共和党が辛勝したオハイオ州補選から見えてくる中間選挙の行方
2018年08月22日
今月7日に米オハイオ州第12区で行われた米連邦議会下院議員の補欠選挙。11月の中間選挙前の最後の補欠選挙だということで注目を集めたが、共和党のトロイ・ボルダーソン候補と民主党のダニー・オコナー候補の間で文字通りの大接戦となった。
選挙当日深夜の時点での得票差数は、わずか1700余の小差で、ボルダーソン候補が上回った。しかし3000以上の不在者投票と暫定投票があったため、その時点で勝者は確定せず。本稿の執筆時点でも、残りの開票集計が続けられており、未だ結果が出ていない状態である。
しかし、選挙を受けてのメディア・識者の反応は、「ブルー・ウエーブ(民主党の波)は本物だ!」、「単なるウエーブではなく、ブルー・フラッド(洪水)だ」など。民主党側(ブルーは民主党のシンボル色)の勢いが確実に高まったとして、大いに盛り上がった。
当初の得票数では民主党候補者の方が僅かとは言え下回り、ましてや民主党の勝利も確定していない状況なのに、である。何故そうなるのか?
それは、このオハイオ12区という選挙区が、今秋の中間選挙における焦点選挙区の一つだったからだ。
本稿では、今回のオハイオ補選を通じて、残すところ2カ月余となった中間選挙の動向をまとめてみたい。
大統領選挙の2年後に行われる中間選挙では、連邦議会の上院の3分の1にあたる36議席、下院(任期2年)では435議席のすべてが改選となる。現在、両院とも共和党が多数党であることから、民主党が多数党の地位を取り戻すことが出来るか否かが、最大の焦点である。
言うまでもなく、中間選挙には、トランプ大統領の2年間の治世に対する「信任投票」的な意味あいがある。換言すれば、共和党と民主党がどちらが勝つかによって、彼の推し進める政策がさらに実現されるかどうかが決まる。非常に重要な審判の機会といえる。
くわえて、現在、モラー特別検査官によって進められている「ロシア疑惑」調査の観点からも重要である。モラー特別検察官の調査報告書は最終的に議会に提出され、それを受けての措置は、議会が決めるからだ。仮に共和党が議会の多数を占めた場合、たとえトランプ大統領の「ロシア疑惑」関与が報告書に示されても、議会が何の措置も採らない可能性がある。
さらに、トランプ政権による司法機関やメディアに対するあからさまな攻撃が続いていることを受けて、「アメリカの民主主義をトランプ大統領から救うためには、民主党多数の議会にして抵抗する以外に方法はない」という悲鳴にも似た声が、リベラルと保守双方の識者の間で繰り返されてもいる。
つまり、アメリカにとってこの秋の中間選挙は、これまでになく大きな意義を持つのである。
上院(現在、共和党51議席、民主党系49議席)は、改選となる35議席の構成が、現職が共和党の議席が8、民主党議席は25と、共和党が優位な構図となっている。さらに、35議席のうちの8議席が大接戦地区とされているが、そのうち5議席の現職は民主党で、3議席が共和党現職(クック・ポリティカル・レポートの予測)と、民主党の方がより多く、議席維持のための厳しい選挙を強いられることになる。従って、民主党にとって相対的に不利な状況で、上院の奪還はかなり難しいと見られている。
一方の下院は、過半数の218議席のところ、民主党が現時点で195議席。多数派になるためには最低でも23議席が新たに必要なのだが、選挙予測では定評のあるクック・ポリティカル・レポートの最新予測は、その可能性が高まっている、とする。
なぜなら、全選挙区のうち、共和党が現職でありながら中間選挙で民主党候補が勝つ可能性があるとされる選挙区が37議席にものぼる、と予測しているからだ。逆に、民主党現職の選挙区で共和党候補が勝つ怖れがあるのは3議席のみ。予測通りになる確率が50%だとしても民主党の17議席増となるので、23議席獲得も十分あり得る、というわけだ。
冒頭のオハイオ補選が注目されたのは、こうした文脈からだ。対象となった第12地区は、クック・ポリティカル・レポート予測で、「競合となるが共和党が有利な選挙区」とされていた。前回(2016年)の選挙では、共和党候補のパット・ティベリ前職(今年1月に辞職)が37ポイント差で圧勝している。
そんな伝統的に共和党が強い地域にもかかわらず、民主党候補の大善戦した――。
それこそが、青い「ウエーブ(波)」より強力な「フラッド(洪水)」と表現された所以(ゆえん)である。
くわえて、オハイオ第12地区の独特な住民構成も、この選挙が注目された理由だった。
第12地区は、州都コロンバスの北に位置する都市近郊(2管区)と、そこからさらに北と東に延びる農村・田園地帯(5管区)の二つのタイプの地域を含む。この二つの地域の住民の投票動向が面白いのである。
都市近郊地域では、2012年の大統領選の際にはミット・ロムニー共和党候補に投票したが、2016年にはヒラリー・クリントン民主党候補に投票した人が大勢いた。他方、農村・田園地域では、2016年にトランプ大統領に投票した住民の多くが、2012年にはオバマ前大統領に投票していた。彼らは「オバマ・トランプ投票者」と呼ばれ、トランプ勝利の鍵とされた人たちだ。
すなわち、いずれも支持政党に必ずしもこだわらない浮動・無党派層と言われる住民が、相対的に多い選挙区なのだ。
この点に注目した選挙専門家のヘンリー・オルセン氏は、今回の民主党オコナー候補は、この二つの相反する浮動層グループ両方に対して巧みに訴える選挙を展開したと指摘する。例えば、「どちらの政党も、新しいリーダーが必要だ」と訴えつつ、町工場といった労働者層をイメージさせる場所に立つ自分の写真を選挙宣伝に多用したのだ。
この浮動層戦略が、オコナー候補者の予想外の健闘をもたらしたのだろう。
オルセン氏は、今秋の中間選挙の勝敗の鍵は、これら二つの浮動層の人たちの投票率が握っているとする。なぜなら、接戦になると予測されている選挙区のほとんどで、この2グループが重要なプレーヤーとなっているからだ。
これに関して、Democracy Fund Voter Study Group の最新の世論調査が興味深い結果を発表している。
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