宇野重規(うの・しげき) 東京大学社会科学研究所教授
1967年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。同大学社会科学研究所准教授を経て2011年から現職。専攻は政治思想史、政治学史。著書に『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社学術文庫)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)、『保守主義とは何か』(中公新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
先日、『未来をはじめる−「人と一緒にいること」の政治学』(東京大学大学出版会)という本を刊行した。東京都内にある私立の女子中学・高校で行った政治学の講義をもとに、政治についてじっくりと考えようとする一冊である。
キーワードは「人と一緒にいること」。ごく身近な生活実感から出発して、国際関係や財政・社会保障問題までを射程に入れて考えることを目指している。
女子校で政治学の講義を行うことには、それなりの「ねらい」があったつもりだ。
政治学の入門講義というと、かつてであれば、およそ「権力」とは何か、「国家」とは何かという話からスタートしたものである。昨今の講義では、「本人-代理人理論」や「合理的選択論」など、政治学に固有な「考え方」をていねいに解説するものも多い。それぞれに特色があり、身近な具体例をあげるなどして、政治に親しみを感じられるように工夫されている。
とは言っても、なかなか政治を身近に感じることは容易ではないだろう。政治とは多様な人々が集まって意思決定をすることだ、といくら解説したところで、「集合的意思決定」などという言葉を使った瞬間、多くの人は「難しそう」、「自分とは縁のない話だ」と思ってしまう。
今回の講義ではもう少し手前のところから話をはじめたい。それがそもそもの企画の出発点であった。
「政治」だからといって、何もそんな難しい議論をしなくてもいい。人が何人か集まれば、当然その「違い」が目につくはずだ。その「違い」が面白いし、楽しいのだけれど、ちょっとつらく感じることもある。世の中には自分と趣味や価値観の違う人もいるけれど、互いにどう距離を取り、ともに過ごしていくべきか。きっと多くの人が日常の中で嫌というほど、実感している話のはずだ。同世代の仲間と、教室という狭い空間で日々過ごしている中高生ならなおさらだろう。
そんな話を振ったら、女子校の中高生たちは即座に、「ちょっと、心が疲れる…的な」(本書、259ページ)と表現してくれた。
そうそう、そういう感じ。クラスで何かを決めるときもそうだよね。そのあたりから政治を考えてみたいと話したところ、いいノリで反応してくれた。知識主導型でない政治学の講義をしたいというこちらの思いを、彼女たちのノリの良さと表現力が大いに手助けしてくれたと思う。
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