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片山大臣! 地方創生は需要と供給で考えて

片山さつき地方創生大臣はローマの賢帝・ハドリアヌス帝になれるか

米山隆一 前新潟県知事。弁護士・医学博士

社会、行政面の供給不足の悪化を招く

 いくつかの輝かしい成功例があることは否定しませんが、これらの需要拡大型の地方創生策のほとんどは、現在までのところ、少なくともトータルとして成功していません。それどころか、実態として見た場合、需要拡大型地方創生策はむしろ地方を疲弊させ、地方の衰退を加速している可能性すらあります。

 理由はシンプルです。「需要の拡大」はできても、「需要の拡大」→…→「供給の拡大」の実現は難しいか、少なくとも長い時間がかかるために(勤労人口が増えるには15年、20年の時間がかります。)、「需要の拡大」が、少なくとも短期的には、地方の社会、行政面における供給不足を悪化させてしまうからです。

 たとえば地方で大型の公共投資をすれば、その工事の期間はもちろん需要が増えます。しかし、その地域の人口の社会増は、人口移動でもたらされたものに過ぎませんから、他産業や周辺の地域はより一層働き手を取られて、働き手不足に直面します。行政も他分野に回す予算を削らざるを得ませんから、公共投資以外の分野―その多くは福祉の分野です―の供給は不足することになります。しかも大型インフラは、「維持費」という新たな需要をさらに長期にわたって生じさせます。

 この状況は観光イベントも同じです。一時的に観光客でにぎわっても、観光客が地域における働き手になってくれるわけではありませんから、イベント以外にまわす人手とリソースが不足する状況は全く変わりません(それらが個別の対策として効果があることを否定するものではありませんし、それらに携わっている関係者の方々の努力を否定するものでもありません)。

 少々陰気なたとえになって恐縮ですが、これは、太平洋戦争において、急激に拡大した戦線に兵站(へいたん)の供給が追い付かない状態で膠着(こうちゃく)した戦況を打開するために、起死回生の策に打って出て、かえってさらなる戦線の拡大と兵站の供給不足を招いた旧日本軍の姿と、どこか重なります。

地域おこしなどを話し合う「まち・ひと・しごと創生会議」であいさつする安倍晋三首相(左側手前から3人目)=2017年12月18日拡大地域おこしなどを話し合う「まち・ひと・しごと創生会議」であいさつする安倍晋三首相(左側手前から3人目)=2017年12月18日

「戦線縮小」と「兵站強化」しかないが……

 では、どうすればいいでしょうか?

 「地方における需要に対する供給力の不足」という現状を直視するなら、対策は「需要の縮小」と「供給の拡大」しかありません。先の太平洋戦線の例にたとえるなら、「戦線の縮小」と「兵站の強化」ということです。

 しかし、この二つは極めて大きな政治的困難を伴います。

 「需要の縮小」とは、地方における社会、行政需要を、現在進行形で減少しつつある人口のレベルで維持できるものに、統合・縮小していくことです。そのシンボリックなものが学校の統廃合で、すでにそれ以上の公共インフラの統合・縮小を進めている自治体もあります。

 しかし、太平洋戦争を持ち出すまでもなく、人間は一度得たものを失うことに極めて大きな喪失感を抱きます。学校、病院、地域、インフラ、地域……。一度広がり、一度得たこれらの社会的リソースを、現在と未来の労働人口で無理なく支えられる規模に統合・縮小していくことは、極めてネガティブな感情と、強固な反対論に直面することになります。

 実のところ、我々はこの喪失感から目を背けるために、失敗しても失敗しても、従来型「需要拡大型地方創生策」による一発逆転の夢を繰り返してきたといえるのかもしれません。

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筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 前新潟県知事。弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

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