「圧勝」しても消えない政権のレームダック化のリスク。最初の焦点は沖縄県知事選
2018年09月12日
9月7日に自民党総裁選が告示され、安倍晋三総裁と石破茂元幹事長の一騎打ちとなりました。情勢については、当初から国会議員票でリードする安倍総裁が優勢と見られているのはみなさま御存知のとおりです。
石破氏が前回6年前の総裁選では大きくリードした党員票でも、新人同士の争いであった前回と異なり、今回は現総裁と新人の一騎打ちであることから、石破氏がリードするのは難しいのではないかと予想しています。
実際、4日付けの朝日新聞「自民『総裁選は終わり。今は沖縄知事選』 野党は共闘へ」によれば、自民党の二階俊博幹事長は周囲に「総裁選はもう終わっている。今は沖縄知事選だ」と語ったとされ、安倍総裁の三選が党内で既定路線になっていることを伺わせます。
今回の総裁選は野党時代だった2012年とは異なり、自民党として総裁選を盛り上げる意図はないように見えます。総裁選が大きく盛り上がることもなく、安倍総裁が圧勝しても、それは「既定路線」であり、内閣支持率や自民党の政党支持率が大きく伸びることはないと予想されます。
反対に、もし仮に石破氏が善戦すれば、安倍総裁の求心力の低下を招くのは間違いありません。そもそも自民党の総裁任期は「連続3期9年まで」となっていますから、安倍総裁に4期目はありません。アメリカ大統領しかり、最後の任期中には遠からずレームダック(死に体)になるのは必至です。
安倍総裁が三選すると仮定した場合、レームダック化を早める要因になる可能性が高いのが沖縄県知事選挙です。当初は今年11月が予定されていましたが、翁長雄志前知事の急逝に伴い、9月13日告示、30日投開票の日程になりました。
前回の沖縄県知事選挙では、翁長氏が36万820票を獲得、当時現職であった仲井眞弘多氏に約10万票の差をつけて当選しました。しかし、2016年12月には辺野古訴訟で沖縄県の敗訴が確定し、今年2月の名護市長選挙では、自公維推薦の渡具知武豊氏が現職を破って当選したことなどもあって、現職である翁長知事の苦戦を予想する声もありました。
しかし、翁長前知事の急死で情勢は一変しました。日程は前倒しされ、沖縄県政における与党系、かつ国政における野党系が推薦する玉城デニー氏(衆議院議員)と、自民・公明・維新が推薦する佐喜眞淳氏(前宜野湾市長)による、事実上の一騎打ちが予想されます。
安倍政権にすれば、絶対に負けられない沖縄県知事選挙が、総裁選の重なるこのタイミングで行われることに、政治の世界の大きな流れというか、運命めいたものを感じます。
玉城氏が翁長前知事の後継として立候補する見通しが固まった8月下旬から今月にかけて、政党やメディアが行ったとされる世論調査の数字が飛び交っています。なかでも精度の高い世論調査に定評のあるJX通信社の情勢調査「新潟県知事選 序盤は花角氏と池田氏が横一線=JX通信社 独自情勢調査」と、同通信社の米重克洋氏のTwitterでの発言が興味深い。
私もいくつかの数字を拝見しましたが、個人的には、投開票まで約1ヶ月ある段階の調査にしては、未定者が約2割と非常に少ないことに驚きました。単純な比較はできませんが、今年6月に投開票された新潟県知事選挙では、新人同士の争いということもあって告示日直前の週末の世論調査 で態度未定者が5割弱だったことを考えると、Twitterでの米重氏の発言にもうなずけるものがあります。
安倍政権を支えている要因の一つに選挙の強さがあります。衆議院選挙では2012年、14年、17年と三連勝し、参院選でも13年、16年と連勝。国政選挙だけでなく、地方選挙でも、負けた選挙の敗因を分析し、次の選挙では勝利を収めています。
例えば、今年2月の名護市長選挙や7月の新潟県知事選挙などでは、当初は自公(維)推薦候補の苦戦が言われながらも勝ちきりました。野党が本気で選挙に勝つ気がない(ように私からは見える)という問題もありますし、公明党の存在が大きいのですが、自民党の正確な敗因分析とその選挙対策には、選挙プランナーとして「見事」としか言いようがありません。
それだけに、今回の沖縄県知事選挙が、仮に序盤の世論調査のような結果になった場合、安倍総裁は三選後にいきなり冷水を浴びせられることになります。来年の統一地方選挙や参院選を見据え、党内から「安倍おろし」の声が出てくる可能性も否定できません。先述した二階幹事長の発言は、こうした最悪の展開も予想してのことではないかと、個人的には見ています。
安倍総裁は、総裁選にからみ、秋の臨時国会で党として憲法改正案を提出する考えを示していますが、これが足かせになる可能性もあります。
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