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少数精鋭の若者たちが支えた沖縄知事選

山本章子 琉球大学准教授

カチャーシーを踊り当選を喜ぶ玉城デニー氏(中央)=2018年9月30日、那覇市

 9月30日(日)は沖縄県知事選の投開票日だった。前衆議院議員(自由党所属)の玉城デニー氏が史上最多の39万6632票を獲得し、前宜野湾市長の佐喜真淳氏に約8万票の大差をつけて勝利したことは、正直なところ、多くの県民が予想できなかった結果だった。

 選挙報道では一貫して、接戦だが玉城氏がやや優勢とされていた。だが、実のところ、自公両党による佐喜真陣営の圧倒的な動員を見た現場の記者たちや有識者たちは、佐喜真勝利を確信していたからだ。

 前日に台風が沖縄一帯を直撃し、翌日まで停電などの深刻な影響が出たにもかかわらず、投票率は63.24%と前回知事選の64.13%とほぼ同じだった。これは一つには、当日の台風接近を予想して、選挙管理委員会や候補者各陣営がくり返し期日前投票を呼びかけた結果、期日前投票率が35.1%と当日の投票率を上回ったことがある。

強い風で飛ばされた街路樹の枝が道路をふさいでいた=2018年9月29日、那覇市

 ちなみに私の住む本島中部では、29日(土)夜7時頃から翌日昼頃まで停電となり、インターネットやBS放送は3日間利用できなくなった。自宅アパート1階のガラス扉は風が吹き込んだ衝撃で吹き飛び、窓や自家用車は草と泥にまみれた。近所のスーパーは停電中にもかかわらず、翌30日(日)の朝9時に開店したが、直後から大勢の客が引きも切らず、加工せずに食べられるパンやカット野菜、バナナ、牛乳、ヨーグルトなどがまたたく間に売り切れた。沖縄では台風一過直後から、ガソリンスタンドに長い車の列ができ、一軒家の庭で折れた木々を片づける人々の姿が見られるが、30日の午後もご多分にもれなかった。

 このような状況で、投票率が前回並みとなったことは驚嘆に値する。8月8日に急逝した翁長雄志前知事の「弔い合戦」への、県民の関心が高かった証左だろう。

「若者」とは誰か

 今回は、普天間飛行場の辺野古移設を進める安倍晋三内閣が支持した佐喜真候補が、早々に自民・公明両党の組織票を固めたといわれた(実際には自公票の2~3割が玉城候補に流れた)。そのため、浮動票が勝敗の鍵を握ると目したメディアは、若者の動向に注目した。佐喜真、玉城両陣営もまた、若者を意識した選挙戦を展開した。

 ただ、一口に「若者」といっても、一筋縄ではいかない。選挙における「若者」は、量で見るか質で見るかで、見え方がまったく変わってくるからだ。

 量で見た場合、県内の10代と20代の有権者数は約18万4千人で、全体の約15%を占める。昨年の衆院選で10~20代の投票率が平均約40%だったことを考えると、知事選で投票した若者は有権者全体の約10%程度だと推定される。1割でも決して小さい数字ではないが、ボリュームゾーンの60代の約半分にすぎない(数字は「選挙ドットコム」より)。

少数精鋭の若者たち

 メディアが注目したのはむしろ質の面で、佐喜真・玉城両候補をそれぞれ支援する10~20代に関心が集まった。ここでは、当選したデニー陣営の若者の素顔に着目したい。

 彼らにある程度共通する傾向として、①大学進学者が多い(沖縄県内の大学進学率は約39%)②県外・国外で生活した経験がある③市民運動への参加経験がある、という点が挙げられる。つまり、高学歴で、沖縄がおかれた状況を俯瞰(ふかん)する視野を持ち、政治参加に抵抗がない、少数精鋭の若者たちである。

 最初の点から見ていこう。NHK投票日出口調査によれば、有権者が投票にあたって重視した政策は「普天間移設」が34%と最も多く、「地域振興」が31%、「教育・子育て」が21%、「医療・福祉」が14%となった。そして、「普天間移設」を重視する回答者の8割強、「辺野古移設」に反対だと答えた者の8割が玉城氏に投票したと答えている。10~20代でもこの傾向はそれほど大きく変わらないようだ。

沖縄県知事選当選後、初めて辺野古を訪れ、抗議行動を続ける県民らに歓迎される玉城デニー氏=2018年10月3日、沖縄県名護市辺野古

 沖縄戦や米軍統治の経験・記憶から反基地運動に共感してきた高齢層とは異なり、10~20代が基地問題について知ったり批判的に考えるようになるのは、教育によるところが大きい。私は沖縄県内の2つの大学で教鞭(きょうべん)をとっているが、どちらの大学の学生も、沖縄戦は小中学校で学んだものの、基地問題は大学に入るまで勉強したことがなかったと言う。大学が沖縄の若者に基地問題を学ぶ機会を提供する場である以上、学歴と基地問題への関心がリンクしやすいのは当然といえる。

