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中島岳志の「自民党を読む」(3)安倍晋三

保守への思想的関心よりも、アンチ・リベラルの思いが先行している政治家

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の事務局長に

 1997年には中川昭一さんが代表を務める「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が発足し、安倍さんは事務局長に就任しました。

 この会の記録が書籍となって残されていますが、そこでは歴史教科書問題や慰安婦問題などをめぐって、官僚やリベラル派の政治家、左派的知識人に対する激しい批判が繰り返されています。

 安倍さんの発言(登壇者への質問)を読んでいくと、その大半は慰安婦問題を歴史教科書に掲載することへの批判にあてられています。安倍さんの歴史教育についての思いは、次のことばに集約されています。

 私は、小中学校の歴史教育のあるべき姿は、自身が生まれた郷土と国家に、その文化と歴史に、共感と健全な自負を持てるということだと思います。日本の前途を託す若者への歴史教育は、作られた、ねじ曲げられた逸聞を教える教育であってはならないという信念から、今後の活動に尽力してゆきたいと決意いたします。(日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会編『歴史教科書への疑問』展転社、1997年)

拡大中川昭一氏=2008年8月28日、東京都千代田区
 小学校・中学校では、自国に対する誇りを醸成する教育をしなければならない。まずは、健全な愛国心を養う教育をしなければならない。左翼によって曲解され捻じ曲げられた歴史観を教えてはならない。そう強く訴えます。

 安倍さんは例えとして、子供向けの偉人の伝記を取り上げます。小学生を対象に書かれた偉人伝には、その人物の立派な側面ばかりがつづられています。しかし、実際の人物は様々なネガティブな側面を持っています。酒におぼれたり、家庭の外に愛人を作ったり。この負の部分をどのように伝えるべきか。

 安倍さんは「私もこういう素晴らしい人間になりたいと思わせる気持ちを育成することが大切」なので、まずは立派な部分だけを教えればよいといいます。負の部分を教えると「極めてひねくれた子供が出来上がっていく」のでよくない。人間は複雑な側面を持っているということがよくわかってきた段階で、負の側面を教えればよいので、歴史教育については小学校・中学校・高校と大学のような場所では「それなりに教える内容とか態度が違っていいんじゃないか」と言います。(前掲書:360-361)

 だから、慰安婦問題は歴史教科書で教える必要はない。自国への誇りを持たせるための教育段階では、教科書に掲載する必要などない。

 社会問題になっているから掲載するというのであれば「『援助交際』を載せるつもりがあるのかどうか」(前掲書:93)。性暴力の問題を教えるべきというのであれば、痴漢行為を行って捕まった「ある新聞のある論説主幹」の性暴力はどうなるのか。こちらの方が性暴力の本質なのではないのか。そう主張します。

 さらに元慰安婦の証言には「明らかに嘘をついている人たちがかなり多くいる」と言及し、長年沈黙を続けてきたことへの疑問を述べたうえで、次のように発言しています。

 もしそれが儒教的な中で五十年間黙っていざるを得なかったという、本当にそういう社会なのかどうかと。実態は韓国にはキーセン・ハウスがあって、そういうことをたくさんの人たちが日常どんどんやっているわけですね。ですから、それはとんでもない行為ではなくて、かなり生活の中に溶け込んでいるのではないかとすら私は思っているんです(前掲書:313)

 そして、慰安婦問題を追及する左派知識人への反発を述べます。

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筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

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