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プラスチックごみ規制に出遅れた日本

グローバルな規制の主導権目指す政府、欠かせない日本自身の意識改革

六辻彰二 国際政治学者

 マクドナルドやスターバックスが廃止を表明したことで注目されたプラスチック製ストローに限らず、世界ではプラスチックごみの規制が緊急課題として浮上している。レジ袋など使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する国も出てくるなか、日本の対応は遅れがちだ。政府は来年グローバルな規制を提案する方針だが、その成否は各国を巻き込めるすそ野の広い提案をできるかがカギになる。

世界のプラスチックごみ処理の現状

南太平洋の世界自然遺産、英領ヘンダーソン島に流れ着いた大量のプラスチックごみ=2015年、豪タスマニア大学のジェニファー・レイバース氏提供
 プラスチックごみが問題になりやすい一つの原因は、リサイクルが難しいことにある。

 安価で加工しやすいプラスチックは、さまざまな工業製品に使用されているが、金属など他の素材と組み合わされている場合、プラスチックだけを取り出して破棄する消費者は多くない。異物が混じっているとリサイクルできないので、最終的に手作業での分別が必要になり、ガラス、金属、紙と比べてプラスチックはリサイクルのコストが高くなりやすい。

 また、使い捨てのストロー、カップ、レジ袋などを他のごみと分別して回収する体制が整っていない、あるいはそもそも消費者にリサイクルの意識が浸透していない国も珍しくない。そのため、循環型経済への移行を推進している英国のエレン・マッカーサー財団によると、使い捨てプラスチック製品は世界全体で14パーセントしかリサイクルされていない。

 プラスチックごみがリサイクルされない状況は、開発途上国で特に目立つ。

 開発途上国では、リサイクルされないプラスチックごみが処分場で野ざらしにされやすく、これは河川を通じて海洋汚染につながるだけでなく、周辺住民の住環境や健康をも悪化させやすい。そのため、例えばインドでは29州のうち25州で、使い捨てプラスチック製品を使用した事業者や消費者に罰金や懲役といった刑罰が導入されている。

プラスチックごみの「輸出」

 ただし、いまやプラスチックごみは開発途上国と先進国にまたがる問題となっている。

 先進国でもリサイクルは100パーセントでなく、1980年代から処分しきれないプラスチックごみが「再利用可能な資源」として開発途上国に「輸出」されることも珍しくなくなった。便宜的に「輸出」と呼ぶが、実際には先進国の事業者が開発途上国の事業者に対価を支払い、ごみを持ち出してもらうのである。例えば日本の場合、慶応義塾大学の大久保敏弘教授らのチームによると、プラスチックごみだけで年間500億円分以上が「輸出」されている。

 規制の厳しい土地から規制の緩やかな土地へ運び出されたごみは、開発途上国の各地で山積みにされてきた一方、その一部は海洋プラスチックごみとして他国にも還流している。日本西部では対馬海流に乗って中国沿岸や朝鮮半島から漂着する海洋ごみが増えつつある。

 一方、開発途上国では増え続けるごみ輸入を規制する動きもみられる。例えば、2017年に中国政府はプラスチックを含む24種類のごみの受け入れを年内一杯で禁止すると発表し、2018年4月にはさらに16種類のごみの受け入れを2019年末までで禁止する方針を打ち出した。

 中国は世界屈指のごみ輸入国で、2016年段階では730万トン、世界全体に出回るごみの約56パーセントを各国から引き受けていた。プラスチックごみの問題は海洋汚染の文脈で語られることが多いが、大気、水質、土壌の汚染が社会問題化するなかで中国政府がごみ輸入を禁止したことも、各国にプラスチックごみの規制に向かわせる原動力になったといえる。

出遅れた日本の巻き返し

 ところが、日本ではグローバルな課題になりつつあるプラスチックごみ問題への関心が環境保護団体などを除いて総じて低く、政府の対応も出遅れが目立った。今年6月のG7サミットで英、仏、独、伊、加の5カ国が提案した、海洋プラスチックごみの規制に向けた「海洋プラスチック憲章」に、日本はアメリカとともに反対している。

 この理由として政府は「国民生活や産業への影響」をあげたが、

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