翁長雄志の遺言
沖縄県知事選が始まる。大事なのは、小さな島で、誰が勝つか、負けるかではない
島袋夏子 琉球朝日放送記者

翁長雄志・沖縄県知事。「うちなーんちゅ、うしえてないびらんどー(沖縄県民を侮ってはいけませんよ!)」と訴えた=2015年5月17日、止めよう辺野古新基地建設!沖縄県民大会で(琉球朝日放送提供)
自民党を離れ、辺野古反対に転じた原点
「平和を守るためには鬼になる」。沖縄戦最後の激戦地、糸満市摩文仁にある「魂魄の塔」(こんぱくのとう)に込められた意味を私に教えてくれたのは、後に沖縄県知事になった翁長雄志だった。
2014年10月、沖縄県知事選挙の真っただ中だったが、どうしてもこの場所で話を聞きたいと頼んだ。
沖縄保守の顔だった翁長がなぜ、長年過ごした自民党を離れ、辺野古反対に転じたのかを知るヒントが、ここにあると考えたからだ。
魂魄の塔は、学校長だった翁長の父、助静らによって建立された。一般住民を含む約20万人が命を落とした沖縄戦。翁長も祖父と叔母をここで亡くしている。
助静らは戦後、野ざらしになっていた遺骨を拾い集め、埋葬した。翁長は子どもの頃から、ずっと父と共に、この場所を訪れ、手を合わせていた。
翁長がすい臓がんだと発表された後、もう一度話を聞きたいと考えた。自身が語ったように、鬼の形相で政府と対峙した翁長の、心の内を知りたいと思ったのだ。
その思いは果たせなかった。翁長の死後、魂魄の塔で撮ったインタビューを見直して、はっとした。遺言とも思えるような言葉が遺されていることに気がついたからだ。
「沖縄を返せ」を歌った日