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愛国心教育の新地平を開く日本会議と森友小学校

永尾俊彦 ルポライター

右翼が妨害する中、日の丸・君が代強制に反対するデモをする教員ら(2017年7月23日、東京銀座周辺)拡大右翼が妨害する中、日の丸・君が代強制に反対するデモをする教員ら=2017年7月23日、東京・銀座周辺、撮影・筆者

大阪では復活している「非国民」

 2012年2月26日、「一般財団法人日本教育再生機構大阪」が主催した「教育再生民間タウンミーティングin大阪」で、首相に返り咲く前の安倍晋三衆議院議員が「(自身がなしとげた)教育基本法の改正と(大阪府の教育基本)条例は、方向性が一致している」「条例はある意味で閉そく状態にあった教育現場に風穴をあけるという、大きな意義がある」と高く評価し、松井一郎府知事と意気投合した。これが森友小学校建設の追い風になる。籠池泰典・森友学園元理事長はこう証言している。

 「あのシンポジウムの後から、大阪でも教育再生、教育再生とのかけ声が高まり、こちらからお声がけせずとも、維新の先生方が私どもの学園に御視察にお越しになるような情勢となったのです。こうした情勢の中、私は、今なら小学校建設が実現するだろうと判断し、大阪府への申請に踏み切りました」(2017年7月10日、大阪府議会臨時本会議)

 籠池氏が言う「こうした情勢」にはどんな背景があったのだろうか。

 安倍議員が評価した大阪府の教育基本条例は、「維新の先生方」などの賛成多数で2012年3月に成立した。同条例は教育行政基本条例と府立学校条例からなる。特に注目すべきは前者で、知事が教育委員会と協議して教育振興基本計画を作成するとし、協議が整わなかったときは、委員会の意見を付して府議会に提出するものとすると定められた。

 また、知事は教育委員会の教育長と教育委員に関する教育目標が自ら行った点検と評価に基づき、地方教育行政法に規定する罷免事由に該当するか否かの判断をするとも規定された。要するに、知事が教育に政治介入できる余地を大きく拡大したのだ。

 高橋哲哉・東京大学大学院教授は、2011年9月24日に大阪で開催された「日の丸・君が代」強制反対ホットライン全国集会でこの条例の狙いを次のように指摘している(筆者注・高橋氏の発言は条例制定前なので「条例案」という言葉になっている)。

 日本の教育は天皇制軍国主義に帰着した戦前の教育システムへの反省から、教育に対する政治と行政の「不当な支配」を禁止して個人の尊重を柱とした旧教育基本法とともに歩んできました。2006年に教育基本法が(第1次安倍政権によって)改悪され、新教育基本法となりましたが、その中でも教育に対する「不当な支配」の禁止は文言としては維持されています。ところが、この教育基本条例案では、教育に対する政治介入の禁止を完全に取り払ってしまおうとしています。
 大阪府の最高権力者たる知事が教育行政を支配し、それを通して教育現場を完全に政治的に支配できるようにすること、それがこの条例案の根本目的であると言わなければなりません」(まるカッコ内は筆者が挿入)

 また、大阪府は「能力と実績に応じた人事を徹底し、意欲と誇りにあふれる職員が府民のために全力を尽くすことができる組織を実現することを目指し」、2012年に職員基本条例を公布、職務命令に3回違反したら免職と規定した。前年2011年には、松井知事の前任の橋下徹府知事が主導して府立学校の教職員に「日の丸」に向かって起立し、「君が代」斉唱を義務付けた全国初の国旗国歌条例が成立しており、起立斉唱せよとの職務命令に3回違反すると職員基本条例で免職とされることになった。これは、俗に「スリーアウト制」と呼ばれ、悪名高い。

 2011年5月7日の幹部職員へのメールで橋下知事はこう書いている(大阪府立高校の教師が、卒業式などでの不起立で処分されたことの取り消しを求めて2012年に提訴した裁判への証拠資料)。

 「君が代の起立斉唱は、府教委の命令事項でもあります。(中略)委員の任免は知事の専権事項であり、委員の任免を通じて、民意を現場に注入します。ということは、府教委の命令に従わないということは、民意無視そのものです。(中略)起立して歌わない教員は、大阪府民への挑戦と捉えます」

 この点が東京都と決定的に違う。「日の丸・君が代」強制反対・不起立処分を撤回させる大阪ネットワーク(以下大阪ネット)の黒田伊彦(よしひこ)代表はこう言う。

 「都立学校の場合、不起立不斉唱は単に都教委が出した起立斉唱を命じた通達に違反しただけです。しかし、府立学校での不起立不斉唱は、府民の負託する府議会によって作られた国旗国歌条例と職員基本条例に反するので、橋下知事が言うように『府民への挑戦』とされるのです。つまり、かつての『非国民』が大阪ではすでに復活しているのです」

 籠池氏は、「かつて人々は国旗に対して親愛の情をいだき、一体感を持って」いたとし、自民党はそういう「モノサシ」をつくれなかったと批判した(インタビューは後日掲載予定。以下同)。

 しかし、「モノサシ」を1本化することは、現代の「非国民」を生み出すことになる。

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筆者

永尾俊彦

永尾俊彦(ながお・としひこ) ルポライター

1957年、東京都生まれ。毎日新聞記者を経てルポライター。1997年の諫早湾の閉め切りから諫早湾干拓事業を継続的に取材。主な著書に『ルポ 諫早の叫び――よみがえれ干潟ともやいの心』(岩波書店)、『ルポ どうなる? どうする? 築地市場――みんなの市場をつくる』(岩波ブックレット)、『国家と石綿――ルポ・アスベスト被害者「息ほしき人々」の闘い』(現代書館)など。