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サウジ記者殺害事件を理解したいあなたへ(前編)

トルコ、サウジ、米国の思惑が絡む複雑な中東情勢を知らずしてこの事件は読み解けない

岩城あすか 箕面市立多文化交流センター 館長

拡大イスタンブールのサウジアラビア総領事館で殺害された「ジャマル・カショギ」氏

殺害されたサウジ記者は様々な顔を持っていた

 イスタンブールのサウジアラビア総領事館で10月2日に殺害されたジェマル・カシュクチュ氏。彼はサウジの名家出身だが、祖先はトルコ系である。本稿ではトルコ語の発音で書きたいと思う。

 日本のメディアで連日報道されている「ジャマル・カショギ」という発音は、かなりおかしい。ジェマル(Cemal)は中東圏の男性によくある名前(アラビア語で「美しい」の意)だが、ジャマルというと「ラクダ」の意味になるので、間の抜けた感じに聞こえる。「カショギ」と呼ばれている苗字は、トルコ語ではカシュクチュ(Kaşıkçı:「匙屋」を意味する)と読む。ジェマル氏の先祖は300年前にアナトリア(小アジア半島)のカイセリからサウジへ巡礼に行き、その後、現地で定着したそうである。

 AFP通信によると、ジェマル氏の親族には、サウジを建国したアブドルアジズ・サウード(Abdul Aziz al-Saud)国王の主治医を務めた祖父ムハンマド(Muhammad Kaşıkçı)や、著名な武器商人のおじアドナン(Adnan Kaşıkçı:2017年6月に82歳で死去)がいる。

 ジェマル氏は、アラブ世界から欧米植民地主義の名残の一掃をめざす「ムスリム同胞団」(Muslim Brotherhood)のイスラム主義的な思想にひかれていたことでも知られる(サウジはイスラム主義諸国のリーダーを自負しており、1980年代以降、対抗馬として存在感を増すイスラム主義組織「ムスリム同胞団」を敵視してきた)。彼はこの思想を通じて、後に国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)を設立するウサマ・ビンラディン(Osama bin Laden)容疑者と親密になったが、1990年代以降、ビンラディン容疑者が欧米に対する武力闘争を呼び掛けるようになると、距離を置くようになったという(こちらの記事参照)。

 若き日のビンラディン容疑者の友人、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」の支持者、サウジ王家の顧問、サウジ政府の批判者、進歩主義者……。ジェマル氏は様々な矛盾した顔を持っていた。

トルコ、サウジ、アメリカの駆け引きが続いている

 トルコメディアによると、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdoğan)大統領は10月23日、ジェマル氏の殺害を意図して特別機でイスタンブールへ派遣されたサウジ人グループが、数日前から犯行を計画していたとの見解を発表。サウジ総領事館内でジェマル氏が殺害される前に、建物の監視カメラのシステムが意図的に解除されていたことも明らかにした。

 3週間以上前の殺人事件に対し、エルドアン大統領は「我々は多くの情報を握っている」と強気の姿勢をみせているものの、その情報は日を追うごとに小出しに発表されてきた。サウジ王室が10月20日にジェマル氏の死亡を認めた後も、トルコの捜査体制に透明・公正さは感じられない。アンカラ、リヤド、ワシントンの3都市間で、事件処理を巡り様々な駆け引きが展開されていることがうかがえる。

 今回の事件の背景には、IS(イスラム国)の弱体化にともない、ますます複雑化する中東情勢が大きくかかわっている。ジェマル氏の殺害を発端とした各国の思惑について、地元メディアの発信からわかってきたことを整理したい。

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筆者

岩城あすか

岩城あすか(いわき・あすか) 箕面市立多文化交流センター 館長

大阪外国語大学でトルコ語を学んだ後、トルコ共和国イスタンブール大学(院)で学ぶため、1997年~2001年イスタンブールで過ごす。通訳やマスコミのコーディネーターをしながら、1999年におきた「トルコ北西部地震」の復興支援事業にもボランティアとして関わる。現在は(公財)箕面市国際交流協会で地域の国際化を促す様々な事業に取り組むほか、重度の障碍者のみで構成される劇団「態変」の発行する情報誌「イマージュ」の編集にも携わっている。

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