「自由の戦士」として戦う音楽家たち(下)
アメリカは死なない~レナード・バーンスタイン生誕100年に寄す
倉持麟太郎 弁護士

ハリウッドボウルで共演するオマラ・ポルトゥオンドとドゥダメル
「『自由の戦士』として戦う音楽家たち(上)」に引き続き、自由を求めて戦う音楽家たちの話を続ける。まずはロサンゼルス・フィルハーモニック(LAフィル)の音楽監督である若きベネズエラ人指揮者グスターボ・ドゥダメルから。
闘うドゥダメルのその後
LAフィルは、「上」で触れたマイケル・ティルソン・トーマスが音楽監督を務めるサンフランシスコ交響楽団と並ぶ、アメリカン・オーケストラの西の横綱の一つだ。それを率いるドゥダメルの、祖国を巡る「自由の戦士」としての政治権力との闘いについては、かつて別稿で論じた(WEBRONZA「ベネズエラ人指揮者は『自由の戦士』として闘う」)。
その後もドゥダメルは、ベネズエラのマドゥロ独裁政権との敵対関係の影響から、2017年秋に予定されていた音楽監督を務める祖国のシモン・ボリバル国立交響楽団とのアジアツアーがすべて中止に追い込まれるなど、政治権力との抜き差しならない関係が続いている。
そんななか、レナード・バーンスタイン生誕100周年を愛でるタングルウッド音楽祭と時を同じくして、ロサンゼルスのハリウッドボウルでは毎年恒例の夏のコンサートプログラムが行われていた。目玉の一つが、ドゥダメル指揮LAフィルとキューバ国立バレエ団によるチャイコフスキーの「くるみ割り人形」である。
冬の風物詩的な演目である「くるみ割り」を夏に、しかもヨーロッパの伝統的バレエ団ではなく、南米に思いを馳せるドゥダメルらしく、オバマ政権で2015年に国交回復をしたキューバのバレエ団を指名するあたりが、政治的な観点も含めた様々な文脈で「面白い」公演であった。
しかし、この公演においても、政治権力はドゥダメルを放っておかない。
トランプ政権下で、アメリカとキューバ間の渡航及び文化交流への締め付けが厳しくなり、“トランプ政権のビザ政策として”、渡米を予定していたキューバ国立バレエ団ダンサー全員のビザが却下され、本プログラムは強制的に中止せざるを得なくなったのである。
夏のハリウッドボウルを彩るメインプログラムの一つが、実に政治的理由でキャンセルせざるを得ない事態に追い込まれたのだ。
ここで一人の女性がこの窮地を救った。87歳の現役キューバ人歌手、オマラ・ポルトゥオンドである。
オマラ・ポルトゥオンドとイブライム