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憲法9条、国民投票で真に問うべきこと(下)

自衛隊合憲論を前提にした「2項維持(安倍首相)vs.削除(石破氏)」に意味はない

石川智也 朝日新聞記者

 そこで、きわめて重要な社会調査の結果をひとつ紹介したい。

 市民グループ[国民投票/住民投票]情報室と雑誌『AERA』が2016年春に全国の街頭で行なった対面調査で、おそらく大手メディアがここ半世紀やったことのない突っ込んだ問いに挑んでいる。設問と選択肢は以下のような構成だった。

(1)もしも他国や武装組織が日本を攻撃してきた場合、日本への攻撃を防御する自衛のためなら、日本が戦争(交戦)することを認める/たとえ日本への攻撃を防御する自衛のためでも、日本が戦争(交戦)することを認めない
(2)(災害救助とは異なる)自衛のための戦力としての自衛隊の存在・活動を認める/認めない

 約700人の有効回答のうち「自衛戦争を認める」は53.6%、「戦力としての自衛隊を認める」は66.5%だった。

 眼目はその続きだ。この回答者に「あなたが選択した考えを日本の国家意思とするには、9条との整合性を図るために、これ(9条)を改める必要はありますか」と問うと、それぞれ65.2%、67.5%が「必要ない」と答えた。

 政府が続けてきたガラス細工のようなつじつま合わせすら破綻してしまっている。だが、この齟齬に回答者は気付いていない。あるいは気付かぬふりをしている。これが、我々が「護憲派」と呼んでいる人たちの実体だ。

 それは、自衛権をも否定する絶対平和主義者や非武装論者から、戦争・戦力を容認する人たちまでの混成である。ここで「憲法をまもる」とは、9条が規範として要請しているものを遵守・実現させることではなく、条文を変えさせないという意味に過ぎなくなっている。

 9条が「死んだ」のか「生きている」のかは、論者によって見解がまったく異なる。米国の海外派兵要求への盾となり、武器使用に煩瑣な条件を課し、「自衛隊がいる所が非戦闘地域だ」という倒錯した説明を政府に強いているという意味で、9条は確かに機能している。「戦力ではない」という建前が既成事実の積み重ねの速度を抑えてきたことも確かだろう。

 しかし、「新9条」や「9条削除」の提唱者たちからすれば、その抑制力はすでにほぼ失われている。そして何よりも、日本国憲法は、「戦力」を保持しないことになっているがゆえに、現に存在する戦力を統制する規定を持てないという致命的欠陥を抱えている。安倍改憲案に対する「自衛隊の行動をどこまで認めるのかすべて法律に丸投げになる」との批判は、現在でも、これまでにも、同様にあてはまる。

「論理」と「ことば」を蝕んでいく欺瞞

 PKO受け入れ国は裁判権放棄を認める地位協定を派遣国と結ぶが、日本は海外に自衛隊を送っておきながら、民間人を殺傷するなどの軍事的過失を裁く法体系を持っていない。「だから自衛隊を外に出してはならないのだ」と護憲勢力は言うが、交戦の当事国になる事態は、海外だけでなく、領土領海領空内でも起き得る。

 にもかかわらず日本だけが、主権国家の対外的責務とも言える法整備を想定していない。9条の下で「戦争」はなく、自衛隊がいる所で「戦闘」は起きないことになっているからだ。しかし、日報問題で明らかになったように、自衛隊が派遣されたイラクや南スーダンでは現に激しい「戦闘」があった。

 銃撃戦があっても、爆破があっても、ロケット砲を持つ武装勢力と交戦して死者が出ていても、「国または国に準ずる者による組織的な攻撃」という定義に沿わないから「戦闘」ではない。憲法上使うべき言葉ではないから「武力衝突」だ。「戦争」ではなく「武力の行使」だ。「戦力」ではなく「実力」だ――。

 カラスは白い鳥だと言えばそれが真実とでもなるかのようなこうした虚妄は、「森友学園」絡みの決裁文書改ざん問題や、沖縄密約・核密約問題で露わになった「国家の噓」と同根であろうし、さらに言えば、退却を転進、敗退を大勝利だと糊塗し続けた過去と地続きに思えてならない。

 こうした欺瞞は、法治の根源たる「論理」と、論理の拠である「ことば」を蝕んでいく。成文憲法を持つ立憲国家が、その憲法の文言を一文字も変えることなく、それまで憲法上できないとされていたことを行えるようになるというなら、憲法に書かれた「ことば」はいったい何を規定していたのだろう。

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者

1998年、朝日新聞社入社。岐阜総局などを経て社会部でメディアや教育、原発など担当した後、2018年から特別報道部記者、2019年9月からデジタル研修中。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学感染症情報分析センターIDIA客員研究員。著書に「それでも日本人は原発を選んだ」(朝日新聞出版、共著)等

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