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流行する「GHQによる洗脳」論の危うさ

保守系言論人によって関係書籍の出版が相次いでいる「WGIP」とは何か?

早川タダノリ 編集者

拡大専用機から降りるマッカーサー元帥=1945年8月、神奈川県の厚木飛行場

 吉田裕氏の『日本軍兵士』(中公新書、2017年)が売れている。アジア・太平洋戦争を「兵士の目線・立ち位置」に徹して彼らの凄惨な戦場体験を克明に描き出そうとした本書は、7月末現在で14万部を突破したという。ここ数年、「あの戦争」をもっぱら正当化する書籍が大量に生産されてきた出版状況からすれば、異例のヒットとなった。

 こうした中で、戦没者を崇高な犠牲として賛美する観点から、ケント・ギルバート氏がトーンの高い発言をくりだしている。彼の連載エッセイ「ニッポンの新常識」(夕刊フジ、2018年8月18日付)で、次のように書いていた。

 何しろ日本は、国を守るために戦って命を落とした英霊に対して、感謝や慰霊の気持ちを示す行為に対し、「戦争賛美だ」とか、「軍国主義の復活につながる」といった、非論理的な理由で批判される不思議な国である。
 彼らの正体は、GHQ(連合国軍総司令部)が施したWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)によって洗脳された「自称・平和主義者」と、その純真無垢さを利用する「敗戦利得者」や「外国工作員」なので、冷静で論理的な議論は期待できない。最も有効な対応策は「脱洗脳プログラム」と「スパイ防止法」の実施である。

 ここで彼が持ち出している「WGIP」とは、「戦後占領期にGHQは、検閲等を通じて日本人に施したウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)というマインド・コントロールによって、日本人を徹底的に洗脳し、武士道や滅私奉公の精神、皇室への誇り、そして、それらに支えられた道徳心を徹底的に破壊することで、日本人の「精神の奴隷化」を図ろうと試みた」(ケント・ギルバート『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』PHP研究所、2015年)という、GHQの占領政策のことを指す。

 彼は次のようにtwitterで書いてもいた。

 あなたが「愛国心」「皇軍」「大東亜共栄圏」「八紘一宇」などの言葉に対してほんの少しでも抵抗を感じるようなら、WGIPに洗脳されていると思った方がいいですよ。それがWGIPの目的だったのですから。
21:58 2018年8月18日 https://twitter.com/KentGilbert01/status/1030801044626759680

 エエッ? 「愛国心」「皇軍」「大東亜共栄圏」「八紘一宇」に抵抗を感じたらGHQの洗脳の影響下にあることになるらしい。けれども、このツイートにはそれぞれ数百人単位のリツイートと「いいね」がつけられ、この発言に疑問を呈した人には信者が「WGIPがわかっていない! あなたはまだ洗脳されている!」とギロンをふっかけているのである。

「WGIPによる洗脳」史観

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筆者

早川タダノリ

早川タダノリ(はやかわ・ただのり) 編集者

1974年生まれ。国民統合の技術としての各種イデオロギーに関心を持ち、戦前・戦時の大衆雑誌や政府によるプロパガンダ類をはじめ、現代の「日本スゴイ」本などを蒐集。著書に『神国日本のトンデモ決戦生活』(ちくま文庫)、『「愛国」の技法――神国日本の愛のかたち』『「日本スゴイ」のディストピア――戦時下自画自賛の系譜』(ともに青弓社)、『原発ユートピア日本』(合同出版)、『憎悪の広告――右派系オピニオン誌「愛国」「嫌中・嫌韓」の系譜』(合同出版、能川元一氏と共著)、『まぼろしの「日本的家族」』(青弓社、編著)などがある。