山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授
1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
9月30日(日)は沖縄県知事選の投開票日だった。前衆議院議員(自由党所属)の玉城デニー氏が史上最多の39万6632票を獲得し、前宜野湾市長の佐喜真淳氏に約8万票の大差をつけて勝利したことは、正直なところ、多くの県民が予想できなかった結果だった。
選挙報道では一貫して、接戦だが玉城氏がやや優勢とされていた。だが、実のところ、自公両党による佐喜真陣営の圧倒的な動員を見た現場の記者たちや有識者たちは、佐喜真勝利を確信していたからだ。
前日に台風が沖縄一帯を直撃し、翌日まで停電などの深刻な影響が出たにもかかわらず、投票率は63.24%と前回知事選の64.13%とほぼ同じだった。これは一つには、当日の台風接近を予想して、選挙管理委員会や候補者各陣営がくり返し期日前投票を呼びかけた結果、期日前投票率が35.1%と当日の投票率を上回ったことがある。
ちなみに私の住む本島中部では、29日(土)夜7時頃から翌日昼頃まで停電となり、インターネットやBS放送は3日間利用できなくなった。自宅アパート1階のガラス扉は風が吹き込んだ衝撃で吹き飛び、窓や自家用車は草と泥にまみれた。近所のスーパーは停電中にもかかわらず、翌30日(日)の朝9時に開店したが、直後から大勢の客が引きも切らず、加工せずに食べられるパンやカット野菜、バナナ、牛乳、ヨーグルトなどがまたたく間に売り切れた。沖縄では台風一過直後から、ガソリンスタンドに長い車の列ができ、一軒家の庭で折れた木々を片づける人々の姿が見られるが、30日の午後もご多分にもれなかった。
このような状況で、投票率が前回並みとなったことは驚嘆に値する。8月8日に急逝した翁長雄志前知事の「弔い合戦」への、県民の関心が高かった証左だろう。
今回は、普天間飛行場の辺野古移設を進める安倍晋三内閣が支持した佐喜真候補が、早々に自民・公明両党の組織票を固めたといわれた(実際には自公票の2~3割が玉城候補に流れた)。そのため、浮動票が勝敗の鍵を握ると目したメディアは、若者の動向に注目した。佐喜真、玉城両陣営もまた、若者を意識した選挙戦を展開した。
ただ、一口に「若者」といっても、一筋縄ではいかない。選挙における「若者」は、量で見るか質で見るかで、見え方がまったく変わってくるからだ。
量で見た場合、県内の10代と20代の有権者数は約18万4千人で、全体の約15%を占める。昨年の衆院選で10~20代の投票率が平均約40%だったことを考えると、知事選で投票した若者は有権者全体の約10%程度だと推定される。1割でも決して小さい数字ではないが、ボリュームゾーンの60代の約半分にすぎない(数字は「選挙ドットコム」より)。