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中島岳志の「自民党を読む」(2)野田聖子

切実な経験と政策が一体化し、政治家として素晴らしい。課題は弱い分野が多すぎること

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

 野田さんは、自らの政治家としてのライフワークを「少子化対策」に置いています。彼女は少子化・人口減少を「静かなる有事」と位置づけ、超高齢化社会という近未来の現実を直視すべきと訴えます(⑨:13)。

 野田さんの一貫した主張は、子供を産み育てやすい環境を整備すべきということで、特に「女性が就業しやすい社会的条件の整備が進んだ国では、子どもも産みやすい」という点を強調します(⑦:15)。とにかく「産みたい人のために阻害要因を取り除くこと」。これが重要だと繰り返し、述べています。

 野田さんが直面した壁は、男性議員たちの偏見と誤解でした。彼らは「確かに子どもが減ったら困る。女性にもっと子どもを産んでもらわなければ。家庭に戻って育児に専念してもらおう」と言い出します。彼らの本音は「出生率が減ったのは、女がへたに学歴なんかつけて、外で仕事を始めて、家を顧みなくなったせいだ。少しは社会のことを考えろ」ということでした(⑦:15)。

 野田さんはこれに全力で反論します。女性が社会に進出し、働いているから子どもを産まないのではない。世界のデータを見れば働いている女性のほうが多くの子どもを産んでいる。「現在の先進国では、出産・育児期、つまり、二十五~三十四歳の女性労働率の高い国ほど出生率も高い」。重要なのは、女性の就業環境を整備すること。少子化は「女性のわがまま」などでは決してない。そう強く主張します(⑦:15-16)。

 野田さんが具体的に提案するのは、子どもが2歳になるまでは、親に育休を与えるシステムを確立することです(⑨:45)。そして、育休中は100%有給(⑦:20)。さらに、2歳からは全入の幼児教育を確立することを訴えます(⑨:45)。

 喫緊の課題である待機児童の解消、保育の質の改善、保育士の確保・処遇改善などを進めると同時に、2歳児から全員が保育園や幼稚園等に通園できる制度を早期に実現すべきと考えています。
(中略)また、2歳になるまでの間ですが、私は、相応の所得補償を受けながら、両親が合わせて2年間は育児休業がとれるようにし、一人親家庭でも育児に衣装がないようにする仕組みを導入すべきと考えています。(⑨:45)

 また、重要なのは「ワークライフバランス」を見直すこと。特に「昭和的働き方からの脱却」を強く訴えます。24時間、家庭を顧みず働くことが美談になる社会はおかしい。子どもと過ごす時間を十分に確保でき、子どもの病気や学校行事に対応できる状態を作り出すことが重要だと主張します(⑦:16)

 この社会構想を実現するためには、男性の子育て参加・意識改革が必要です。

 私たちの社会は、家庭に父親がいない状況を長らく容認してきました。結婚しても、多くの女性たちはあたかもシングルマザーのような立場で子育てに専念してきたのではないでしょうか。この問題こそが、世界に例を見ない特殊な日本的人口減少の根っこの部分だと私は思います。
少子化対策の究極の目標は、日本の父親を家庭に取り戻すことだと私は思っています。(⑦:22)

 また、子どもを産み育てるには、お金が必要です。若者の雇用政策を推進することも、少子化対策の喫緊の課題だと述べます。

 さらに、配偶者税制を「男中心社会の時代に作られた制度」として、早期の改正を主張します。

 働きたいという女性の意欲に抑制的に働くこれらの制度は、できるだけ早く変えるべきです。企業の配偶者手当についても、子供や家族を対象とする手当などに切り替えていくことが望まれます(⑨:38)

出産の多様性を認める社会に

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筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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