米軍基地があることが「普通」

若者と一緒に記念撮影をする玉城デニー氏=2018年9月23日、那覇市安里2丁目

 二番目の点は、最も重要なポイントだ。玉城氏を応援した若者たちは、異口同音に「沖縄から離れるまで基地問題に関心がなかった」と語る。生まれたときから沖縄に米軍基地があることが「普通」で、意識したこともなかった彼らは、沖縄から離れて生活し始めたとき、米軍機の音が聞こえないことや、Yナンバー車両が道を走っていないことが、多くの日本人にとっては「普通」なのだと気づいたという。また、県外の大学に進学して、講義の中で教員から、沖縄出身者として基地問題について所見を述べるよう求められて、関心や自覚を持つようになった者も多い。

 最後の点だが、玉城氏の選挙対策本部の青年局を構成していたのは、「SEALDs  RYUKYU」のメンバーやNDなどのシンクタンクのスタッフ、あるいは「辺野古県民投票の会」の署名活動を経験した若者たちだった。

 彼らがこれまで培ってきた政治参加の経験は、玉城氏の選挙戦術にいかされた。全国ニュース・紙の知事選報道では、玉城氏が辺野古移設反対を訴える場面ばかり強調されていたが、実際の街頭演説では、玉城氏の主眼はむしろ子供の貧困対策におかれていた。基地問題よりも子供の貧困対策を、前に押し出すように助言したのは若者たちだったという。

 朝日新聞の出口調査によれば、女性の61%が玉城候補に投票したと回答、佐喜真候補に入れた38%を大きく上回った(男性では玉城:佐喜真=53%:46%とあまり差がない)。玉城氏が子供の貧困対策を公約の1番目に掲げたことと、無関係ではないだろう。

多数派の若者たち

沖縄知事選で佐喜真淳氏(右)を応援する小泉進次郎氏=2018年9月23日、那覇市

 記事の冒頭で、今回の知事選で投票した10~20代の数は、投票者全体の1割程度だろうと書いたが、彼らの多くはどの候補に投票したのだろうか。NHK出口調査によれば、18歳と19歳の約4割が玉城候補、約6割弱が佐喜真候補に投票している。また、20代では玉城候補と佐喜真候補に投票した若者がほぼ半々で、わずかに佐喜真氏の方が多くなっている。

 この結果は、勤務先のひとつである大学で行ったアンケート結果ともだいたい一致する。投開票日前に全学部・全学年の学生92人を対象に行ったアンケート(回答者90人)では、投票すると回答した学生の割合は47%で、53%が佐喜真候補、42%が玉城候補に入れると答えた。

 ただし、投開票日後に別の大学で、20代のみが受講する専門科目の64人対象に実施した同じアンケート(回答者62人)では、投票率は76%となり、42%が佐喜真候補、51%が玉城候補に入れたという結果となった。偏差値と年齢、専門性が上がったことが、投票率や投票先の差異につながった可能性が考えられる。

 ふたつの大学で共通していたのは、玉城・佐喜真両候補に投票する理由(自由回答)である。玉城氏に入れた学生は、辺野古移設反対を挙げた者が圧倒的に多かった。興味深かったのは、佐喜真候補に入れた理由の最多回答が、「親に言われたから」というものだったことだ。両大学とも、佐喜真氏の地元である宜野湾市周辺に位置することが、このような組織的集票が学生にも及んだ実態を示唆する回答を増やした可能性はある。

 佐喜真候補に投票した学生の理由として、次に多かったのが経済政策だ。背景には、2014年に翁長氏が知事に当選した後、選挙のたびに学生たちが、「オール沖縄は反基地だけで経済政策がない」とこぼしていた現実がある。基地問題を重視する翁長県政への若者の長年の不満が、玉城候補にも投影された形だ。前述したように、玉城氏は選挙戦を通じて実際にはむしろ、辺野古移設反対よりも経済政策を強調していたが、報道での玉城氏のイメージが影響を与えたのだろうか。

沖縄県庁に初登庁し、2階の人たちにも手を振る玉城デニー氏=2018年10月4日、那覇市

格差の大きい「若者」

 メディアは若者に注目する割に、若者をひとくくりで語りやすい。実際には、今回の知事選を通してここまで語ってきたことでも分かるように、若者は実に多様だ。玉城陣営の青年局の若者たちは、いい意味で例外的な存在である。

 同じアパートに住む10~20代は、たとえば夜になると友達と駐車場にたむろし、深夜にオートバイで徘徊(はいかい)する高校生や、建築業で働いていて、毎朝5時半から一時間も目覚ましのアラームを鳴らしっぱなしにして、ようやく起きる男性などだ。

 大学生といっても、人によってまったく違う。勤務する大学の一つでは、毎年、学費が払えずに退学していく学生や、学費を稼ぐために一定期間、県外に季節労働に行く学生がいる。卒業する4年生の約半数は就職が決まっていない。決まっていても非正規雇用が多い。優良企業への正規雇用が決まったのに、妊娠して内定を辞退する学生もいる。彼らがアルバイトや季節労働で選挙に行けないと言うのを、そう簡単に責められようか。

 私は最近、若者という言葉を使うことにためらいを感じる。あまりにも格差の大きい10~20代を、年齢だけでひとまとめにして語っていいとは思えないのだ。