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中国人初のインターポール総裁が突然消えた

中国公安エリートの失脚。妻は「夫が私の目の前で話すこと以外、何も信じない」

古谷浩一 朝日新聞論説委員(前中国総局長)

フランスから中国へ一時帰国、行方不明に

拡大インターポール本部ビル=2011年3月、フランス・リヨン(Elsa Cadier撮影)
 なぜこんな話をしたのかと言うと、ICPOで初の中国人トップとなった中国公安次官、孟宏偉総裁(64)が、ICPOの本部があるフランスから中国に一時帰国した後に行方不明になるという前代未聞の事件が起きたからだ。

 中国当局は行方不明から10日以上が過ぎてから、孟氏を汚職容疑で取り調べていると公表したが、この間、孟氏の家族に対しても、取り調べの事実について連絡しない(あるいはさせない)といった、相変わらずの強引な手法をとった。

 最近、中国の有名女優である笵冰冰(ファン・ビンビン)さんの脱税容疑の事件でも、国際社会で笵さんの「失踪」が大きな話題となったにもかかわらず、中国当局は取り調べの事実自体をなかなか認めなかった。

 国際機関のトップや有名女優がある日突然、姿を消す。なんとも異様な状況である。

 中国の友人から「中国のイメージを悪くするような記事はやめてくれ」と言われることがあるが、犯罪容疑者の拘束の事実について、家族からの確認にも応じないといった人権意識の低さがあらわになる方が、はるかに深刻に中国のイメージを損なっていると私は思う。

妻の携帯に届いた刀の絵文字

 話がずれてしまった。ICPO総裁の孟氏の失脚話に戻る。まず事実関係を整理しよう。

 孟氏が一時帰国で中国に向かったのは9月下旬のことだった。フランスに残った妻が記者会見で語った内容によると、9月25日、突然、孟氏から妻の携帯にショートメールで「私からの電話を待て」という短いメッセージが入ったという。

 さらに4分後には、刀の絵文字も送られ、電話もかかってきた。妻はそれを取り損ねてしまったという。孟氏は何とか自らの緊急事態を妻に伝えようとしたのだろうか。

 AP通信によると、その1週間ほど後、妻の携帯に中国語を話すナゾの男から電話があったという。男は「何も言わずに話を聴け。我々はお前のために2チームを派遣した。お前がどこにいるか知っているぞ」と妻を脅したという。

 恐怖を感じた妻は10月7日に記者会見を開いた。そして、その会見の1時間後、つまり中国時間の10月7日深夜、中国の国家監察委員会は孟氏を汚職の容疑で取り調べていることを公式サイト上で認めた。また、ほぼ時期を同じくして、ICPO側も、孟氏本人から総裁の辞表を受け取ったことを明らかにした。

 翌8日には中国公安省が、同日早朝に趙克志・公安相が幹部会議を開いて孟氏が賄賂を受け取っていたことを報告した、と発表。収賄罪などに問われて無期懲役の判決を受けて服役中の周永康・元共産党中央政法委員会書記の名前をあげ、「周永康が流した毒の影響を徹底的に粛清しなければならない」と訴えた。

 間接的ではあるが、孟氏の取り調べ理由が周氏との関係にかかわるものであることを示したものだ。

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筆者

古谷浩一

古谷浩一(ふるや・こういち) 朝日新聞論説委員(前中国総局長)

1966年生まれ、神奈川県出身。1990年、朝日新聞社に入社。前橋支局、大阪本社社会部、東京本社経済部などを経て、上海、北京、瀋陽で特派員に。2012年1月から2013年8月まで東京本社国際報道部次長。2013年9月から2018年1月まで中国総局長。2018年4月から国際社説担当の論説委員。 1993年から1994年まで中国・南京大学、1997年から1998年まで韓国・延世大学でそれぞれ留学研修。

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