山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授
1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
メディアが注目したのはむしろ質の面で、佐喜真・玉城両候補をそれぞれ支援する10~20代に関心が集まった。ここでは、当選したデニー陣営の若者の素顔に着目したい。
彼らにある程度共通する傾向として、①大学進学者が多い(沖縄県内の大学進学率は約39%)②県外・国外で生活した経験がある③市民運動への参加経験がある、という点が挙げられる。つまり、高学歴で、沖縄がおかれた状況を俯瞰(ふかん)する視野を持ち、政治参加に抵抗がない、少数精鋭の若者たちである。
最初の点から見ていこう。NHK投票日出口調査によれば、有権者が投票にあたって重視した政策は「普天間移設」が34%と最も多く、「地域振興」が31%、「教育・子育て」が21%、「医療・福祉」が14%となった。そして、「普天間移設」を重視する回答者の8割強、「辺野古移設」に反対だと答えた者の8割が玉城氏に投票したと答えている。10~20代でもこの傾向はそれほど大きく変わらないようだ。
沖縄戦や米軍統治の経験・記憶から反基地運動に共感してきた高齢層とは異なり、10~20代が基地問題について知ったり批判的に考えるようになるのは、教育によるところが大きい。私は沖縄県内の2つの大学で教鞭(きょうべん)をとっているが、どちらの大学の学生も、沖縄戦は小中学校で学んだものの、基地問題は大学に入るまで勉強したことがなかったと言う。大学が沖縄の若者に基地問題を学ぶ機会を提供する場である以上、学歴と基地問題への関心がリンクしやすいのは当然といえる。
二番目の点は、最も重要なポイントだ。玉城氏を応援した若者たちは、異口同音に「沖縄から離れるまで基地問題に関心がなかった」と語る。生まれたときから沖縄に米軍基地があることが「普通」で、意識したこともなかった彼らは、沖縄から離れて生活し始めたとき、米軍機の音が聞こえないことや、Yナンバー車両が道を走っていないことが、多くの日本人にとっては「普通」なのだと気づいたという。また、県外の大学に進学して、講義の中で教員から、沖縄出身者として基地問題について所見を述べるよう求められて、関心や自覚を持つようになった者も多い。
最後の点だが、玉城氏の選挙対策本部の青年局を構成していたのは、「SEALDs RYUKYU」のメンバーやNDなどのシンクタンクのスタッフ、あるいは「辺野古県民投票の会」の署名活動を経験した若者たちだった。
彼らがこれまで培ってきた政治参加の経験は、玉城氏の選挙戦術にいかされた。全国ニュース・紙の知事選報道では、玉城氏が辺野古移設反対を訴える場面ばかり強調されていたが、実際の街頭演説では、玉城氏の主眼はむしろ子供の貧困対策におかれていた。基地問題よりも子供の貧困対策を、前に押し出すように助言したのは若者たちだったという。
朝日新聞の出口調査によれば、女性の61%が玉城候補に投票したと回答、佐喜真候補に入れた38%を大きく上回った(男性では玉城:佐喜真=53%:46%とあまり差がない)。玉城氏が子供の貧困対策を公約の1番目に掲げたことと、無関係ではないだろう。
全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?