奪う地域の未来』(岩波書店)、『リスク・コミュニティ論 環境社会史序説』(弘文堂)、編著・共編著に『白神学』第1巻~第3巻(ブナの里白神公社)、『津軽、近代化のダイナミズム』(御茶の水書房)、『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店・地域社会学会特別賞)、共著に『人間なき復興 原発避難と国民の「不理解」をめぐって』(ちくま文庫)、『地方創生の罠』(ちくま新書)など。『津軽学』(最新は第11号、津軽に学ぶ会)の活動にも参加

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです