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片山大臣! 地方創生は需要と供給で考えて

片山さつき地方創生大臣はローマの賢帝・ハドリアヌス帝になれるか

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

記者会見する片山さつき地方創生相=2018年10月19日、東京・永田町記者会見する片山さつき地方創生相=2018年10月19日、東京・永田町

地方衰退の最大の問題は少子高齢化

 安倍新内閣が発足し、柱の一つとして地方創生を掲げ、地方創生大臣に片山さつき氏が就任しました。

 前稿の「リベラルが安倍政権から学ぶべきこと」と同様、今の私(ああいうかたちで、4月末に新潟県知事を辞めた)が何かを言うことは、非常に気が引けるのですが、しかし、短い期間とはいえ、知事として地方自治の現場に身を置き、その現実を見たものとして、一言申し上げさせていただきたいと思います。

 さて、いうまでもないことですが、現在の地方衰退の最大の問題は少子高齢化です。たとえば私が知事を務めた新潟県の人口は現在毎年0.8%程度減少しており、このままいけば30年で25%の人口減となります。

 さらに、地方では全国平均以上に少子高齢化が進み、「生産年齢人口(15~64歳)」については、たとえば新潟県なら毎年なんと1.8%減、わずか30年で半数を超える53%の生産年齢人口が失われるという、超高速縮小のただなかにあります。そして、この「生産年齢人口」に限って言えば、今すぐ合計特殊出生率が終戦直後の4.5に跳ね上がったとしても、少なくとも今後15年間は上昇しえないことが確定しています。

需要の拡大を目指す地方創生政策

 少子高齢化は、経済的には「需要」と「供給」双方の減少を意味しますが、社会的、行政的には、様々な福祉需要のある高齢者世代が増え、それを支える勤労世代が減りますから、「需要」が増え、「供給」が追いつかない状況をきたします。

 つまり、これから日本、とりわけ地方は、経済、社会、行政をトータルで見た時、需要に比較して大きな「供給不足」に直面することになります。

 ところが、少子高齢化に対する地方創生政策は、実は少なくとも一時的には「需要の拡大」を目指したものがほとんどなのです。大型公共事業による地域経済の活性化や観光やイベントによる誘客はその典型でしょう。

 これらの、需要拡大型地方創生策は、まず「需要の拡大」を実現したうえで、雇用の拡大をはかり、そこに人が集まって人口の社会増、ひいては人口の自然増につながり、最終的に供給が拡大していくというプロセスを思い描いています、すなわち、「需要の拡大」→「雇用の拡大」→「人口の社会増」→「人口の自然増」→「供給の拡大」という循環で、少子高齢化に対応しようしているのです。

社会、行政面の供給不足の悪化を招く

 いくつかの輝かしい成功例があることは否定しませんが、これらの需要拡大型の地方創生策のほとんどは、現在までのところ、少なくともトータルとして成功していません。それどころか、実態として見た場合、需要拡大型地方創生策はむしろ地方を疲弊させ、地方の衰退を加速している可能性すらあります。

 理由はシンプルです。「需要の拡大」はできても、「需要の拡大」→…→「供給の拡大」の実現は難しいか、少なくとも長い時間がかかるために(勤労人口が増えるには15年、20年の時間がかります。)、「需要の拡大」が、少なくとも短期的には、地方の社会、行政面における供給不足を悪化させてしまうからです。

 たとえば地方で大型の公共投資をすれば、その工事の期間はもちろん需要が増えます。しかし、その地域の人口の社会増は、人口移動でもたらされたものに過ぎませんから、他産業や周辺の地域はより一層働き手を取られて、働き手不足に直面します。行政も他分野に回す予算を削らざるを得ませんから、公共投資以外の分野―その多くは福祉の分野です―の供給は不足することになります。しかも大型インフラは、「維持費」という新たな需要をさらに長期にわたって生じさせます。

 この状況は観光イベントも同じです。一時的に観光客でにぎわっても、観光客が地域における働き手になってくれるわけではありませんから、イベント以外にまわす人手とリソースが不足する状況は全く変わりません(それらが個別の対策として効果があることを否定するものではありませんし、それらに携わっている関係者の方々の努力を否定するものでもありません)。

 少々陰気なたとえになって恐縮ですが、これは、太平洋戦争において、急激に拡大した戦線に兵站(へいたん)の供給が追い付かない状態で膠着(こうちゃく)した戦況を打開するために、起死回生の策に打って出て、かえってさらなる戦線の拡大と兵站の供給不足を招いた旧日本軍の姿と、どこか重なります。

地域おこしなどを話し合う「まち・ひと・しごと創生会議」であいさつする安倍晋三首相(左側手前から3人目)=2017年12月18日地域おこしなどを話し合う「まち・ひと・しごと創生会議」であいさつする安倍晋三首相(左側手前から3人目)=2017年12月18日

「戦線縮小」と「兵站強化」しかないが……

 では、どうすればいいでしょうか?

 「地方における需要に対する供給力の不足」という現状を直視するなら、対策は「需要の縮小」と「供給の拡大」しかありません。先の太平洋戦線の例にたとえるなら、「戦線の縮小」と「兵站の強化」ということです。

 しかし、この二つは極めて大きな政治的困難を伴います。

 「需要の縮小」とは、地方における社会、行政需要を、現在進行形で減少しつつある人口のレベルで維持できるものに、統合・縮小していくことです。そのシンボリックなものが学校の統廃合で、すでにそれ以上の公共インフラの統合・縮小を進めている自治体もあります。

 しかし、太平洋戦争を持ち出すまでもなく、人間は一度得たものを失うことに極めて大きな喪失感を抱きます。学校、病院、地域、インフラ、地域……。一度広がり、一度得たこれらの社会的リソースを、現在と未来の労働人口で無理なく支えられる規模に統合・縮小していくことは、極めてネガティブな感情と、強固な反対論に直面することになります。

 実のところ、我々はこの喪失感から目を背けるために、失敗しても失敗しても、従来型「需要拡大型地方創生策」による一発逆転の夢を繰り返してきたといえるのかもしれません。

「いったん引く」を選択できるか

 しかし、その先に待っているものは恐らく、太平洋戦争と同じ、地域社会の急激な破綻です。30年後に現在の50%になっている生産年齢人口で、現在と同じどころか、さらに拡大させた需要を維持することは絶対にできません。

 地域の維持のためにこそ、「いったん引く」という選択をできるか否か。様々な社会、行政需要を、現在、そして将来の人口のレベルで維持できるものに統合・縮小するという、一見後ろ向きの目的のために政策と制度を作り、予算とリソースを投下していくことができるか否か。そして、その一見後ろ向きの政策の必要性を正しく伝えながら、地域の現状に即したきめの細かい調整で、有権者にそれを納得してもらうことができるか否か。それこそが、実のところ、地方創生が成功するための本当の鍵であると、私は思います。

 それをするには、勇ましく突撃ラッパを吹くよりも、ずっとずっと地域に寄り添った、しかし決断力に富んだリーダーシップが必要になるのです。

将来を見据えた「供給の拡大」も

 それと同時に、我々は

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