第2章 ハングルは怖くない 3.「ン」の書き方・読み方は3種類
2018年10月27日
先日、久しぶりに東京都内の新大久保駅前を散歩してきました。
コリアンタウンとしての活気がすっかり戻ったばかりか、「ここはソウルの繁華街・明洞(ミョンドン)か?」と勘違いするぐらい、食堂や衣料品、ホットドッグの店があふれていました。イケメングループが終日ショーを繰り広げる「ショー・ボックス」も盛況でした。
ソウル市場という最大のスーパーでも、キムチや冷凍食品に買い物客が殺到し、人混み嫌いの私はぐったり疲れました。冒頭の写真は、ソウル市場近くの狭い歩道を行き交う人たちです。BTS(防弾少年団)など人気グループのグッズや本場の味を求める若者が目立ちました。初めて来たというカップルが「ここ、日本なのに外国みた~い」と驚いていたのが印象的でした。
ひと昔前は、来日した韓国人が韓国語だけで暮らせる場所、あるいは韓流好きのおばさんが押し寄せる街という印象でしたが、大観光地に変貌を遂げていて、街という生き物の変幻自在ぶりを実感した日でした。ハングルと日本語の看板が乱立していて、「にわかん」のちょうどこのあたりまで読んでいただいた方には、ぴったりの教科書にもなっています。いつか、みなさんと一緒に歩き回りたいですね。サムギョプサルもほおばって。
さて、本題に入りましょう。先々週あたりから、なんだか急に難しくなったなあと感じている人もいらっしゃるかもしれません。
なにせ総本山のハングルへの挑戦なのですから、ここだけは仕方ありません。むしろ、最大の壁の突破が近い、ジェットコースターでいえば下る前の最高地点にさしかかったと思ってください。九九の暗算表のような、ばかに大きい反切表も忘れてください。韓国語に接する限り、ハングルは必ず目に入るわけですから、基本的な形はそのうち嫌でも覚えてしまいます。
今回は、日本語の「ン」にあたる韓国語の話です。韓国語では「ン」にあたる発音が3種類あります。「ヌ=ㄴ」のほか、「ング=ㅇ」「ム=ㅁ」に分かれます。
この区別はけっこう重要です。なぜかというと、まず韓国人がこの違いに敏感だからです。
さらに、韓国語では名詞の次に助詞がきたり、複数の漢字語が連なったりするような場合に、最初の言葉のパッチム(終声音)と次の言葉をつなげて読むことがあります。後の言葉は、前の「ン」の影響を受けるので、「ヌ」「ング」「ム」の違いは文章の発音全体に影響が及びます。
分かりやすく、元大統領2人の名前で考えてみましょう。
先の大統領は今、大変なことになっていますが、朴槿恵さんでした。一文字ずつ発音すると、「パク・クン・ヘ(パク・クヌ・ヘ)」、でも、全体の発音は「パク・クネ」です。極端なことをいえば「パククンヘ」と言っても通じません。それは朴槿恵の「槿」が「クヌ(근)」で「恵」が「ヘ혜」で、韓国語の子音「h」は弱く発音するので「ヌㄴ」と「エㅖ」が合わさって「ネ」になるからです。
その父親も大統領でした。朴正熙さんでしたよね。一文字ずつの発音は「パク・チョン・ヒ(パク・チョング・ヒ)」。でも、続けて読んでも「パクチョンヒ」。「パクチョニ」ではないのです。なぜかといえば、「正」は日本語で表すと「チョン」であっても「チョヌ」ではなく「정チョング」だから、後の「희ヒ」とはつながらないからです。
ちょっと寄り道⑩ 日本語でも3種類の「ン」を使い分けている
私は留学して約2カ月間、「ン」の種類の違いに気づきませんでした。「無いのだけど…」という時に「オムヌンデ…」と言いますが、語学の授業で「オンヌンデ」と繰り返していたら、韓国人の先生から「あなたの発音はクラスで一番ひどい」と指摘されたのです。どこがどう悪いのか説明してくれません。そのうちに違いが分かってきて「オムヌンデ」と「ム」を強調して言ってみたら、「あなたがクラスで一番発音がきれい」と突然評価が変わりました。これも理由を説明してくれません。自分の理解が進んだのは嬉しかったのですが、もし日本語の得意な先生で、日本人が理解しにくい「ン」の違いを易しく教えてくれたら、迷いが少なかったのになあ、と思ったものです。劣等生から優等生に豹変した「ン」の教訓は、いつまでも頭に残っています。
普通の教本なら「三つのンを覚えましょう」というところでしょうが、私は逆だと思っています。日本の「ン」の表記がたまたま1種類しかない方が特徴的で、実際は私たちも知らず知らずのうちに3種類の「ン」を使い分けているのです。
例えば、朝日新聞の英語表記は「Asahi Shimbun」としています。そのまま読むと「シンブン」でなく「シムブン」です。両方を口で唱えてみてください。ほとんど違いがないことに気づくでしょう。「シンブン」も「シムブン」も、「b」の直前で唇を閉じることには変わりありません。
今度は「リンゴ」と言ってみてください。この「ン」は「ング」に近くなります。これでいいのです。「ング」の発音を新たに勉強する必要はないのです。
同じように、「懇親(こんしん)」と言う時に、知らず知らずのうちに2つの「ん」は「ヌ」に近くなっています。一方で、「懇願(こんがん)」という時には「ング」に近くなっています。同じ「懇」でも語尾が微妙に違うのです。日本語から逆に考えると、いろいろな「ン」を日本語は一つにまとめすぎてしまっている、韓国語はそれぞれ表記を区別しているとも言えるのではないでしょうか。
では実際、「ン」のついた韓国語をどう覚えていきましょうか?
選挙(せんきょ)=선거(ソヌゴ)
健康(けんこう)=건강(コヌガング)
感気(かんき:風邪の意味です)=감기(カムギ)
やれやれ、いろんな「ン」を覚えなければならないのか…と思った方々に朗報! 一定の法則を発見しました。
誰かがとっくに発見していた法則だと思いますが、私が何かを参考にしたわけではありません。ここで披露します。
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