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石破氏を直撃!「善戦」と考えているのですか?

総裁選で石破氏の記事を2本書いた。戦いを終え、聞いた。彼は何も変わっていなかった

三輪さち子 朝日新聞記者

 

三輪さち子記者のインタビューに答える自民党の石破茂氏=東京・永田町(越田省吾撮影)

「石破イジメ」の選挙戦を終えて

 自民党総裁選で石破茂氏は思いのほか善戦したと受け止められている。とくに自民党員による「地方票」が45%に上り、次期総裁候補としての体面を保ったとも言われている。

 私は2013年9月から1年間、自民党幹事長だった石破氏の番記者だった。その当時の取材を踏まえ、今回の総裁選で石破氏の記事をWEBRONZAに2本書いた(石破氏はあの時、禅譲の誘惑に負けた石破さん、「沖縄」を総裁選の争点に!)。

 総裁選を終え、石破氏は9月26日、朝日新聞のインタビューに応じた。総裁選で石破氏を担当した政治部記者とともに、私も質問した。一番知りたかったのは、本気で権力を奪い取る覚悟があったのか、そしてこれからもあるのかどうかだった。

 直接、言葉を交わすのは2年ぶりである。石破氏は、拍子抜けするほど、何も変わっていなかった。

 私はWEBRONZAの最初の記事で、石破氏が2014年に地方創生担当相を打診されて入閣した際、菅義偉官房長官らから「次はお前だ」と禅譲をほのめかされ、その誘惑に負け、3年前の総裁選出馬を見送った、という解説を書いた。

 この人は本当に権力を奪う気があるのだろうか。権力は天から与えられるとでも思っているのではないか。私は当時からそう感じていた。

 それも一つの政治家としての生き方かもしれない。

 しかし、3年前に総裁選出馬を見送った石破氏を待っていたのは、自民党内で徹底的に干される「冷や飯生活」だった。ただ待っているだけではダメだということは、この3年間で痛いほどわかったのではないか。そして「石破イジメ」が徹底されたこの総裁選を終え、権力を奪い取る覚悟を新たにしたのかどうか。それを知りたかった。

「今の時代にまだお前はいらない、もっとすごい時代にやれということだ」

 まず驚いたのは、石破氏の機嫌の良さだった。

 「善戦したと考えているか」との質問に、「負けは負けだ」と答えたものの、国会議員票、地方票、いずれも自分が想像していた以上に票が集まったことに、手応えを感じているのは間違いなかった。

 徹底的に負けていたら、政治生命は事実上終わっていただろう。しかし、今回の予想以上の「善戦」によって、ポスト安倍は自分だという思いを強くしたようだった。

 「今回の結果は、今の時代にまだお前はいらないということ。もっとすごい時にやれということだろう」と石破氏は言った。

 次を狙うという気持ちはよく伝わった。では、どうやって?

 どれだけ地方票を集めても、国会議員票で勝てなければ総裁になることはほぼ不可能だ。それは野党時代の2012年、石破氏が安倍首相に破れた総裁選の時からの課題のはずだった。地方票では安倍首相をしのいだが、最後は国会議員票で逆転されたのだから。

 国会議員票で勝つためには、方法は二つ。一つは、自ら派閥を拡大し、さらに主要派閥を味方につけること。もう一つは、圧倒的な国民支持を集めて派閥秩序を壊すこと。今回の総裁選で石破氏はそのどちらも中途半端だった、と私は思う。

 次はどっちの手法を採るつもりなのか、尋ねてみた。

石破茂氏に質問する三輪さち子記者

「禅譲狙い」とどこが違うのか

 石破氏は「まだわからない」と言った。小泉純一郎氏のような国民的熱狂は、自分が目指す路線ではないという。かといって、派閥を拡大するのも性に合わない。

 結局のところ、ポスト安倍は石破しかいないと、派閥の領袖たちがまとまって支持してくれることに期待しているのではないか。それは「禅譲狙い」とどこが違うのか。私はそう思った。

 派閥への配慮は、「正直、公正」という政治信条の貫き方にも表れていた。

 最初は「正直、公正」を掲げたが、石破氏を支持する参院竹下派から、「首相の個人攻撃になるからやめろ」と反発を受けた。そうした反発は石破氏にとっても「意外だった」という。

 それでも、選挙が終わった後も、石破氏は「正直、公正」を貫かなかった判断を後悔していなかった。私には驚きだった。参院竹下派に配慮し、「正直、公正」ではなく、政策の訴えを重視することに切り替えたことが、地方票の積み上げにつながったと石破氏は振り返ったのだ。

 一緒に取材した政治部の番記者ですら、石破氏のこうした分析には驚いていた。

 一人の有権者としては、どこまでも「正直、公正」を貫く政治家を信じたい。派閥に配慮して、看板を片付けてしまうような政治家は、この先も国民より派閥を優先するのではないか、と疑う。

 それでは権力争いはできないのが永田町の常識なのだろうか。いや、それを乗り越えて権力をつかんでこそ、初めて強力な政権基盤を築けるのではないのか。

三輪さち子記者の質問を聞く石破茂氏

本当に国民を信じているのか

 第一次安倍政権は別として、第二次政権以降の安倍首相は、国民を心底信じることをやめたのではないかと私は思っている。国民全体にわかってもらおうと思ってもどうせ裏切られる、ぶれることなく支持してくれる人を大切にすればいい。そう割り切り、コア支持層を固めたことが、現政権の強さの秘訣のような気がしている。

 実際、2017年衆院選の結果を見れば、自民党の絶対的得票率は小選挙区で25%にすぎない。有権者の4人に1人が自民党と書けば、6割近い議席を得られるのだから、安倍首相の戦略は間違ってはいないのかもしれない。

 一方、石破氏は今回、「政治家は国民を信じているだろうか。国民を信じて、真実を語っているだろうか」と訴えた。たとえ嫌われることであっても、真実を語るのが政治家だと繰り返していた。安倍首相と対照的だった。政治姿勢からすれば、石破氏を評価したい。

 けれども、今回の総裁選で本当に国民を信じて、真実を語ったのかは疑問だ。

 消費税をどこまで引き上げるのか。アベノミクスの行き着く先に何が待っているのか。日米安保を見直すならば、自衛隊はどうなるのか。核心部分には触れなかった。本当に国民を信じているのか、疑念がぬぐえなかった。

 絶対離れていかない強い支持層をつくるのか、国民全体を信じて訴えかけるのか。戦略はあいまいにみえた。

 私はその点をインタビューでぶつけた。

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