メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

29時間で身につく「にわか韓国語講座」(1)

元ソウル特派員が伝授する魔法のメソッド。語学の常識を無視した究極の省エネ勉強法!

市川速水 朝日新聞編集委員

韓国の音楽グループ「BTS」(防弾少年団)。歌もダンスも抜群

みなさんこんにちは。アンニョン・ハシムニカ!

 韓国の言葉と文化をあっという間に学ぼうという無謀なコーナーをはじめます。ようこそお訪ねいただきました。この空間、いったい何なんだ、論考をたたかわせるWEBRONZAと関係ないじゃないかと思った人、半分正解、半分早とちりです。

 これから始めようとしているのは、語学の常識を無視した究極の省エネ勉強法、そして、これを読んでユーザーのみなさんが実践していただくとすれば、初めての試みの初めての実験台というわけです。騙されたつもりで是非参加してください。

 すでに朝日新聞社内のデスクやカルチャーセンターの職員、取材で出会った韓国好きのミュージシャンなど、何人かは実践を約束してくれています。

 途中で挫折してもかまいません。半ばまで行った時、これは決して語学が目的ではなく韓国と日本の文化比較論だと気づいてもらえることでしょう。

日本語の発想からアプローチします!

 話はちょっと変わりますが、韓流ブームが再燃するなかで、今その先頭を走るグループの一つは断然、「BTS(防弾少年団)」ですよね。

 日本での人気はもちろん、アメリカのビルボードで賞を獲ったり、あのジャスティン・ビーバーをしのぐツイッターアイコンとなって世界的に注目されています。メロディーの斬新さとキレのよいダンス・パフォーマンスは心地いいですよね。

 口笛から始まる名曲「DNA」は、1人の出会いが運命的な必然だったと切なく呼びかける歌ですが、この詞の一節でも分かったら楽しいと思いませんか?

 耳を澄ますと、繰り返し出てくる言葉がいくつかあります。お気づきでしょう。

 「ウヨニ」「ヨンウォニ」「ウジュガ」「ウンミョン」

 これは、「偶然に」「永遠に」「宇宙が」「運命」という漢字をそのまま韓国の読み方で読んでいるのです。

 どうしてそうなのかは、おいおい説明しますが、もう4つの言葉を覚えてしまったことになります。一つひとつの発音がどことなく日本語と似ていますよね。特に宇宙の「宇」、運命の「運」は日本語と同じです。また助詞も「偶然に」「永遠に」の「に」、「宇宙が」の「が」が一緒なんです。

 韓国語を聞いていて、たまに日本語っぽい響きがするなあ、と思ったことがあると思います。でもそれ以上知ろうと思うと「語学」「外国語」の世界に足を踏み入れてしまうから、何となくそれでおしまい、ではないですか?

 ここでは「なぜ似ているのか」「どこが違うのか」「似てる、違うに法則のようなものはないのか」と、日本語、日本人の発想からアプローチしてみることにします。

 基本文型? てにをは? 文法? すべて後回しにしましょう。

 とりあえず「通じれば、まあいいじゃん」と恥を忘れてある程度は覚え、体で感じましょう。それができるのが韓国語なのです。

実はそれほど韓国語が得意ではありません…

 講座というのもレッスンというのもおこがましいのですが、韓国語の世界を味わう。あるいは日本語と韓国語の似た点、違う点を楽しみ尽くすことが、これから始めようとしていることです。

韓国語を流暢に操り韓国大統領と対談もしたことがある草彅剛
 のっけから期待に背きますが、私自身は韓国語が得意かと聞かれれば「それほどでも…」と答えるしかありません。7カ月留学し、その後ソウル特派員として勤務したのが3年8カ月間。ソウル駐在中はオフィスで日本語を禁止してもらい、取材もなるべく韓国語を使い、帰国後は細々と話す機会を狙っています。在日コリアン、来日の駐在ビジネスマンの友人がたくさんいるので、話をする機会には事欠きません。

 実力的には新聞は読める、ニュースもだいたい聞ける。日常的な会話もできる。だけど友達同士の会話やヤクザ映画のせりふ、釜山訛りなどは苦手です。

 では、どうしてこんなコーナーを開こうかと思ったかというと、韓国語とふれあうにつれ、いかに日本語に近いか、覚えるのが簡単か、話せて読める楽しみがこんなにあるのか、気づいたことが多いからです。自分ひとりで独占するのはもったいないと思うようになりました。

 韓国に少しでも関心を持っている友人に「実は簡単だ」と自分の勉強法を話すと、びっくりして感心してくれます。そのうちに、講義でもしたら、本にしたら…と勧めてくれる人がいて、それならば整理してみようかと決心したわけです。

日本語と韓国語は東京弁と関西弁くらいの違い!?

 例えばアジアをよく知るフランスの友人は「日本語と韓国語をセットにして勉強したら簡単だった。私たち欧米人から見れば日本語と韓国語は東京弁と関西弁ぐらいしか違わないし、記号のようなハングルも漢字を覚えるよりはよっぽど簡単」というのです。

「スマイルキャンディー」の愛称もある実力派のイ・ボミ。並み居る韓国人ゴルファーの中でも日本語が抜群にうまいといわれる
 確かに、韓国人が日本のゴルフ界や野球界で活躍し、ヒーロー(ヒロイン)インタビューを上手な日本語でやりとりする姿はよく見る光景ですし、日本のタレントや俳優で流暢な韓国語を話す人も多くなりました。韓国語を一番勉強しやすいのは間違いなく日本人が一番で、日本語も韓国人が一番上手だと確信しています。

 では、なぜ日本人は韓国語が難しいと思ってしまうのか。

 一つは、ハングルという奇怪な記号群。とっつきにくいですよね。もう一つは「カムサハムニダ」「チョンマネヨ」「アンニョンハセヨ」とか、日常でよく聞く言葉がどう成り立っているのか理解できないからだと思っています。それが「感謝します」「千万ですよ」「安寧ですか」の漢字を読んでいるだけだと分かったらどうでしょう。なんだ、そうなのか、一気にやる気が出た! こんな人がいたら読んでいただきたいのです。

 ですから、普通の語学の講座とは全く違うものにしようと思いました。私のイメージする韓国語の勉強は、文化を知るためであり、その手段として、なるべく手っ取り早く、完璧を目指さずに1日も早く覚えたいということだからです。

いきなり「早覚えの秘訣」教えます!

 いろいろなことを試してみて、英語や中国語、フランス語も勉強してみて、挫折を繰り返した結果、韓国語の早覚えの秘訣について、次の三つの確信を持つようになりました。

① 韓国語を「外国語」と思ってはいけない。「これはペンです」とか「あいうえお」とか、基礎から学ぼうとすると長続きしないし、つまらない。できる限り省エネしながら、かつ楽しまないと。
② ハングルという記号に騙されてはいけない。一度(だいたいひと晩でも)本気で覚えればそうは忘れないし、科学的・合理的な面もある。少しは苦労するが、覚えた後に、いろいろ日本語と共通するルールを発見する喜びの方が格段に大きい。
③ 韓国語は、発音がカタカナで書ける、それを読めば下手だろうが厳密に正しくないだろうが通じる、おそらく世界でただ一つの言葉だ。うまい、へたという評価を超えて「通じればそれでいいじゃん」と気楽に学べば何とかなる。

 ですから、基礎から学ばないと語学ではない、几帳面な性格で気が済まないと思う方は、このラリーに参加しない方が身のためかもしれません。

 「韓国で美味しいものを食べたい」「ショッピングを楽しんで市場で安くおまけしてもらいたい」「韓流ドラマの韓国語が少しはわかるようになりたい」「K-POPの歌詞の意味を少しでも分かりたい」「日本にあふれている韓国語の交通標識とか注意書きを少し読めるようになりたい」。こんな方に向いています。ちなみに私は全部当てはまります。

 特に2020年オリンピック・パラリンピックを控えて、街並みにどんどんハングル表記が増えています。実は漢字が読める日本人にとっては、こうした標識が一番簡単に読めるのです。

年齢を重ねて日本語をたくさん知っている人が有利です!

 韓国語の習得に一番向いているのは「日本語に関心のある人」だと思います。日本語の語彙が豊富な方、熟語をたくさん知っている方、日本語の様々な言い方の微妙な違いが気になる方です。ということは、年齢を重ねて日本語をたくさん知っている人が有利。外国語は幼い時期から学ぶべきだという「常識」と正反対なのです。

2000年代初め、韓流に火を付けたテレビドラマ「冬のソナタ」のペ・ヨンジュンとチェ・ジウ
 幸い、私は記者になってから日本語の語彙や言葉の選び方に関心をもつようになりました。だから、ある程度自信をもって言えます。外国語は一般論でいえば、もちろん幼い頃からやるに越したことはありません。でも韓国語だけは、日本語をたくさん学んだ高齢者こそが一番楽しめる唯一の言葉なのです。

 もちろん基本は大切です。母音、子音を全部覚える、ハングルの書き順も覚える。あるいは「ひとつ、ふたつ」「1時、2時」と数字を全部言えるようになってから使ってみることも重要です。

 ですから、このコーナーを垣間見てしまった方は、書店の外国語コーナーで売っている基礎的な本と見比べて違いに驚くでしょう。でもその基礎的な本と辞書をそばに置きながら、「正しいアプローチ」で勉強することもお勧めします。ある意味、結論から逆算して必要なことを覚えていく邪道の道を目指す今回の方法と、基礎の基礎から勉強する方法が両立できれば最強です。

 私が伝えたいのは、言葉そのものではありません。韓国語は手段。その言葉を通じて韓国文化を知り、韓国人の友人を作る、あるいは韓国人と議論することです。

 日本にも在日コリアンも多い。仕事で駐在している人もいます。日本に帰化してもルーツや母語が韓国・韓国語の人もいる。朝鮮学校もある。こんな環境の中で、外国語のように聞こえてきた韓国語が片言でも通じて意思疎通ができるのは楽しいものです。

 私見ですが、日本の教育の中にも、大学の選択語学でなく日本語の勉強の時間に韓国語を採り入れた方がいいと思っています。それは、韓国語を通して日本語の構造が見える、日本語の素晴らしさを再確認できるからです。日本語はいまだに、成り立ちが謎に包まれているからです。さらに日本人にとっては実際に話せる機会もたくさんあって役立つ。一石二鳥というわけです。

「29時間」は緻密な計算です!?

 では、始めましょう。毎週1回のペースで発信します。半年以上かかるかもしれませんが、たいていは流し読み、斜め読みしていただければ、概ね考えが理解できるようにするつもりです。

 ハングルを覚えるのに3~4日間、漢字語をどんどん爆発的に宇宙的な膨張で覚えていくのがさらに数日。2週間あればそこそこ読めて話せるようになる、と私は考えています。決して誇張ではありません。

 タイトルの「29時間」の意味ですが、だいたい毎週末に27回ぐらいに分けて発信を続ける予定です。勉強する気が満々の人も、週のどこかの1時間かければ覚えられる量です。おそらく途中で何らかのリクエスト(苦情かも)があったりして1回分ぐらい脱線します。さらに、奇怪なハングルを頭に入れるのは1時間では足りないだろう……というわけで、合わせて「29時間」です。いちおう、緻密な計算に基づきます。

やくそくごと

 これから始まるコーナーの表記などの約束事です(すぐ忘れるでしょうから時々再掲します)

①「カタカナで覚えられる」という意味で、カタカナを優先して表記します。その後にハングルで記すこともあります。

②「漢字で覚える」を基本とするので、漢字語として表記できるものはほぼ全部、漢字を添えます。

③日本語の「ん」「ン」に当たるものは韓国語で3種類あります。といっても、日本語の中で私たちはすでに使い分けているので発音を覚える必要はありません。ハングル表記では「n=ㄴ」「ng=ㅇ」「m=ㅁ」です。それぞれカタカナでは「ヌ」「ング」「ム」と半角で表します。前後の関係で、日本語で「ン」と発音しても差し支えない場合は、全角の「ン」とします。新聞で韓国の人名・地名にふるルビは基本的に「ン」か「ム」ですが、例えば金さんという姓は「キム」とルビを振りますが、このレッスンでは「キム」(김)と表すことがあります。「ム」には「U」という母音が入らないからです。皆さんは自然と母音なしの「ム」と発音しています。ここでは、あえて厳密に表記することがあります。

④日本語の「っ」に当たるものも3種類あります。「ツ=ㄷ」「プ=ㅂ」「ク=ㄱ」とそれぞれ半角で表します。これは「ツ」「プ」「ク」と言う直前で息を切る「ッ」です。前後の関係で日本語の「ッ」と発音しても差し支えない場合は、「ッ」のままのこともあります。一般的な本ではまとめて「ッ」、あるいは「t」「p」「k」とアルファベット小文字で表している場合もあります。これもまた、実際には普段、日本人が使い分けをしています。発音のコーナーで詳しく説明します。

⑤ハングル文字の中で「ㄹ」(リウルパッチムと呼びます)を「ル」と表すことがあります。母音付きの「ル」「RU」「LU」ではなく、舌を丸めた「ルルルル」のイメージだからです。

⑥単語や例文は必要最小限、紹介しますが、あくまで例示するもので、一般的な教材のようにふんだんではありません。教則本には、章ごとに辞書のように単語がたくさん載っているものや、「あいさつ一覧」とか「頻出単語」とかもありますが、ひとつ覚えるごとに「さあ、これも覚えましょう」と食べきれないほどの料理を出されるように目まいがした過去を思い出し、あえて少なめに絞りました。

⑦ところどころに、言葉と文化にまつわるエピソードを挿入します。にわか勉強を重ねた過程、韓国文化とふれあうことに感動した話や失敗談、日韓の言葉や考え方の違いについて思うことを書き留めました。くだらない話もありますが、気に入ったものだけ読んでください。

 最初なので少し長くなってしまいました。では、また来週!

29時間で身につく「にわか韓国語講座」(2)につづきます。