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内部から批判続々 トランプ政権の危うい実態

それでも共和党支持者はメディアよりもトランプ氏を支持

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

真剣に検討されていた北朝鮮への先制攻撃

ボブ・ウッドワード氏の近著「FEAR(恐怖)」は販売直後から反響を呼んだ拡大

 ボブ・ウッドワード氏は、ニクソン元大統領を辞任に追い込む「ウォーターゲート事件」を暴いたベテラン記者として知られている。ほかの歴代大統領についても『ブッシュの戦争』(日本経済新聞出版社)、『オバマの戦争』(同)などの内幕本があり、関係者への綿密な取材ぶりからウッドワード氏に対するワシントン政界の信頼性は極めて高い。

 ウッドワード氏は「ディープ・バックグラウンド」という取材手法を用いている。これは、誰が取材に応じて話したかという点は取材源の秘匿のために明らかにしないかわり、話された事実関係については書いて良いというものである。ウッドワード氏は今回、関係者たちから数百時間のインタビューを行い、そのほとんどを録音して保存しているという。

 そのウッドワード氏の近著『FEAR』は、米朝間で一触即発の緊張が高まった昨年、秘かに政権内で北朝鮮への先制攻撃計画が練られたことを明らかにしている。(太字部が『FEAR』の要約部分)

 トランプ氏は就任1カ月後の2017年2月、米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長に対し、北朝鮮への先制攻撃計画をつくるよう指示をした。ダンフォード氏が当時、共和党の重鎮グラム上院議員に体を震わせながら打ち明けたという。
 同年10月には、北朝鮮と地形が似ている米ミズーリ州のオザーク高原で、爆撃機を使った空爆のシミュレーションが行われた。訓練では同年4月にアフガニスタンで過激派組織「イスラム国」(IS)の地下施設を破壊するために投下された大型爆弾も使われたという。米ホワイトハウス内では、マクマスター大統領補佐官(当時)が強硬派であり、「もし大統領が(北朝鮮を)攻撃するならば、北朝鮮が核ミサイル兵器の技術を向上させる前が良い」と主張していたという。

 『FEAR』には具体的な作戦名は記載されていないが、政権内で検討されていた先制攻撃計画は「鼻血(Bloody Nose)作戦」と呼ばれていた。当時の報道によれば、ビクター・チャ元米国家安全保障会議(NSC)アジア部長が次期駐韓大使に選ばれていたが、「鼻血作戦」に反対の意向をホワイトハウス側に伝えたため、18年1月に入って人事案は突然白紙となった経緯もある。

 筆者がのちにチャ氏にインタビューしたところ、チャ氏は米政府当局者に「非公式」に攻撃反対の考えを伝えたことを認めたうえで、北朝鮮への先制攻撃は「数百万人の日本人、韓国人に加え、数十万人の米国人の命を危険にさらす恐れがある。非常に危険だ」と警鐘を鳴らした。チャ氏が自身の人事が白紙になるリスクを冒してまで反対の意思を伝えなければいけないほど、ホワイトハウス内ではトランプ氏が指示した先制攻撃計画は真剣に検討されていたと言える。

ビクター・チャ元国家安全保障会議アジア部長=2018年4月21日、ワシントン拡大ビクター・チャ元国家安全保障会議アジア部長=2018年4月21日、ワシントン

在韓米軍駐留に疑問を抱くトランプ氏

 『FEAR』ではまた、大統領選中に在韓米軍の撤退を示唆したトランプ氏が、就任後も在韓米軍を「無駄なコスト」ととらえ、米軍の前方展開という基本戦略そのものに疑問を呈する姿も描かれている。

 18年1月、ホワイトハウスの地下シチュエーションルーム(危機管理室)で国家安全保障会議(NSC)が開かれた。そこでトランプ氏は「朝鮮半島に大規模な軍隊を維持して我々は何を得られるのだ」「台湾を守ることで何を得られるのだ」と疑問を呈した。これに対し、マティス国防長官は「我々は第3次世界大戦を防ぐためにこれをやっているのです」と答えた。ところが、トランプ氏は納得しない。「我々は韓国や中国の貿易で巨額のカネを失っているじゃないか。むしろ自分の国のためにカネを使う方が良い」。トランプ氏の退室後、マティス氏は自身に近い人物にトランプ氏の振る舞いと理解力は「小学5、6年生並みだ」と憤った。

 トランプ氏は近く行われる2回目の米朝首脳会談で、北朝鮮の要求する朝鮮戦争の終戦宣言に応じるという公算が米政府関係者の間で強まっている。終戦宣言は政治的な宣言に過ぎないが、北朝鮮には在韓米軍駐留の根拠を揺るがせ、将来的には朝鮮半島から米軍を撤退させるという思惑があるとみられる。

 一方、『FEAR』で明らかになったように、実はトランプ氏は現在もコスト面から在韓米軍駐留に疑問を持ち続けており、将来的な在韓米軍の撤退については正恩氏の思惑と一致するという点は注意が必要だ。

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筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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