メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

戦争経済大国(下)米国へのコンプレックスと隷属

安倍政権の対米従属。日本国民がアメリカの戦争に駆り出される未来が危惧される

斎藤貴男 ジャーナリスト

 財界が現行憲法の特に9条をグローバル・ビジネスの制約と捉え、その改正を求める根拠は多様だ。大きな背景にはアメリカの意向があり、これに従う態度こそが利益の極大化をもたらす、という判断があることは間違いない。ただ、より直接的には、前回で紹介したIJPC(イラン日本石油化学)の経緯や、高坂節三・経済同友会憲法問題調査会委員長(2003年の取材当時)の発言などからも理解できるように、軍事力をグローバル・ビジネスの用心棒として活用したい発想があると見て差し支えないのではないか。

 そして現代の安倍政権は、“アベノミクス”における「成長戦略」の柱のひとつに、インフラシステム輸出という国策を位置付けた。主に新興成長国群をターゲットとして、計画的な都市建設や鉄道、道路、電力網、通信網、ダム、水道などのインフラストラクチュア(社会資本)を、それぞれコンサルティングの段階から設計、施工、資材の調達、完成後の運営・メンテナンスまでを「官民一体」の「オールジャパン体制」(大量の公表資料で強調されてきた形容)で受注し、手がけていく。民主党政権下で「パッケージ型インフラ海外展開」と称されていた戦略を、安倍氏流にリニューアルしたものだ。

原発事故は省みられず

 インフラシステム輸出の中核には原発輸出が位置づけられている。福島第一原発事故の惨事は省みられていない。地元住民がどれほど反対しようと、各地の原発の再稼働が強行されている理由は、この際、日本の原発は危険でないと、輸出の売り込み先にアピールするためもある。原子力立国への志向は、パッケージ型インフラ海外展開を進めていた当時の民主党政権と変わらない。

 安倍氏流のリニューアルとは、この国策に「資源権益の獲得」および「在外邦人の安全」という独自の要素を組み込んだことである。インフラシステム輸出の相手国に地下資源が豊富なら、それらを有利な条件で回してもらう。ただし資源国には紛争リスクが付きものだから、現地に赴く日本人労働者やビジネスマンはテロの標的にされかねない危険を伴う。政府は国策のために働く彼らを国家として守る、というストーリーだ。

拡大政府専用機から降ろされたひつぎに花を手向け、祈る日揮や政府の関係者ら=2013年1月25日、羽田空港

 アルジェリアの天然ガス精製プラントが武装グループに襲撃され、エンジニアリング会社「日揮」に雇用されていた日本人労働者10人を含む約40人が殺害された事件を想起されたい。2013年1月のことで、前年の暮れに第2次政権を発足させたばかりだった安倍首相は自民・公明の両党にプロジェクトチーム(PT)設置を指示し、陸上自衛隊出身の中谷元衆議院議員(後に防衛相)を座長に就かせている。PTの議論は同年11月、あのような場合の自衛隊による邦人救助のための陸上搬送について定めた自衛隊法改正に直結していくのだが、筆者が中谷氏に取材した内容は、前述・高坂節三氏の話と、見事なまでに符合していた。こんな具合である。

拡大中谷元氏
 ――自衛隊法の改正はインフラの海外展開が国策になっていることとの関係で捉えて構いませんか。

 「そうですね。カントリーリスク対策の一環ということで。先進各国は、特にアメリカでは企業が海外で自由にビジネスをやる。何かあれば軍隊が飛んできて安全を確保してくれます。フランスだって武装したガードマンが常に配置されている。それが国際社会なんです。これまでの日本はそんなこともできなかった。イラクやインド洋に自衛隊が派遣された時みたいにその都度、特措法を作らなくちゃいけない」

 ――この種のリスクは必然的に高まってくる、と。

 「科学技術立国の日本は、世界のトップランナーです。企業はどんどん外に出掛けて行って貢献すべきでしょう。われわれは政府として、その人たちをどう支援するのかを考える。日揮にもヒアリングしましたが、勉強になったのは、現地の危険情報や退去勧告を、日本は早く出し過ぎると言うんだね。それで現場を放棄している間に、中国や韓国に大きな仕事をかなり取られてしまってきたと。人命の尊重は当然ですが、国際社会では命を懸けて、覚悟をしながら企業活動をしている国々があるんだという現実から目を背けてはならないと思う」

 ――最後は憲法の問題になりますか。与党内でも公明党は改憲に慎重だと聞いています。

 「こういう話はいつも憲法の壁にぶつかるんです。(後略)」(拙著『戦争のできる国へ――安倍政権の正体』〈朝日新書、2014年所収〉)

敗戦国から“東西冷戦の戦勝国”へ


筆者

斎藤貴男

斎藤貴男(さいとう・たかお) ジャーナリスト

1958年、東京生まれ。新聞・雑誌記者をへてフリージャーナリスト。著書に『戦争経済大国』(河出書房新社)のほか、『日本が壊れていく――幼稚な政治、ウソまみれの国』(ちくま新書)、『「明治礼賛」の正体』(岩波ブックレット)、『「東京電力」研究──排除の系譜』(角川文庫、第3回「いける本大賞」受賞)、『戦争のできる国へ──安倍政権の正体』(朝日新書)など多数。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです