佐喜眞氏支持が上回った18歳〜29歳
9月30日に投開票された沖縄県知事選は、米軍普天間基地の名護市辺野古への移設阻止を訴えた前衆議院議員の玉城デニー氏が、過去最高の39万6632票を獲得。自民・公明両党が推薦した佐喜眞淳候補の31万6458票に8万票の大差をつけて圧勝し、初当選を果たした。しかし、18歳〜29歳の若者に限定すれば、玉城氏よりも佐喜眞氏を支持する人が数%だが上回った。実は樹里さんも佐喜眞氏を支持していた。
「反基地」の風土で育ったと聞けば、迷わず「辺野古に新基地は作らせない」と公約に掲げるデニー氏に一票を入れたという先入観を持ってしまう。しかし、若い世代のアイディンティティーと投票行動はそう単純ではない。樹里さん以外の家族は全員「デニー支持」。なぜ樹里さんだけはそうではないのか。彼女は佐喜眞氏の掲げたある言葉が気になっていた。
「対立から対話へ」
この言葉を聞いて連想したのは、バイト先で知り合った「良き隣人」としての米兵さんだった。

沖縄県知事選で支持者と握手をする佐喜真淳氏=2018年9月13日、沖縄県宜野湾市
「生まれた時からずっと基地がある」
「米軍だからといって全員が悪い人ではないんです。日本のことを勉強したいとスマホ片手に話しかけてくる人もいれば、片言のうちなーぐちを恥ずかしそうに披露する人もいる。うちなーぐちに興味をもってくれるって、本土から来た若い人でもいないですよ。彼らは沖縄を日本に興味を持ち、好きになろうとしてくれているんです」
顔見知りなった米兵さんは数知れない。任期が切れ、帰国する前日、わざわざ手紙つきのプレゼント手渡されたこともある。樹里さんは彼らから何度も同じ言葉を聞いた。
「僕らがここにいると本当は嫌なんでしょ」
「君たち日本人は米国人が嫌いなんだ」
仲良くなっても、この言葉で私たちと彼らは「分断」される。その度に樹里さんは片言の英語で必死に「違うよ」と否定した。けれども、言語の壁からそれ以上の言葉を返すことができない。
「生まれた時からずっと基地があるんです。友達には米兵さんとの間に生まれたハーフの子がいるし、友だちの多くが基地に関係する仕事やバイトで生計を立てている。戦争は嫌。基地はないほうがいいに決まっている。けれども、どうせなくならないのなら、対立ではなく共存する方法を考えたい。仲良くやっていく道はないのか。ヤンキーゴーホームと叫んでも、何も変わらなかったじゃないですか……」
樹里さんは米兵さんにいつも「偏見なんてしてないよ」と心の中で語りかけている。