中島岳志の「自民党を読む」(1)石破茂
安倍首相に対抗するには夫婦別姓やLGBTなど価値観の問題で姿勢を鮮明にすべきだ
中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授
政治家の特徴を捉えるために、下のような図を用意しました。すこし説明しましょう。
政治家は国内政治において、大別すると<お金>と<価値>をめぐる仕事をしています。下の図は、縦軸(y軸)に「お金の問題」、横軸(x軸)に「価値の問題」を置いたものです。
私たちは生きていると、様々なリスクに直面します。あまり考えたくないですが、もしかすると明日、突然難病を発症し、これまで従事していた仕事ができなくなるかもしれません。通勤途中に自動車にひかれてしまい、前日までと同じ生活を送ることができなくなるかもしれません。
「リスクの社会化」とは、様々なリスクに対して、社会全体で対応すべきと考える立場です。政府は様々な国民のリスクに対応するために、セーフティネットの強化を行います。お金に余裕がある世帯から多く税金を取り、低所得者や社会的弱者への再配分を大きくします。そのため、図の上に行けばいくほど、「大きな政府」になっていきます。税金が高い代わりに、行政サービスも充実しているというあり方です。
また、市民社会における支援体制も強化します。地震などの大災害の際は、行政サービスだけでなく、市民ボランティアの活動が大きな意味を持ちます。諸外国では寄付金の存在が、社会的弱者の支援に大きな役割を果たしています。「リスクの社会化」とは、行政と市民社会が強調しあって、セーフティネットや再配分体制を強化していくあり方です。
「リスクの個人化」とは、様々なリスクに個人で対応することを基本とする立場です。いわゆる「自己責任型」の社会で、政府は税金を安くするかわりに、あまりサービスを行いません。図の下に行けばいくほど「小さな政府」になっていきます。
一方、政治はお金に還元できない「価値」の問題についても、様々な決定を行っています。例えば、「選択的夫婦別姓を認めるか否か」や「LGBTの婚姻に関する権利を保証すべきか否か」などが「価値」の問題にあたり、右に行けばいくほど、権力を持つ者が価値観の問題に対して介入・干渉を強めます。逆に左に行けばいくほど、多様性に対する寛容が強まり、個人の価値観に対する権力的介入が少なくなります。
このように<お金>と<価値>を軸に分類をしていくと、4つのタイプの政治のあり方が浮かび上がってきます。私は政治家を捉える際、「右」/「左」というイデオロギーよりも、Ⅰ~Ⅳの象限で分類することにしています。その方が、各政治家のヴィジョンを捉えるには、明らかに有効だからです。
石破茂の著書は多数