サウジ記者殺害事件を理解したいあなたへ(前編)
トルコ、サウジ、米国の思惑が絡む複雑な中東情勢を知らずしてこの事件は読み解けない
岩城あすか 情報誌「イマージュ」編集委員
やりたい放題のサウジ皇太子の背後には常にアメリカがいた

サウジで開かれた国際経済会議で登壇したムハンマド皇太子=2018年10月24日、リヤド
今回の事件の黒幕といわれるのは、サウジのムハンマド・ビン・サルマン(Muhammad bin Salman)皇太子(33)だ。
彼は2015年1月に前国王が死去すると、30歳という異例の若さで国防大臣に任命された。「アラブの春」の余波で勃発したイエメン内戦に、フーシー派(シーア派勢力)をつぶす目的でサウジ軍として介入。同年3月には空爆に踏み切った。
2017年6月には、サウジのサルマン・ビン・アブドゥルアズィズ(Salman bin Abdulaziz)国王が、勅命によりムハンマド・ビン・ナーイフ(Muhammad bin Naif )皇太子を解任。ムハンマド王子が皇太子に昇格し、王位継承者となった。
彼が皇太子になって以降、サウジは混乱続きである。この1年間で、草の根で人権侵害や不当逮捕を訴えていた人々は投獄され、消息を絶ち口封じされた。最近は彼の親族まで(サウジではよくある)汚職などを理由に逮捕され、虐待を加えられているという。当局はそうした逮捕の是非が問われないよう、容疑者たちの親族を力ずくで黙らせ、非公開の秘密裁判をおこなっている。
このような状況の中、サウジ政府を批判し、皇太子の強硬路線を非難し続けていたジェマル氏が狙われたのは必然といえよう。
やりたい放題のムハンマド皇太子の背後には、アメリカの支持が常に存在してきた。アメリカがのぞまなければ、これほど長い間、皇太子が暴走を続けられるわけがない。