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米国の圧力をかわしたい中国

「韜光養晦」への回帰?

小原凡司 笹川平和財団上席研究員

拡大米ホワイトハウスで記者からの質問に答えるトランプ米大統領=2018年10月2日、ワシントン

 2018年6月2日、トランプ大統領は、ツイッターで「貿易戦争に負けるわけにはいかない」と述べた。トランプ大統領の言葉どおり、米国は中国に対する経済的圧力を強めている。米通商代表部(USTR)は「中国による知的財産権の侵害」を理由として世界貿易機関(WTO)に提訴し、米通商法301条を発動して中国からの輸入品に追加関税を課し始めたのだ。

 2018年7月6日には第1弾を発動して自動車やロボットなど818品目340億ドル相当の輸入品に、同年8月23日には第2弾を発動して半導体やプラスチックなど279品目160億ドル相当の輸入品に、25%の追加関税を課した。さらに、9月24日から第3弾として、コメや繊維など6000品目近くの2000億ドル相当の輸入品に10%の追加関税を課した。

拡大ホワイトハウスのローズガーデンで演説するライトハイザー米通商代表(右)。左後ろはトランプ米大統領=2018年10月1日、ワシントン

 中国は、米国のこれら措置に対抗策をとっている。米国の第1弾に対抗して大豆を含む農産品や自動車など545品目340億ドル相当、第2弾に対抗して自動車関連製品や鉄鋼製品など333品目160億ドル相当の米国からの輸入品に対して25%の関税を課したのだ。そして、米国の第3弾の措置に対して、液化天然ガスや中型航空機など5207品目600億ドル相当の輸入品に対して、5~25%の関税を課した。

中国に手詰まり感

 中国は、表面上、対米強硬姿勢を崩さないが、微妙な変化も見え始めている。同年8月6日、人民日報は、「米国は中国との貿易摩擦をエスカレートさせ、国際貿易を『ゼロサムゲーム』にした」と指摘し、トランプ大統領の通商政策を激しく批判する論説を掲載した。それまで、米中貿易摩擦が過熱してもトランプ大統領個人を名指しで非難するのを避けてきた中国が、その態度を変えたのだ。中国の対抗措置を見ると、中国は米国と対等に渡り合っているように見える。また、中国メディアには、米中貿易戦争の影響は重大ではないとする論調も見られる。

 しかし、こうした強気の態度とは裏腹に、中国には手詰まり感もうかがえる。米国の第3弾の対象が2000億ドルであったのに対し、中国は600億ドル分の報復リストしか示せなかった。トランプ政権の制裁対象は、第1~3弾を合わせて2500億ドルに上るが、中国からの年間輸入総額の半分に過ぎない。一方の中国の制裁対象は計1100億ドルで、米国からの輸入総額の8割を超した。米国はまだ貿易戦争を継続する余裕があるが、中国は反撃する手段が底をつき始めているように見えるということだ。

 もちろん、貿易はそれほど単純なものではない。しかし、「中国には撃ち返す弾がなくなる」というイメージは、中国指導部の権威を失墜させかねない。さらに、習近平政権にとって大きな打撃となったのは中興通迅(ZTE)の件だ。

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筆者

小原凡司

小原凡司(おはら・ぼんじ) 笹川平和財団上席研究員

1985年 防衛大学校卒業、1998年 筑波大学大学院(地域研究)修了(修士)。1985年に海上自衛隊入隊後、回転翼操縦士として勤務。2003年~2006年 駐中国防衛駐在官、2006年 防衛省海上幕僚監部情報班長、2009年 第21航空隊司令。2011年 IHS Jane’s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャーを経て、2013年に東京財団研究員。2017年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバートゥエンティワン)、『曲がり角に立つ中国』(NTT出版)など。