「沖縄のアイデンティティー」に向き合える知事選を望む
2018年09月06日
多くの沖縄の人々が、翁長氏の死に強い衝撃を受け、「沖縄にとって翁長さんがいかに偉大な存在だったか、失って改めて感じている」「歴史に残る知事だった」と語っている。
翁長氏が遺したものは何か。
「沖縄アイデンティティーで沖縄はまとまることができる」
一言で言えば、この「オール沖縄の精神」に尽きるだろう。
翁長氏は「イデオロギーでなくアイデンティティー」のフレーズを掲げて保守・革新を超えた沖縄の人々の連帯を訴え、幅広い立場の人々による「オール沖縄」をまとめ上げた。
あるウチナー(沖縄人)の友人は、翁長氏が沖縄の人々にとってここまで大きな存在であるのは、翁長氏が辺野古基地建設に反対だったからだけではなく、沖縄人とは何か、沖縄のアイデンティティーとは何かを思い起こさせてくれたからであり、沖縄の人々が一体となる機会を作り出してくれたからだ、と語る。
「沖縄の基地問題は、本土からの差別である」と広く認識されるようになったのも、翁長県政の時代であった。翁長氏は、沖縄差別を決して許さず、これに毅然と立ち向かった。
2015年5月の辺野古基地建設反対の沖縄県民大会。参加した翁長知事はその演説を次の言葉で締めくくっている。
「ウチナーンチュ、ウシェーティナイビランドー(沖縄の人をなめてはいけない)」
翁長さんは、生前「ウチナーンチュが心を一つにして闘う時には、おまえが想像するよりもはるかに大きな力になる」と息子に語っていたとのことである。
左から右まで広がる価値観の沖縄を、一つにまとめてきたのが翁長氏であり、それは子供の頃からの翁長氏の長年の夢でもあった。
自民党出身者から共産党までの様々な価値観の人々をまとめるために、日本本土の基地推進派のみならず、沖縄内外の新基地反対派からも常に批判にさらされており、その舵取りは本当に容易ではなかったと思う。
辺野古基地建設に強く反対していたことから、日本本土では翁長氏をリベラルの騎手と見る人も多い。しかし、翁長氏は、最後までれっきとした保守政治家であり、そのように自分を画し続けた。
私は本土出身者であるが、この間、日米外交の観点から沖縄の基地問題に深く関わってきた。名護市長など沖縄の政治家や市民団体の方を米国の首都ワシントンにご案内し、米政府・米議会との交渉の場を作るなどしてきた。
翁長氏とも、「米国への訴え方」という観点から時に意見交換する機会があった。知事選の前に沖縄県ワシントン事務所の設立を提案したところ、氏は県事務所設立を知事選の公約に入れてくれた。そして、当選後、翁長氏は、実際にワシントン事務所を設立した。その後も、氏は何度もワシントンに通って辺野古基地建設反対をアメリカで訴えた。
私が沖縄の対米外交についてあれやこれやと意見をするのを聞きながら、翁長さんから、「猿田さん、私たち保守の政治家はそういう風には動かないんだよ」と言われたことは、今も強い印象として残っている。
これを聞いた当時の私は、「既に日本政府には十分に抵抗勢力と見られているのだから、保守のやり方とか革新のやり方とか、こだわらなくても良いのではないか」という気持ちを抱いたものである。
しかし、右から左まで幅広い価値観の人々をまとめながら、保守政権である自民党政権に対抗していかなければならない立場にあったのが翁長氏である。そこには確固たる翁長氏自身のやり方があり、今思えば、それが故に「オール沖縄」として沖縄はまとまっていたのだと思う。
2015年9月、国連人権理事会で演説をした翁長氏が「自己決定権」という言葉を使って話題になった。「自己決定権」とは、「自らのことを自らで決めることができる権利」である。
すなわち、翁長氏の演説は、「沖縄の人々は、自分たちの政治的運命を自分たちで決めることが許されねばならない。」との叫びであった。
実際に、翁長氏は「オール沖縄」のアイデンティティーで沖縄をまとめあげた。2014年~2016年は、名護市長選挙、沖縄知事選、衆議院議員選挙、参議院議員選挙など沖縄における辺野古基地建設に関連する選挙で、辺野古基地反対陣営は勝利を収め続けた。日本全国で自民党が大勝し、国会において3分の2近くの議席を確保した選挙でも、沖縄では自民党が一勝もできない、という状態であった。
「あらゆる手段を使って辺野古に基地を作らせない」と繰り返していた翁長知事は、「知事の任期である4年の間に安倍政権が倒れることを予想していた」のではないかと評されたりもする。
私の属する新外交イニシアティブ(ND)では、これまで幾度も沖縄の人々とともに、辺野古基地建設に問題を提起するイベントを沖縄で開催してきたが、
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