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安倍氏の総裁3選で見えた派閥政治の復活

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

自民党総裁への3選が決まり、総裁選を競った石破茂氏(左)と健闘をたたえ合う安倍晋三首相=2018年9月20日拡大自民党総裁への3選が決まり、総裁選を競った石破茂氏(左)と健闘をたたえ合う安倍晋三首相=2018年9月20日

石破氏健闘が意味するもの

 自民党総裁選の結果、安倍晋三首相が3選を果たしました。安倍氏が圧倒的に有利という事前の観測や、安倍氏の陣営に属する国会議員から「石破茂氏を再起不能なまでに打ち負かす」というコメントが流れたことなどを考えると、挑戦者の石破氏はかなり健闘したと言えるでしょう。

 今回の総裁選では、安倍首相が予想していた以上に、地方の不満票が石破氏に流れました。国会議員票に関しては、各紙が面白おかしく報じている「カレーライス事件」が象徴するように、参院竹下派による切り崩しや、小泉進次郎氏の石破氏支持による若手の離反があったのでしょう。こうしたすべての意味合いを総括すると、今後、自民党では派閥政治がカムバックすると思われます。

 なぜ、そう思うのか。かつての派閥ほどでないとはいえ、自民党内ではいまも厳然と派閥の論理が幅を利かせています。安倍氏の再選が固かったのも、三つの大派閥を押さえているからです。しかし、安倍首相個人のリーダーシップに関しては、森友・加計学園問題の影響もあり、党内に異論なしというわけではない。とりわけ地方の不満の強さが示され、安倍首相の強いリーダーシップに傷がつくことによって、派閥政治の自由度が増すと考えるからです。

異論が噴出しやすく

 逆風のなかで、わずか20人の所属議員を抱えるに過ぎない石破派が、国会議員票を73票も勝ち取ったということ。そして、地方票を45%以上取ったという事実は、安倍陣営がこれまで押さえこんできた党内の異論や支持基盤の異論が、噴出しやすくなるということを意味します。明確な後継候補がいなくても、ひとたび権力基盤に弱さを感じ取れば様々な思惑が動き出すだろうからです。

 今後、さまざまな国内政策をめぐる案件で、利害関係を有する派閥の領袖たちが文句をつけやすくなるでしょう。2019年夏には参院選があります。参院選は、各党が取り分ける都市部よりも地方の一人区の比重が高く、地方のロジックが働きやすくなる選挙です。そういう思惑もあって「地方」「中小企業」重視を掲げた石破氏に多くの地方票が流れたという背景があります。

 とすれば今後、ただでさえ停滞しているアベノミクスの「構造改革」は、さらに遅れるでしょう。党内融和や風通しを良くするという意味では、安倍氏と石破氏が接戦を繰り広げたことは、自民党にとってはプラスでした。しかし、在任期間が3年と限られた安倍政権にとっては、レイムダック化がすぐそこに待ち構えていることを厳しく認識せざるを得ない総裁選となったこともまた、確かです。

長期政権が可能だったわけ

 


筆者

三浦瑠麗

三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者・山猫総合研究所代表

1980年神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は国際政治、比較政治。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。著書に『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)など。政治外交評論のブログ「山猫日記」を主宰。公式メールマガジン、三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」をプレジデント社から発行中。共同通信「報道と読者」委員会第8期、9期委員、読売新聞読書委員。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文春新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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