斎藤貴男(さいとう・たかお) ジャーナリスト
1958年、東京生まれ。新聞・雑誌記者をへてフリージャーナリスト。著書に『戦争経済大国』(河出書房新社)のほか、『日本が壊れていく――幼稚な政治、ウソまみれの国』(ちくま新書)、『「明治礼賛」の正体』(岩波ブックレット)、『「東京電力」研究──排除の系譜』(角川文庫、第3回「いける本大賞」受賞)、『戦争のできる国へ──安倍政権の正体』(朝日新書)など多数。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
安倍政権の対米従属。日本国民がアメリカの戦争に駆り出される未来が危惧される
「戦争経済大国(中)」では、イラン・イラク戦争や湾岸戦争、ペルー日本大使公邸人質事件などを経て、日本経済の利益擁護者としての軍事力増強を求める声が、経済界で一気に高まり、憲法改正の議論につながっていく状況を報告した。
当然のことながら、軍事力よる国家安全保障という大きなイシューが、ただ単に国土防衛とか、周辺諸国の動向などというシンプルな問題意識だけで語られることはあり得ない。もっとも、日本では北朝鮮問題や中国の脅威ばかりが強調され、一般の議論がその方向に誘導されがちなのは事実だが、実際には巨大資本やこれに連なる人々の経済的利害こそが、現在の方向性が内在する最大のモチベーションなのではあるまいか。財界が近年、足並みを揃えて憲法改正に向けた動きを加速させていることは、もちろん偶然ではない。
経済同友会が集団的自衛権の行使容認を求めた提言の概要は前回で見た通りだ。取りまとめたのは「安全保障委員会」(委員長=加瀬豊・双日会長、現在は武藤光一・商船三井会長)だったが、同友会は昨年、8年ぶりに「憲法問題委員会」(委員長=大八木成男・帝人相談役)を設置している。
経団連の榊原定征(さだゆき)会長が記者会見を開き、「平和憲法の精神を継続した上で自衛隊の存在意義を明確にすべきだ」と述べたのは昨年5月8日のことだった。5日前の3日に発行された『読売新聞』朝刊のインタビューで、安倍晋三首相が東京五輪の開催される2020年中の改正憲法施行を目指すとし、この際、焦点になる9条については現行の条文を特に改めなくとも、自衛隊の存在を明記できればよいと発言していたのを受けたものである。この一見ソフトにも映りやすい提案の怖さは前回に指摘した通りだが、榊原氏は「安倍首相が明確な方向性を出されたことは、経済界としても重い発言と受け止めている」とも語り、あくまでも政権を支持する強固な意志を示してみせた。
経済同友会と経団連は当初、それぞれの提言を2017年中に発表する方針を明らかにしていた。18年9月下旬現在、まだいずれも実現していないのは、政局や社会情勢を見極めた上で、最も効果的なタイミングを見計らっているのだろう。とりわけ経団連で憲法問題を扱うのは、この間に榊原氏から後を託された中西宏明新会長(日立製作所会長)が委員長を兼務する「総合政策特別委員会」で、かなりの力の入れようだから、曖昧に済ませることはないはずだ。
なお日本商工会議所も2017年度以降、憲法問題をテーマとする勉強会を重ねてきている。25年にまとめた憲法改正に関する論点整理をベースにしているとされるが、独自の提言や意見書などを公表する予定はないという。