森田浩之(もりた・ひろゆき) ジャーナリスト
NHK記者、『ニューズウィーク日本版』副編集長を経てフリーランスに。主にメディアやスポーツをテーマとして各媒体に執筆している。立教大学兼任講師(メディア・スタディーズ)。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア学修士。著書に『メディアスポーツ解体』『スポーツニュースは恐い』など。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
「上意下達」カルチャーを拭いきれるか? 平成後の東京オリンピックが大きな試金石だ
多くの人が感じているように、一連の不祥事の「主役」たちは、ほぼ一様に「ボス」の空気をまとっていた。
悪質な反則タックルを指示した日大アメフト部の内田正人監督は、大学の人事権を持つ常務理事でもあり、すでに顔つきからして「オレの言うとおりにしていればまちがいない」と言っているように見えた。いわば「昭和のオヤジ」顔だ。
日本ボクシング連盟の山根明会長にいたっては、トレードマークの薄い色のサングラスも含めて、昭和のオヤジどころか、任侠の世界に足を突っ込んでいないかと思わせる風貌だった。案の定と言うべきか、山根は暴力団関係者と交友があったことを認めて辞任した。
そんなオヤジたちを告発し、公の場で重要な証言をしたのが若いアスリートたちだったことも、一連の不祥事のなかで際立つ点だ。
日大アメフト部の悪質タックル問題では、反則タックルをした宮川泰介選手(20)が記者会見を行い、内田監督と井上奨コーチの指示で反則に及んだことを明言した。監督とコーチは関東学生アメフト連盟から、最も重い「除名」の処分を受けた。
体操の宮川紗江選手(18=記者会見時)は8月下旬に記者会見を開き、自身への暴力を理由に日本体操協会から無期限登録抹消処分を受けた速見佑斗コーチの処分軽減を求める一方、速見コーチの指導に関する聞き取り調査の過程で、協会の塚原千恵子・女子強化本部長と夫の塚原光男副会長からパワハラを受けていたと告発した。夫妻は第三者委員会による調査結果が出るまで、職務を一時停止された。
パワハラ、セクハラ、アカハラ……。今ではすっかり日常的なものになった「ハラスメント」という言葉は、日本では平成の始まりとともに市民権を得た。平成元年(1989年)、新語・流行語大賞の新語部門の金賞に「セクシャル・ハラスメント」が選ばれている。
その後30年間は日本社会とスポーツ界にとって、ハラスメント撲滅に向けた闘いの年月だったのかもしれない。スポーツ界ではそれまで「いささか厳しい指導」として片づけられていたものが、「ハラスメント」とみなされるようになった。こうして平成の最後になって、昭和のオヤジ型の指導者は若いアスリートからきっぱりと最後通牒を突きつけられた。
不祥事からの信頼回復という大きな課題はあるが、「オレの言うとおりにしていればまちがいない」というスポーツ界の上意下達のカルチャーに風穴が開いたことは、平成の間に勝ち得た進歩ととらえていいだろう。
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