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極秘映像!辺野古を泳ぐジュゴン、海ガメを連れて

これほど美しい沖縄の海が、米軍基地建設のため、埋め立てられようとしている

島袋夏子 琉球朝日放送記者

ジュゴンがウミガメを連れて泳いでいる。米軍基地建設のため、埋め⽴てに向けた⼯事が始まった沖縄・辺野古に近い海。極秘映像を琉球朝⽇放送が⼊⼿した

*この記事は英文でも公開しています。こちらへ

美しいというより、ほのぼの 

 緊張しながら再生ボタンをクリックすると、それは、画面左側から大きな体を左右に揺らして、ゆっくりと登場した。国の天然記念物、ジュゴンだ。

 人魚のモデルといわれるが、のんびり海中を泳ぐ姿は、美しいというよりも、ほのぼのとしていた。しかも、ウミガメをお供に連れて泳いでいたのである。

 この映像は、独自取材で極秘に入手したものだ。長く封印されてきたこの映像を、一刻も早く世の中に伝えたいと前のめりになる気持ちは、ウミガメを連れて水中を浮遊するその姿をみたとたん、ふと緩んでしまった。

 沖縄の海は、世界最北限のジュゴンの生息地である。今はわずか3頭が確認されているだけだ。海上に顔を出すジュゴンの動画は時折、航空機から撮影されてきたが、水中を泳ぐ自然な姿がこれだけ鮮明に撮影された動画はこれまでにない。

 ジュゴンが暮らす海は、今、揺れている。米軍普天間基地の代替施設、いわゆる辺野古新基地の建設のため、埋め立てに向けた工事が本格化しているのだ。

 計画によると、埋め立て面積は約160ヘクタール、2100万立方メートルもの土砂が海に投入される。1800メートルの滑走路2本と、軍港機能を備えた巨大基地が完成すれば、オスプレイ100機が配備されるとも言われている。

 沖縄の海が、そして、沖縄の将来が、大きく変わろうとしている。

 独自入手した映像は、まさに辺野古周辺の海の中を泳ぐジュゴンのものだった。

沖縄防衛局の環境アセスメントで撮影されていた

 ジュゴンは、亜熱帯から熱帯にかけての温かい海に生息している哺乳類だ。

 1890年(明治23年)、農商務省は「奄美以南でジュゴンは希ではない」と報告していた。沖縄県統計書によると、1894年(明治27年)~1916年(大正5年)にかけて、ジュゴン漁によって300頭以上が捕獲されたとみられる。さらに第二次世界大戦後の食糧難の頃には、不発弾の火薬から作られた手製のダイナマイトによって、ジュゴンは捕らえられた。近年では、海岸線の埋め立て、赤土の流入などにより、餌場である海草藻場を失い、数を減らした。

 そんなジュゴンについて、詳細に調査したのは、皮肉にも、防衛省沖縄防衛局だった。普天間基地の代替施設建設に伴い実施された、環境アセスメントである。

 沖縄防衛局は、沖縄に生息しているジュゴンが3頭だとみていた。それらに個体A、B、Cと名前を付け、それぞれの移動範囲を把握するとともに、生息範囲、個体数を推定していた。また、ジュゴンの餌場となっている海草藻場の利用状況を調べ、辺野古新基地建設がジュゴンに影響があるかどうかを検証していた。

 今回入手した映像は、沖縄防衛局が実施した環境アセスメントの際に撮影されたものと見られる。2011年、沖縄県に提出された環境影響報告書に添付されている静止画が映像とピタリ一致しているからだ。

 撮影日時は2009年2月22日午前7時頃と記載されている。しかし、環境影響評価書には静止画しか添付されていない。ジュゴンが悠々と泳ぐ姿、そして沖縄の海の豊かさを伝える映像は公開されず、封印されてきたのだ。

沖縄防衛局の環境評価書にある静止画(右)と琉球朝日放送が入手した映像の一部。ピタリと重なる(琉球朝日放送提供)

彼の名は「個体A」

 沖縄防衛局が行った航空機による調査(2007年8月~2014年11月)では、沖縄近海でジュゴンが256回確認されている。このうち個体Aが143回、Bが46回、Cが49回である(不明は18回)。

 ジュゴンの貴重な海中映像を、長年ジュゴンの保護に取り組んでいるジュゴンネットワーク沖縄の細川太郎さんに見てもらった。映像を入手したことを伝えた時、細川さんはさほど興味を示さなかったが、実際の映像を見た瞬間、目じりが下がり、頬がほころんだ。

「あ、すごい、まさに沖縄の海にジュゴンが生きているのだと。静止画とは違って、生きている姿は素晴らしいですね」

 細川さんは、このジュゴンは個体Aだと指摘した。尾ビレに、Aのトレードマークである切れ込みが入っていたからだ。

ジュゴンの個体A,B,Cが確認された場所(琉球朝日放送提供)
 Aはオスの成獣で、辺野古新基地建設予定地に近い、名護市東海岸に定着しているとみられている。昼間は水面を漂うように浮遊し、休息しているらしい。それが夕刻になると、辺野古近くのサンゴ礁に移動し、夜間にサンゴ礁内の海草を食べているとみられていた。

 さらに映像と合致する情報も記載されていた。Aは度々、ウミガメと行動しているのが確認されていたのだ。添付されている写真には、ウミガメと並んで泳いだり、抱き付いたりする姿もバッチリとらえられていた。

 広い海に、たった3頭しかいないというジュゴン。寂しさから、ウミガメを友だちと思っているのだろうか。

 細川さんに尋ねると、「それは人間の勝手な想像です」と笑われた。フィリピンなどでも、アオウミガメと泳ぐジュゴンが確認されているという。「同じ海草を食べるウミガメを仲間だと意識しているのでは」と話した。

 さらに細川さんは、鮮明な水中映像を見て、Aのある特徴に気が付いた。Aの右後ろには、コブのようなものがあったのだ。

ウミガメと戯れるジュゴンの個体A=2013年5月27日、嘉陽沖、沖縄防衛局シュワブ水域生物等調査報告書より
 

沖縄の海を生きるジュゴンの親子

 2007年6月、琉球朝日放送のカメラが、辺野古近くで泳ぐ2頭のジュゴンを偶然撮影した。当初は、ジュゴンの交尾シーンとも思われたが、後になり、それは親子だったことが明らかになった。沖縄の海で、ジュゴンが子どもを生み、子育てをしていたのだ。

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