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[102]18年ぶりのピョンヤン・ダイアリー

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

建国70周年の記念式典で行進をする市民20180909北朝鮮建国70周年の記念式典で行進する市民たち=2018年9月9日 撮影・朝日新聞社

9月4日(火) 午前中「報道特集」の定例会議。超大型の台風が接近しているというので、そこに話が集中。昼、ワシントン在住のIさんと久しぶりにお会いして、長い時間を費やして調査報道をしている案件について打ち合わせ。「クレスコ」の連載記事。先週の青森のいじめ自殺事件の放送に触発されて、SNSという疑似公共空間の危うさについて書く。入院中のUさんから連絡。前川喜平さんと一緒に明治大学で10月から開講する6回シリーズの講座の申し込みが定員を超えたとのこと。中身を充実させなければ。

 夜8時半から思い立ってプールに泳ぎに行く。こんな時間に泳ぐことはめずらしい。いろんなことがあって、心身ともにひどくストレスがたまってしまい、泳がずにはいられない気持ちになったのだ。こんな時間なのに黙々と泳いでいる人が結構いた。プールの平均年齢は午前中よりも若干若いかな。

アクセス・ジャーナリストと太鼓持ち記者

9月5日(水) あしたからの北朝鮮行きの準備を急いで行う。18年ぶりのことなので、どんな変化があるのか。まあ、あまり過剰な期待はしないことだ。だが自分の目で直接見ることが何よりも重要だ。強い台風の被害。関空がダメになっている。これはえらいことだ。日下部正樹キャスターが現地で取材にあたっている。

 ボブ・ウッドワードの新著『FEAR』(「FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実」)の内容が話題になっているようだ。ワシントン・ポストが報じた抜粋を読んだだけでも、トランプのホワイトハウスがいかに惨憺たる状況になっているかがうかがえる。よくこれで政権がもっているものだなと思う。なかでもマティス国防長官がトランプ大統領について「小学5、6年生並みの理解力だ」とこぼす場面などは迫真力に富んでいる。ボブ・ウッドワードはG・W・ブッシュ時代にアクセス・ジャーナリストなどと批判を浴びたが、トランプ政権下ではどうなのだろう。

 そう言えば、大統領選挙のさなか、ワシントンDCで外国人記者を締め出したトランプの外交問題に関する演説会で(なぜか僕らは中に入ることができた!)、会場の最前列近くにウッドワード記者がいたのを目撃したことがあったなあ。ウッドワードは実によく現場に足を運んでいる。日本に生息しているのは、アクセス・ジャーナリストどころか、単なる太鼓持ち記者か愛玩犬記者、ポチといった下品な言葉の方が似つかわしい人々ではないか。関空の件、気になる。

北海道地震で動揺しつつ、猪木議員と北朝鮮へ

9月6日(木) 朝5時半過ぎに起きて北朝鮮取材出張のためのパッキングなどの準備。ところがテレビをつけたら、とんでもないことが起きていた。北海道で震度6強(のちに震度7に修正)の地震があった。熊本地震以来の強さの地震だ。震源は胆振地方のようだ。大丈夫だろうか。こころが動揺する。しかし、午前9時5分の北京行きの便の出発時間が迫っている。アントニオ猪木議員をはじめ尽力していただいた関係者に対してドタキャンはできない。長い時間をかけて準備していただいたのだから。

 意を決して飛行機に乗り込む。機内でWi-Fiをつなぎ情報をとるが、時間が経過するとともに地震被害の大きさを知り、拷問にあっているような気分に襲われる。北海道全域でブラックアウトになっているようだ。死者・負傷者の数も増えつつある。土砂崩れで地形が変わっている様子を機内のNHKニュースの映像で見る。言いようのない不安が胸中をよぎる。

 現地時間の正午に北京空港に到着。猪木議員他3人の随員に僕が加わる形。猪木議員は足の手術から時間がたっておらず、車いすでの移動となる。まだリハビリも全くやっていないなかでの強行軍だという。北京在住の報道機関の記者、カメラマンらが空港の出国出口地点に待ち構えていて、車いすの猪木議員に

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