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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(7)

第2章 ハングルは怖くない 3.「ン」の書き方・読み方は3種類

市川速水 朝日新聞編集委員

「ン」の発音は3種類。韓国人はこの違いに敏感です!

 さて、本題に入りましょう。先々週あたりから、なんだか急に難しくなったなあと感じている人もいらっしゃるかもしれません。

 なにせ総本山のハングルへの挑戦なのですから、ここだけは仕方ありません。むしろ、最大の壁の突破が近い、ジェットコースターでいえば下る前の最高地点にさしかかったと思ってください。九九の暗算表のような、ばかに大きい反切表も忘れてください。韓国語に接する限り、ハングルは必ず目に入るわけですから、基本的な形はそのうち嫌でも覚えてしまいます。

 今回は、日本語の「ン」にあたる韓国語の話です。韓国語では「ン」にあたる発音が3種類あります。「ヌ=ㄴ」のほか、「ング=ㅇ」「ム=ㅁ」に分かれます。

 この区別はけっこう重要です。なぜかというと、まず韓国人がこの違いに敏感だからです。

 さらに、韓国語では名詞の次に助詞がきたり、複数の漢字語が連なったりするような場合に、最初の言葉のパッチム(終声音)と次の言葉をつなげて読むことがあります。後の言葉は、前の「ン」の影響を受けるので、「ヌ」「ング」「ム」の違いは文章の発音全体に影響が及びます。

 分かりやすく、元大統領2人の名前で考えてみましょう。

 先の大統領は今、大変なことになっていますが、朴槿恵さんでした。一文字ずつ発音すると、「パク・クン・ヘ(パク・クヌ・ヘ)」、でも、全体の発音は「パク・クネ」です。極端なことをいえば「パククンヘ」と言っても通じません。それは朴槿恵の「槿」が「クヌ(근)」で「恵」が「ヘ혜」で、韓国語の子音「h」は弱く発音するので「ヌㄴ」と「エㅖ」が合わさって「ネ」になるからです。

 その父親も大統領でした。朴正熙さんでしたよね。一文字ずつの発音は「パク・チョン・ヒ(パク・チョング・ヒ)」。でも、続けて読んでも「パクチョンヒ」。「パクチョニ」ではないのです。なぜかといえば、「正」は日本語で表すと「チョン」であっても「チョヌ」ではなく「정チョング」だから、後の「희ヒ」とはつながらないからです。

ちょっと寄り道⑩ 日本語でも3種類の「ン」を使い分けている
 私は留学して約2カ月間、「ン」の種類の違いに気づきませんでした。「無いのだけど…」という時に「オムヌンデ…」と言いますが、語学の授業で「オンヌンデ」と繰り返していたら、韓国人の先生から「あなたの発音はクラスで一番ひどい」と指摘されたのです。どこがどう悪いのか説明してくれません。そのうちに違いが分かってきて「オムヌンデ」と「ム」を強調して言ってみたら、「あなたがクラスで一番発音がきれい」と突然評価が変わりました。これも理由を説明してくれません。自分の理解が進んだのは嬉しかったのですが、もし日本語の得意な先生で、日本人が理解しにくい「ン」の違いを易しく教えてくれたら、迷いが少なかったのになあ、と思ったものです。劣等生から優等生に豹変した「ン」の教訓は、いつまでも頭に残っています。
 普通の教本なら「三つのンを覚えましょう」というところでしょうが、私は逆だと思っています。日本の「ン」の表記がたまたま1種類しかない方が特徴的で、実際は私たちも知らず知らずのうちに3種類の「ン」を使い分けているのです。
 例えば、朝日新聞の英語表記は「Asahi Shimbun」としています。そのまま読むと「シンブン」でなく「シムブン」です。両方を口で唱えてみてください。ほとんど違いがないことに気づくでしょう。「シンブン」も「シムブン」も、「b」の直前で唇を閉じることには変わりありません。
 今度は「リンゴ」と言ってみてください。この「ン」は「ング」に近くなります。これでいいのです。「ング」の発音を新たに勉強する必要はないのです。
 同じように、「懇親(こんしん)」と言う時に、知らず知らずのうちに2つの「ん」は「ヌ」に近くなっています。一方で、「懇願(こんがん)」という時には「ング」に近くなっています。同じ「懇」でも語尾が微妙に違うのです。日本語から逆に考えると、いろいろな「ン」を日本語は一つにまとめすぎてしまっている、韓国語はそれぞれ表記を区別しているとも言えるのではないでしょうか。

 

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

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