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改憲派が高視聴率帯を独占か CMルール野放し

民放連が憲法改正国民投票のCMルールを自主規制しない理由は?

石川智也 朝日新聞記者

10年以上放置されてきたCM問題

 過去のどの国の事例をみても、真っ当な国民投票を実現するためには、①適切な「問い」が国民に提示され、②十分な情報に基づき、ことの本質について自由闊達な議論が交わされ、③公正で公平なルールの下で国民投票運動と投票が行われる――という条件が必要だ。

 ①については、さきに「憲法9条、国民投票で真に問うべきこと(上)憲法9条、国民投票で真に問うべきこと(下)」で取り上げた。CM問題は、理性的な議論と公平なルールの担保をめぐる②③の大きなテーマだが、放送業界も政界も、この問題を10年以上放置してきた。

 国民投票法は、第一次安倍政権下の2007年5月に成立した。公務員の運動規制や最低投票率制などさまざまな問題が積み残しとなり、参院で「施行までに検討」など18もの付帯決議がなされたが、その一つにCM問題があった。こんな内容だ。

「テレビ・ラジオの有料広告規制については、公平性を確保するためのメディア関係者の自主的な努力を尊重するとともに、本法施行までに必要な検討を加えること」

 この付帯決議の理由は、この問題が国会審議でも大きな焦点だったからだ。

 当時の与党と民主党の法案はともに一定期間のCM禁止規定を盛り込んでいたが、放送界は強く反対した。2006年11月、衆院の日本国憲法に関する調査特別委員会小委員会の参考人聴取で、日本民間放送連盟の山田良明・放送基準審議会委員(当時)は、CMの取り扱いについて「自主的判断に任せてもらいたい」と繰り返し訴えた。そのうえで、公平さを担保する仕組みについて「民放連の中で大きな括りとして明確なルール作りは必要」「具体的にあらゆることを想定しながら真摯に検討をしていきたい」と述べた。

 しかし放送界はその後、関西テレビ制作「発掘!あるある大辞典Ⅱ」の捏造問題に追われ、時間切れに。翌年5月の法成立の日、民放連はあらためて「意見広告の取り扱いについては、放送事業者の自主・自律による取り組みに委ねられるべき」との会長名の抗議声明を出した。

 一方、政界の方も、安倍首相の退陣で改憲の機運はしぼみ、国会の憲法審査会も長らく休眠状態だったため、この問題は「検討」されぬまま月日が流れたのだった。

改憲案に直接踏み込まなければ投票日当日のCMも可

 本題に入る前に、CMがなぜ国民投票で問題となるのか、おさらいしておく。

 国民投票法では、国民の活発な議論と自由な意見表明を促すため、改憲案への賛成・反対を呼びかける「国民投票運動」の規制は最小限となっている。通常の選挙では禁じられている戸別訪問や署名運動もできる。だれもがチラシの頒布や集会、街宣カーでの運動を行え、ネットもフル活用できる。裁判官や警察官など一部を除いて公務員も投票勧誘や賛否の表明が認められている。組織的で多人数相手でなければ買収も禁じられていない。活字媒体の広告への規制もいっさいない。

 ただし、放送局を使った広告放送、つまりCMだけは、投票日14日前から禁じられる。14日前から期日前投票が始まるため、特に映像と音声で強い印象を与えるテレビCMの影響が国民に及ばぬよう冷却期間を設けるという趣旨だ。

 逆に言えば、それ以前は流し放題ということ。だれもが広告主となり「9条改正に賛成しましょう」「みんなで反対して否決に追い込もう」といったCMを制作し、放送枠を買いとって流すことができる。

 しかも投票日14日前から禁じられるのは、改憲案への賛成・反対を勧誘する「国民投票運動」のCMのみで、意見表明だけのCMはこれに該当しない。タレントが「私は改憲に賛成です」と宣言したり、あるいは「平和をまもろう」「自主防衛イエス」などと改憲案に直接踏み込まないメッセージを訴えたりする内容のものは規制対象にならず、投票日当日まで流せる。

 社会心理学に「説得的コミュニケーション」という言葉がある。他者の態度変容と行動喚起に関する効果研究の用語だが、ここで類型化されているさまざまな技術と手法はCMの世界でも活用されている。広告は広義には「説得」を狙うものだが、15秒や30秒のテレビCMで実際に多用されているのは「感情の誘発」であり、表情、身ぶり、肉声、効果音など、インフォーマティブというよりアフェクティブな要素による効果がより期待されている。これは我々が、毎日流れる商品CMだけでなく、国政選挙の際の政党CMでも常々目撃していることだ。

 改憲プロセスでは熱狂よりも冷静な議論が求められる。印象操作の力が活字媒体広告よりはるかに強いテレビCMがあふれれば、扇情的メッセージやネガティブキャンペーンによって有権者が半ば洗脳され、改憲案の内容を熟慮することなく軽率な投票をする危険性が生じるのでは――。こうした懸念の声は改憲・護憲両派にまたがり、国会審議でも与野党双方の議員からあがった。

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者

1998年、朝日新聞社入社。社会部でメディアや教育、原発など担当した後、特別報道部を経て2021年4月からオピニオン編集部記者、論座編集部員。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所客員研究員。著書に『さよなら朝日』(柏書房)、共著に『それでも日本人は原発を選んだ』(朝日新聞出版)、『住民投票の総て』(「国民投票/住民投票」情報室)等。ツイッターは@Ishikawa_Tomoya

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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