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田中均氏が語る外交と政治

プロフェッショナリズムを欠く外交の不安

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

 今日のトランプ大統領の外交の問題は日本自身の外交についてもあてはまる。

 これまでも日本の外交が国内政治と無縁であったわけではない。外交の基本は、どういう合意に持ち込むかという相手国との厳しい折衝であると同時に、国内配慮を重んじる政治との厳しい対峙なのだろうと思う。政治家は官僚を見て「省益追求なのではないか」という疑念を持ち、官僚は政治家に対して「国内の政治的利益を重視しすぎる」という思いを持ち続けた。そして、最終的には「国益」という概念で論議が尽くし、物事は決められていた。

 外交プロフェッショナルはその知見や日々の情報の集積に基づいて国益と信じることを論じ、政治指導者は当然のことながら国内政治的観点を無視できない。結局は政官が折れ合うということが常である。しかし今日、政と官は強い権力の下で見事に一体化し、政が官を圧している。「安倍一強」と言われる所以だ。

拡大ニューヨークで記者会見に臨む安倍晋三首相=2018年9月26日

 北朝鮮問題は圧倒的な政治の力によって取り仕切られている象徴的なケースだろう。安倍首相がかねてより対北朝鮮強硬策を主張されてきたことは周知の事実である。北朝鮮の脅威を前面に総選挙で勝利した。そして「圧力路線」を国際社会に主張してきた。そして米国が対話路線に切り替わった途端、日本は「拉致問題が最重要課題」として北朝鮮との首脳会談を呼びかけ、米国や韓国にあっせんを依頼するという方針に転換した。

 これは通常の外交の概念からは外れる。北朝鮮のような孤立した国との関係では2002年の小泉訪朝がそうであったように、北朝鮮が首脳会談を要望し、日本がこれを叶えるために北朝鮮の譲歩を迫るというのが通常だろう。それを「首脳会談をやりたい」という呼びかけを日本から繰り返すことには疑問を持たざるを得ない。

 国内的には米、韓、中が激しく動いている時に、日本も手をこまねいている訳ではないという印象を作る意味があるのかもしれない。しかし重要なことは非核化であり、拉致問題の解決である時に、前のめりになる外交的メリットは何か。水面下での協議が進み、首脳会談を行えば拉致問題や非核化問題について一定の成果を期待できるという事であれば、どちらが呼びかけるかは大した問題ではないのかもしれない。ただ首脳会談を行えば成果が得られるというシナリオがあるのか。

拉致問題は徹底的な事実調査を先行すべきだ


筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。 (Twitter@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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