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立憲的改憲論に批判的な人たちへ

安倍改憲は阻止したいけど立憲的改憲論には批判的な人たちへ(上)

倉持麟太郎 弁護士(弁護士法人Next代表)

まるでいない敵をたたくシャドーボクシング

 立憲的改憲というプロジェクトに対する批判の矢を最初に飛ばしたのが、長谷部恭男早稲田大学教授である。

 長谷部教授は、元東京大学教授であり、学会や法律家共同体を中心とした言論界には大きな影響力のある方であるだけに、この批判は検討すべきであるし、誤解や誤導を含むものであれば、きっちりと反論し、より良い議論のために争点の“歪み”をただす必要がある。

 まず、この批判は、果たして立憲的改憲への批判なのかが判然としない点がある。というのも、立憲的改憲が主張していない内容について、「立憲的改憲とは●●という主張だが、問題があります。」といった批判をしているのだ。

 もし、ある料理屋の看板メニューのハンバーグのソースが「おろしポン酢」しかないのに、「この店のハンバーグのデミグラスソースは●●という欠点がある」と批判されたらどうだろう。おそらくその料理屋も困惑し、強く抗議するだろう。「うちにそんなメニューはない」と。これはもう、“風評被害”のたぐいである。

 ここではこれを、そこにいない敵に対して拳を向けることになぞらえて、「シャドーボクシング」と呼びたい。

 くわえて誤導的だと感じるのが、立憲的改憲が安倍改憲と同様の危険がある、という趣旨の指摘がなされていることだ。これは何らかの「結論」から逆算した指摘だと考えられ、ある別の動機が見え隠れする。具体的に言えば、現在の政治状況で主張される改憲論は、すべて悪として葬り去ろうという運動論的な「結論」から逆算しているのである。

 この立論が秋波を送るのは、長谷部教授と同様の論陣を支持する人びとであり、その人びとから最も支持を得ることができるという運動論的な動機がある。すなわち、最凶最悪の安倍改憲と同じ欠点があるとすれば、その改憲論は中身を精査することなく、一方的に非難することができる。これは、中身や論理に目を向けさせない、運動論としての誤導であり、フェアではない。

ポジティブリストではない立憲的改憲論の9条論

衆議院憲法審査会において意見陳述をする長谷部恭男氏=2015年6月4日、国会拡大衆議院憲法審査会において意見陳述をする長谷部恭男氏=2015年6月4日、国会

 次に、その批判の中身を吟味していこう。

 長谷部教授によれば、「自衛隊のできることを『ポジティブリスト』として、一つ一つ憲法に書き込もう、その方が明確になる、と主張する政治家やグループがいます」として、立憲的改憲論とおぼしき考え方についてまとめておられる(以下、長谷部恭男著『憲法の良識』朝日新聞出版)。

 以下、こう続く。

 「しかし、九条の規定を明確にすれば安全だ、という考えは、じつは危険をともなうと私は思います。このような改正を提案した人は、本来であれば自衛隊法などのふつうの法律に書くべきことを、憲法の中に一つ一つ書くことについて、いわゆる『限定列挙』のつもりで提案しているのかもしれません。限定的にとどめることで、それ以外の自衛隊の活動はあり得ない、と釘を刺しているつもりでしょうけれど、いったんそういう条文ができてしまうと、政府の側としては、拡大して理解しようとするものです」

 まず、自衛隊のできることをポジティブリスト方式で規定すると指摘する点。立憲的改憲論は、「自衛隊」の活動範囲ではなく、「自衛権」の発動要件を規律するものであり、個別に自衛隊の任務を限定列挙するというものではない。

 基本的には、我が国が9条のもとで許されている、専守防衛の理念に基づく制限された個別的自衛権の発動要件たるいわゆる旧3要件(①我が国に対する急迫不正の侵害があり、②これを排除するために他の取りうる手段がない場合、③必要最小限の範囲内で自衛の措置をとれる)をもとに、自衛隊が戦力であることを真正面から認め(正当化)、コントロールしよう(統制)というコンセプトである。

 さらに、旧3要件とは、自衛権の発動要件であるから、開戦の要件であり、自衛隊の任務を列挙するものではない。

 ポジティブリストという用語の対義語は、自衛隊が「できない事項・禁止事項」を列挙し、それ以外はできるとする「ネガティブリスト」である。だが、自衛権発動要件=開戦の要件は、自衛隊の任務の禁止事項と、ポジとネガの関係にない、次元を異にする概念である。そもそも旧3要件をポジティブリストと呼ぶこと自体が、ネガティブリストとの関係を含めても、用語上、失当なのではないだろうか。

 要するに、立憲的改憲論にはポジティブリストの危険性があるという批判については、どこか国の官房長官風に言えば、「その批判はあたらない」ということになる。

 

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筆者

倉持麟太郎

倉持麟太郎(くらもち・りんたろう) 弁護士(弁護士法人Next代表)

1983年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事、弁護士法人Next代表弁護士。ベンチャー支援、一般企業法務、「働き方」などについて専門的に取り扱う一方で、TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーター、衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考人として意見陳述、World Forum for Democracyにスピーカー参加、米国務省International Visitor Leadership Programに招聘、朝日新聞『論座』レギュラー執筆者、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(憲法)など多方面で活動。共著に『2015年安保 国会の内と外で』(岩波書店)、『時代の正体 Vol.2』(現代思潮新社)、『ゴー宣〈憲法〉道場』(毎日新聞出版)、著書に『リベラルの敵はリベラルにあり』(ちくま新書)がある。

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