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2018年の夏に考えるべきこと

戦後秩序という平和のための土台が終わる今、私たちに何が求められるのか

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

シンガポールのメディアセンターのモニターに映し出される米朝両首脳の握手の瞬間=2018年6月12日 拡大シンガポールのメディアセンターのモニターに映し出される米朝両首脳の握手の瞬間=2018年6月12日

 北朝鮮核問題の推移は、アメリカの変化を明らかにしました。先制攻撃と宥和(ゆうわ)のあいだを揺れ動いたトランプ政権は、先制攻撃をして「筋を通す」ことのコストが、受け入れられないほど高いことを認めました。そのとき、アメリカは歴史に残る宥和に舵を切ったのです。

 背景理由のひとつには、国内世論のほとんどが北朝鮮の金正恩委員長との首脳会談を支持したことがあります。そして、もうひとつの理由はおそらく、朝鮮半島に歴史的な休戦と平和条約をもたらすことで、アメリカの肩の荷を下ろすことができると認識したからでしょう。

 言い換えれば、北朝鮮に対して、冷戦初期にソ連に行ったような苛烈な「封じ込め」を行いつづけるだけの体力と意思が、もはやアメリカにはなかったということなのです。

 いかに軍や外交官が合理的だと思う政策を訴えても、最後は国内政治で決定されるのが民主国家というものです。アメリカの政界を見渡しても、世論を見ても、そのような政策を支え続けるだけの興味関心、強い恐怖心は北朝鮮に関しては見当たりません。トランプ大統領が今回、下した決断は既定路線として継承されていくでしょう。

 伝えられるように、今後、北朝鮮が核弾頭の数を削減したとしても、戦略的な意味合いはたいして変わりません。核弾頭の数は少ないに越したことはありませんから、それは歓迎すべき変化ですが、北朝鮮がなかなか動かないのは彼らがアメリカの譲歩を引き出そうとしているから。とすれば、核弾頭を削減することの対価として、アメリカは朝鮮半島での軍事的影響力を失うことになるでしょう。

 そして、私たちにすれば、以上のようなことが起きたとしても、核保有国となった北朝鮮と向き合わなければいけないという戦略的な意味合いは変わりません。

大きな影響を受けるドイツと日本

 ところで、戦後秩序の終焉によって既存の平和のためのメカニズムが壊れたとき、最も影響を受けるのは誰なのか? それは第2次世界大戦の敗戦国であるドイツと日本に他なりません。

 ドイツや日本で戦後養われてきた平和のための諸原則は、大きく二つの目的に分類されます。ひとつは、日独が再び攻撃国とならないようにする目的。もうひとつは、日独の安全を保障して繁栄を支えるという目的です。

 相対的に多くの人口と経済力をもつ日独の二カ国は、アメリカが提供する同盟と経済圏の秩序に組み込まれることで、平和を実現できました。仮にソ連がドイツに侵攻すれば、NATOの集団的自衛権が発動することになっていましたし、日本は軍隊を持つことなく経済的な発展が保証されたのです。

 戦後の日独は、アメリカ市場への優先的なアクセスを西側先進国として許され、軽武装を実現しながら、独自の平和主義を発展させてきました。現に、日本の平和を形作ってきた具体的な政策はすべて、戦後秩序を前提としたものでした。非核三原則、アメリカの核の傘、防衛費のGDP比1%枠、静的な基盤的防衛力の考え方……。それらはすべて、アメリカ主導の戦後秩序の中で初めて意味を持つものだったのです。

防衛省=東京・市ケ谷拡大防衛省=東京・市ケ谷

旧秩序にしがみついても平和な未来はない

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筆者

三浦瑠麗

三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者・山猫総合研究所代表

1980年神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は国際政治、比較政治。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。著書に『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)など。政治外交評論のブログ「山猫日記」を主宰。公式メールマガジン、三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」をプレジデント社から発行中。共同通信「報道と読者」委員会第8期、9期委員、読売新聞読書委員。近著に『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)。

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