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今、問われる政府・官庁の公文書管理、情報公開

政府活動の記録とは何か、という根本的な議論が必要だ

三木由希子 特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長

 内容も行政文書として保存することも文書管理者が確認を行うので、責任者の役割を明確にしたとも言えるが、そこには二つの問題がある。一つが、何が行政文書に記録されるのかという質への影響、二つ目が行政文書の範囲を実質的に変更していると思われることだ。

 文書の内容が不正確でよいとは誰も思わないが、ここで問題になるのは、正確性の確保の手順が、行政文書の作成にどのような影響を与えるかだ。例えば、打ち合わせ等の記録は、内部の打ち合わせは①が、外部との場合は①と②の手順が記録作成の際に行われるが、いずれも文書管理者が確認するので、このレベルで政治的な責任が負える程度の内容に選別されたものが残すようなインセンティブが働くだろう。

 外部との打ち合わせも同様で、相手方に発言内容の確認を求めれば、双方にとって、相手方に確認を求めなくても記録として残せるが、その場合は相手方に未確認であることを明示するので、①と同じになる。打ち合わせの記録などは、相手方と双方が記録に残せばよいのだが、あえてこのような手間をかける手順を設けたことの意味は考える必要があるだろう。

 また、こうした懸念が単なる懸念ではないことが、最近の報道で明らかになっている。8月30日の毎日新聞によると、経済産業省では打ち合わせ等記録について、誰が何を言ったのかがわかる議事録は作らない、官房副長官以上のレクチャーでは議事録を作成しないなど、内部で指示があったという。

拡大経産省が作成した公文書管理に関する内部文書。「議事録のように、個別の発言まで記録する必要はない」と記載されている

文書の保存場所によって行政文書か否かが区別されてきた

 もう一つの問題が、行政文書として残す文書も手順で選別されかねないということだ。改正ガイドラインは、紙文書も電子文書も、いずれも行政文書として共有のキャビネットやフォルダーに保存する場合は、文書管理者の確認の手順を追加した。

 行政文書とは、(a)行政機関の職員が職務上作成取得した文書であって、(b)組織的に用いるものとして、(c)行政機関が保有しているものという3つの要件で定義されている。2001年4月に施行された情報公開法の請求対象文書の範囲として定められ、公文書管理法はそのまま管理対象としているが、かねてからずっと問題になっていたのが(b)の要件だ。

 この趣旨は本来、業務上複数の職員で共用されていれば該当するという利用のされ方で判断し、どこに保存されているのかで区別するものではない。しかし実際の運用は、職員が共用できる場所に文書が保存されているか否かで、行政文書とそれ以外(個人メモ)が形式的にわけられる傾向にある。加計学園問題では、「総理のご意向」などと書かれた文書を文科省は最終的に認めたが、その報告書では、共有フォルダーに保存されていたものは行政文書としたものの、一部の文書は個人のパソコンなどに保存されており、本来、行政文書ではないとの認識が示されたことは、その典型だろう。

 個人メモであれば公文書管理法の適用も受けないので、文書の扱いをルールに縛られずに判断でき、情報公開請求の対象にもならないので、情報公開逃れではないかと指摘されてきたのだが、改正ガイドラインはそれとは別に形式的な手順を設けた。法律上の行政文書の定義やその解釈は変わっていないが、手順で行政文書の範囲をコントロールできるよう制度の運用を変更したと言ってよいだろう。

公文書管理に関する専門職の不在

 もちろん、政府はこうした批判があることは承知で、ガイドライン改正内容を検討した公文書管理委員会などでは、文書の正確性の確保や保存の手順を加えることはそのような趣旨ではないと説明している。しかし考慮すべきは、改正が政治主導で行われてきたことだ。

 公文書管理委員会をへてガイドライン改正という形式をとったが、その内容は別途、内閣官房、内閣府、総務省により作成され、そのままガイドラインに反映させたものだ。政治の意思は、加計学園問題を受けて、こうした手順を設ける必要があるということだ。その結果、行政文書とは何かという基本的な部分が、揺らいでいるわけである。

 公文書管理のあり方をめぐっては、アーキビストなどの専門職の不在がさまざまな問題の原因との指摘を受け、2018年7月の閣僚会議決定で、従来進めていた専門職の本格的な導入のほか、専門的に公文書管理を監視する政府CRO(Chief Record Officer)を設けるとした。CROは、特定秘密保護法の監視を行っていた独立公文書管理監を局長級とし、その下に「公文書監察室」を置く措置を行った。

 こうした対応は、設定されたルールの実行性を確保するもので、ルールそのものの妥当性を問うものではない。また、専門職は、行政文書として存在するものの整理や保存期間の設定、保存方法について、技術的・専門的助言を行うことが基本だ。例えば、自衛隊日報問題では、日報のコピーが防衛省内に散在していたことがわかっているが、こうした問題は専門的対応の範疇だろう。しかし、保存される行政文書の質は、どのような政府であるのか質を反映するので、専門職も監視機関もその影響を受けざるを得ない。

政府の諸活動としての記録とは何か

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筆者

三木由希子

三木由希子(みき・ゆきこ) 特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長

横浜市立大学文理学部国際関係課程卒。大学在学中より情報公開法を求める市民運動にかかわり、その後事務局スタッフに。1999年7月の組織改称・改編にともなうNPO法人情報公開クリアリングハウスの設立とともに室長となり、2007年4月から理事、2011年5月から理事長。情報公開・個人情報保護制度やその関連制度に関する調査研究、政策提案、意見表明、情報公開制度の活用を行うとともに、市民の制度利用のサポート、行政、議員に対しても情報提供や政策立案への協力などを行う。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです