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安倍氏と石破氏の公開討論が見たい!

国民の生活と政治の行く末を決める自民党総裁選。徹底的な政治討論こそ

西田 亮介 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授

自民党総裁選への立候補を正式表明する石破茂氏=2018年8月10日、東京・永田町拡大自民党総裁選への立候補を正式表明する石破茂氏=2018年8月10日、東京・永田町

自民党総裁のふたつの変更

 9月7日告示、20日投開票の2018年自民党総裁選が近づいてきた。かたちのうえでは自民党員による「閉じた選挙」だが、自民党総裁は事実上、総理大臣であり、国のトップを選ぶ重要な選挙といえる。

 今回の総裁選には、少なくともふたつ、注目すべき変更がある。

 ひとつは投票年齢の引き下げである。2015年の公職選挙法改正によって投票年齢が満20歳以上から満18歳以上に引き下げられた。それにあわせるかたちで今回から自民党総裁選の投票資格を満18歳以上に引き下げたという。それによって15万人程度、投票資格をもつ党員が増えることになる。

 もうひとつは、地方票の「重み」を国会議員票と同等に引き上げたことだ。具体的には、国会議員票405票と地方票405票をあわせた810票の過半数獲得を巡って競うことになる。

安倍、石破両氏の決選に

 他方、選挙戦の構図に目を転じると、林芳正、石原伸晃、町村信孝、石破茂、安倍晋三の四氏が立候補し、安倍、石破両氏の決選投票の末、安倍氏が競り勝った2012年の自民党総裁選以来、つまり第2次安倍内閣以後、総裁選は盛り上がりを欠いているのが実情と言わざるをえない。前回2015年の自民党総裁選は、他に立候補者がないまま、安倍氏が無投票再選を果たしている。

 今回の総裁選でも、ポスト安倍をうかがうとされた岸田文雄氏が早々に戦線離脱を宣言。野田聖子氏も前回同様、立候補に必要な20人の推薦人集めに苦労しているという。

 そんななか、2008年と2012年の総裁選に挑戦した石破茂氏が三度目になる自民党総裁選への挑戦を表明。受けて立つ本命中の本命の安倍氏は26日、3選を目指して立候補する考えを正式に明らかにした。安倍、石破両氏の決戦と一騎打ちなる公算が大きいが、国会議員票で安倍氏が優位に立っていることもあり、選挙戦の熱気はいまひとつだ。

議論の過程を示すのは自民党の責任

自民党総裁選への立候補を表明後、花束を受け取り、笑顔を見せる安倍晋三総裁=8月26日、鹿児島県垂水市拡大自民党総裁選への立候補を表明後、花束を受け取り、笑顔を見せる安倍晋三総裁=8月26日、鹿児島県垂水市

 なかでも気になるのは、安倍氏の総理としての外遊日程である。9月11日から13日までロシアのウラジオストクで開催される国際会議に出席する予定だが、地方の投票締め切りが19日までという日程を考えると、まさに総裁選の渦中に国外に出てしまうわけだ。

 懸念されるのは、その結果、安倍、石破両氏による議論が深まらず、総裁選の過程が国民にとって見えにくくなり、多くの国民が関心をもたないまま、総裁選の決着がついてしまうことである。

 冒頭で述べたように、自民党総裁選は事実上、次の総理大臣を選ぶわけで、自民党のみならず広く日本の社会と政治に影響を及ぼす。党員でなければ投票はできないにせよ、せめてそこで何がどのように議論され、近い将来どのような主張が実行に移されうるのかを国民に知らせることは、政権与党たる自民党の社会的責任といっても過言ではない。

 本稿執筆時点で、報道によれば、自民党は5カ所での街頭演説と3回の討論会を検討しているようだが、2012年総裁選の際、街頭演説が17カ所(外交問題への対応で中止になった2カ所を加えると当初の予定は19カ所だった)で行われたのと比較すると、かなり少ない。国民への説明という点で疑問を禁じ得ない。

憲法問題で開かれた議論を

 特に、安倍、石破の両氏とも長く憲法改正を主張してきただけに、その主張を国民に知らしめることがいっそう重要になる。安倍氏は2017年の憲法記念日に自民党総裁として独自の憲法改正の方向性を公開し、次の臨時国会にも憲法改正原案の提出を行いたい旨を主張している。石破氏も2012年の自民党憲法改正草案の策定に深くかかわり、最近では憲法9条2項の削除を著書などで主張している。

 ただ、石破氏はここにきて国民の合意が得られないままの改正や、実質的な意味が乏しい改正は急ぐべきではないなどと、ややトーンダウンした主張も見せている。少なくとも、憲法問題においては両者のあいだには対立がある。憲法改正の問題はすべての国民を拘束するだけに、やはり開かれた議論が必要だ。

石破氏の戦術は有効か?

 石破氏は政策通として知られている。国会議員票では劣勢に立つだけに、開かれた論戦を通して地方票の掘り起こしを狙う戦術をとっている。総裁選への出馬表明の直後から「正直、公正、石破茂」というキャッチコピーを掲げて現政権との対立軸を作り、報道などを通じて討論の活性化とその必要性を繰り返し主張しているのはその証左である(このキャッチコピーは党内で不評のため、使用を控えるという報道があったが、本稿入稿直前に公開された政策集「石破ビジョン」のパンフレットにはこの文言が入っていた)。

 2012年総裁選では、国会議員による決選投票で安倍氏に逆転された石破氏。当時は北海道、石川、奈良、和歌山、山口、福岡、大分を除く地方では圧倒的な支持を得ただけに、今回もオープンな議論を通じて状況の打開を図りたいところだろう。他方、安倍氏や自民党本部からは両者の対決を極力避けたいという雰囲気が伝わってくる。確かに近年の安倍自民党は、投票率が低調な選挙で大勝を繰り返しているから、さもありなんとも思えてしまう。

 だが、石破氏は安倍氏と直接対決を実現できれば、はたして優位に立てるのだろうか。ことはそう簡単ではないというのが、筆者の見立てだ。なぜ、そう感じるのか?

「ビッグ・ピクチャー」が明確でない石破氏

 先日、筆者は石破氏に質問する機会があった。

 第247回J.I.フォーラム「考えることの多い総裁選」【スピーカー:石破茂(衆議院議員)、西田亮介(東京工業大学准教授)】

 そこで筆者が石破氏に聞きたかったのは、ある種の「大局観」だった。石破氏は憲法改正、安全保障、地方創生など各論には定評があり、政治改革など政界入りしてから主張し続けている主題はあるが、どのような「ビッグ・ピクチャー」を描いているのかが、過去の著作を紐解(ひもと)いてもはっきりしなかったからだ。

 総理の座を狙うにあたって、将来の日本をどのような国にしていきたいと考えているのか、そのためにどのような道筋と総合政策を構想しているのか。手をかえ品をかえ、尋ねてみたが、石破の答えは「ビッグ・ピクチャーは必要ない。各論の積み重ねの先に、100年後の日本がある」ということに尽きるようだった(本稿入稿直前に「石破ビジョン」なる政策集が公表された。後段で言及する)。

メディアの耳目を引く安倍氏の手腕

 この点、安倍氏はメディアの耳目を引く手腕に長(た)けている。 ・・・ログインして読む
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筆者

西田 亮介

西田 亮介(にしだ・りょうすけ) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授

1983年生まれ。慶応義塾大学卒。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門は情報社会論と公共政策。著書に『ネット選挙』(東洋経済新報社)、『メディアと自民党』(角川新書)、『マーケティング化する民主主義』(イースト新書)など。

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