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中島岳志の「自民党を読む」(2)野田聖子

切実な経験と政策が一体化し、政治家として素晴らしい。課題は弱い分野が多すぎること

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

 不妊治療による体外受精、そして卵子提供による出産を経験した野田さんは、出産の多様性の尊重を訴えます。

 子どもを授かりたい。けど、なかなか妊娠しない。不妊治療を始めたのに、なかなか結果が出ない。友人にも相談しにくい。保険が適応されないので、お金もかかる。そんな苦しみの中に大勢の人がいます。

 野田さんは、自らの経験を踏まえ、次のように言います。

 結婚すれば自然に妊娠・出産するものという世間の風潮のなかで、だれにも相談できず、あるいは隠れるように治療しながら、肉体的、精神的、そして金銭的に苦しんでいる方は大勢いらっしゃいます。一方私は、国民の声なき声をすくいあげるべき国会議員という立場。ならば不妊をめぐる社会的、経済的、法的な問題を、率先して政治の場で解決していかねばならない。不遜な言い方かもしれませんが、私には不妊に悩む人々の苦しみを代弁する義務があると思ったのです。(⑦:28)

 野田さんがまず取り掛かろうとするのが、不妊治療の保険適用です。

 不妊治療には高額の費用がかります。体外受精や顕微授精については「特定不妊治療費助成事業」が実施されていますが、それも治療回数や金額の上限が設定されていたりするため、十分ではありません。「焼け石に水」の状態です。既定の回数を超えて治療を継続すると、どうしても出費はかさみます。それも、相当な金額です。これでは経済的に豊かな人しか、不妊治療を受けることができなくなります。

 野田さんは訴えます。

 なによりも子どもが欲しいのに、お金がなくて治療できないという四十七万組のカップルの声を聞いてほしい。産みたいのに子どもができない、産めないという「私的な」状況が、少子化という国の根幹をゆるがす深刻な問題につながっていることに目を向けてほしい。不妊治療への保険適用は、もっと前向きに検討されるべきだと私は思います。(⑦:72)

 野田さんは代理出産、卵子提供についても、広い社会の理解が必要だと問います。まずは実態を知ってほしい。そのうえで出産の多様性を容認していきたい。社会全体で支えていきたい。制度整備を進めていきたい。法整備も進めていきたい。これが卵子提供による出産を経験した野田さんの切実な訴えです。

 野田さんは自らの経験を踏まえ、養子縁組についての制度・法整備の推進を説きます。これを通じて、家族形態の多様性を容認する社会の実現を目指しています。

 さらに「子ども家庭省」のような専門の省庁を設置し、本格的に少子化問題に取り組む姿勢が必要だと言います。そのうえ、介護保険のように成人に達したすべての国民が加入する「子ども保険」を実現し、独自の安定財源の確保に乗り出すべきと主張します。

 野田さんのスローガンは、「ダイバーシティ」と「インクルージョン」という概念に帰結していきます(⑨:18)。「ダイバーシティ」とは「多様性」、「インクルージョン」とは「包摂」を意味します。特に社会から排除されがちな女性・高齢者・障害者を「包摂」し、能力を発揮できるフェアな社会を作っていくことが目標として掲げられます。そして、この考え方は国連が推奨する「持続可能な開発目標(SDGs)」とも連動する政策として位置づけ、国際社会との連携を模索します。

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筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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